リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

女性差別撤廃条約に基づく第9回日本政府報告書審査に対する 日本弁護士連合会の報告書

日本弁護士連合会 ~会期前作業部会によって作成される事前質問リストに盛り込まれるべき事項とその背景事情について~

本報告書は,第9回日本政府報告書審査に向けて,2020年3月2日~6日に予定されている国連女性差別撤廃委員会の作業部会において検討される日本政府に対する事前質問リスト(List of Issues Prior to Reporting)に関し,当該事前質問リストに盛り込むべき事項について,当連合会として意見を述べるものである。

https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/international/library/woman/woman_report_9_jp.pdf

7 保健の分野における差別の撤廃(12条)(前回総括所見パラグラフ24,25,36,37,38,39,40)

質問表に盛り込まれるべき質問事項

1 人工妊娠中絶を受けた女性とその施術者を処罰する刑法堕胎罪の規定を削除するための具体的な工程を示されたい。
2 人工妊娠中絶の際に,配偶者の同意を要件とする母体保護法の規定を削除又は見直す予定はあるのか明らかにされたい。
3 安全な人工妊娠中絶へのアクセスを高めるための施策,特に妊娠中絶に必要な費用の負担を軽減することや,WHOのガイダンス文書等の国際的な水準に合わせた人工妊娠中絶方法について,どのような対策を採る予定があるのか明らかにされたい。
優生保護法に基づく強制的な優生手術について,被害者の更なる法的救済は検討されているか。
原発事故による健康被害に関連して,以下回答されたい。
(1) 委員会が放射能汚染による女性の健康に関して前回総括所見37項において勧告した後から回答までの間になした勧告内容に沿う施策。
①避難解除の基準を年間積算線量20ミリシーベルト以下に低減するために執った施策。
原発被災地の復興・創生の施策として避難区域解除地域における学校,医療,介護,福祉等のインフラ整備はどこまで進んでいるか,具体的に明らかにされたい。
福島県及び隣接県内の放射能汚染について,陸上,海洋の計測的モニタリングはどのように実施され,どのように公表しているのか,又廃炉が完了するまでのモニタリングに要する予算措置,及び実施主体。
原発事故に起因する健康被害,その他の健康に対する影響が認められる場合には,自己負担なく医療を受けられる制度を設けることはできないのか。
(2) 被災者生活再建支援法の支援が世帯単位を対象としているところ,個人単位に改めないのは如何なる理由からか。

【背景事情】
1 日本政府は,堕胎罪の規定を廃止しない意思を表示している。
母体保護法14条は刑法の堕胎罪の違法性阻却事由と位置付けられており,堕胎罪として処罰されない場合を定めているが,中絶の要件として人工妊娠中絶において,夫の同意を要件としている。夫が中絶への同意を拒否した場合には,女性が望まない妊娠の継続・出産を意に反して強いられ,特に,DVが起きている場合には女性の生命・身体を危険に陥れる可能性がある。
3 初期中絶の費用が10万円程度と高額であり,中絶方法についても掻把法が中心であり,世界保健機関(WHO)等で推奨されている吸引法は普及せず,政府は薬剤による中絶を認めていない。
4 2019年に旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対して320万円の一時金を支給する法律が成立したが,旧優生保護法違憲性が明記されなかったこと,補償の対象に人工妊娠中絶が含まれていないこと,及び行政が把握している被害者への個別の通知が明記されていない点などは,十分な内容とはいえない。
5 (1) 東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から8年を経過した現在,原発事故からの復旧・復興も未だ十分でない。避難指示が解除された自治体への帰還率も高いとはいえず,帰還した被害者もインフラが十分に整わない環境での生活を強いられ,避難を続けざるを得ない被害者も多数存在する。
委員会は前回総括所見において,避難指示区域の指定解除が,女性は男性よりも放射能に対する影響が大きいことを考慮して,女性と少女に対する危険要因に関し国際的に受け入れられている知見と一致したものとなるよう勧告し,また被曝した女性や少女,特に福島県内の妊婦に対する医療その他のサービスの提供を強化することを求めた。
 当連合会は脱原発を目指すとともに,原発被害の完全救済,及び被曝による将来にわたる健康被害に対する対策及び放射能汚染から健康を守るための法整備が急務であるとして,事故の被害救済,再発防止の双方から損害賠償・健康管理・エネルギー政策等に関する諸法則をより実効性のあるものとするよう,その改善に向けて努力することを「人権のための行動宣言」に掲げている。
(2) 日本では,一般的に世帯主が夫であることが多く,その場合,世帯員全体への支援が夫に対してなされることになる。その結果,妻である女性が支援を受けにくくなっている実情にある。