リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日本の刑法堕胎罪のオリジンは儒教思想

歴史学者の石崎昇子さんが、「日本の堕胎罪の成立」(歴史評論571号、1997)という論文で、“帝国主義的プロネイタリズム(人口増加策)の一環として仏・独の刑法をまねた”というのが定説である刑法堕胎罪の起源について、反論しています。

石崎さんによれば、堕胎罪は人口増加策ではなかった。日本には、旧刑法以前にも儒教的倫理を強要する可罰的堕胎罪があった(明治政府が刑法制定以前に発布した「新律綱領」がその例)。旧刑法堕胎罪は、その日本的法原理とヨーロッパの胎児生命論に立つ法原理との相剋のうちに制定された――といった主旨です。

つまり、日本の“堕胎罪”は、胎児殺しの罪ではなく、家の継承のために子どもを産む義務の怠慢だったというわけです。だから不貞隠しの場合も厳しく取り締まられた。日本の刑法堕胎罪が、仏・独よりはるかに刑罰が軽かった理由も説明されています。

非常に興味深い論文なのですが、意外に知られていないようなので、もはや10年も前の文献ですがご紹介しておきます。ぜひご覧ください。