リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

テヘラン会議の前に

7月3日の日記に、次のように書きました。

「リプロ」というと、1994年のカイロ会議からと考えられがちだけど、実際にはそれ以前、1968年にテヘランで開催された国際人権会議(テヘラン宣言)に、子どもの数と間隔を自由に、かつ責任をもって決定すること――リプロダクティブ自己決定権――は基本的な人権だと宣言されていたのです。

これよりさらに2年前から、この動きがあったのを知りました。1966年の人口問題に関する共同宣言です。しかもこれ、人口エスタブリッシュメントのひとり、ロックフェラー氏の提唱で始まったものなんですって! 以下、1967年の『人口問題研究』から簡単にまとめてみました。

1967年12月11日、ウ・タント国連事務総長は、世界30か国の首脳が署名した「人口問題に関する共同宣言」を受理。この共同宣言はジョン・D・ロックフェラー3世の提唱によって1966年から準備されたものである。1966年12月10日の国連世界人権宣言記念日に、発展途上国を中心とする11ヵ国の首脳が署名して発表された。1967年12月10日には主要先進国ならびに日本も含む19ヵ国の首脳が署名した。

「人口政策について考慮することは為政者の最も重大な責務である。『政治は人口を増加させることである』という陳腐な格言に代えて『今日の政治は家族を計画し人口超過を調節することである』という格言が行われなければならない」と、披露会の議長を務めたコロンビア大使アヤラ博士は語ったという。

共同宣言の要旨は次のとおり。

世界平和に脅威を与える重大問題は計画なき空前の人口激増である。この問題に積極的関心をもつ政府首脳は次の見解をともにする。
(1)政府が国民の熱望にこたえ、経済発展を遂げるためには人口問題が国の長期計画のおもな要件として認められなければならない。
(2)多くの親がその家族を計画するための知識と方法とを要求しているし、子どもの数と間隔とを決定する機会が与えられることは基本的人権である。
(3)世界平和の保持は多くの部分人口増加の調整に依存する。
(4)家族計画の目的は人間生活を豊かにすることであって、その制限ではない。それは人間を解放してその個人としての尊厳を保持し、その能力を遺憾なく発揮せしめることである。

「家族計画が国としても、家族としても重大なる関心事であることを認め、全世界の指導者が、全世界の福祉の向上のためのこの偉大なる事業に参加することを要望する。」という最後の一文が、報告者である人口問題研究所長舘稔氏のコメントなのか、要旨の一部なのかがよく分からないのだけれども。

いずれにしても、この時点では、「人権」をうたいながらも、国家や世界の指導者が望む人口抑制を達成しようというもくろみがあるのは明らか。ただ、時代的に「国の発展」や「人類の未来」に夢を持てたというのも確かなので、それが個人の幸福とパラレルなものだとみなされていたこと自体は、けっこう無理のない発想だったのかもしれない。

なお、30ヵ国がこの宣言を支持した1967年に、主要西欧諸国の先陣を切ってイギリスが中絶を合法化している。