リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

国連経済社会局 避妊の使用方法別2019年

Contraceptive Use by Method 2019

世界195の国と地域で使われている中絶方法の統計の最新版です。
https://www.un.org/development/desa/pd/sites/www.un.org.development.desa.pd/files/files/documents/2020/Jan/un_2019_contraceptiveusebymethod_databooklet.pdf

最初に、世界全体でどのような避妊方法が使われているのかをグラフで示します。

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右半分が長期的方法で、日本ではほぼ皆無の不妊手術(女性、男性)が世界では相当な割合を占めています。IUDもけっこう使われているのが分かりますね。たとえば韓国では、ミレーナ(Mirena)というピルの成分を少しずつ放出するIUDが広く使われています。

日本は、先進国の中では避妊率自体が低く、男性用コンドームに頼り切っており、ピルの使用率が低いという傾向は数十年前からずっと変わっていません。他の国が変化した分、日本の避妊状況の異様さがさらに際立った感じも受けます。抜粋で、世界平均、先進国平均、日本に続いて、フランス、カナダ、英国、米国、ベトナム、中国、韓国をピルの使用率順に並べてみます。

     避妊率  ピル   IUD   コンドーム
世界   48.5    8.0   8.4    10.0
先進国  57.0    16.5   7.2    16.3
日本   46.5    2.9   0.4    34.9
フランス 63.5    33.7  14.1     8.0
カナダ  72.1    28.5   1.6     26.1
英国   71.7    26.1   7.6     8.1
米国   61.4    13.7   8.3     9.3
ベトナム 56.8    10.5  27.0     8.3
中國   69.6    2.4   26.2    23.2
韓国   60.1    1.7   47.0     5.3

日本のコンドーム依存率は、195か国中ダントツ1位でした。2位は香港で32.1%、3位はギリシャで29.4%です。

アメリカのピル使用率が低いのは、最近は女性不妊手術と多様なLARC(長期的に作用するインプラントなどの手法でIUDはその1つ)の使用が増えているためです。参照:Products - Data Briefs - Number 327 - December 2018 もしかしたら、昨日調べたバイエルの訴訟事件などもピル離れに影響したのかもしれません。

中國のコンドーム使用率が高いのは、政府がコンドーム使用を奨励しているのと、中絶に対するスティグマも抵抗感も低いので失敗しても大丈夫という意識が働いているのではないかと思います。日本とはかなり事情が違います。

カナダでもコンドーム使用が多くなっていますが、おそらくこれは「ピルとコンドームを併用」している人のうち「コンドームが主」だと思った人がこれだけいたということだと思います。今回の国連の統計は「最も使う方法」1つを選ぶことになっているし、少し前の統計によれば、カナダではおよそ3割が「ピルとコンドームの併用」で、しかも15-19歳に多かったという結果が示されているためです。おそらく「避妊と性感染症予防」のためのダブル・プロテクションを実施していることが反映されたのでしょう。10代に実施率が高いのは、性教育の影響が強いのではないかと推察されます。カナダはリプロダクティブ・ヘルスの意識が高く、中絶に対する規制は全廃されている唯一の国家です。

こうして見ていくと、日本はそもそも避妊意識が低く、女性が自分一人で避妊できる方法が少ない国だということが分かります。望まない妊娠をしてしまいやすい国だと言い換えることもできます。それなのに、高くてスティグマの強い方法しかないというのは、絶対に許されることではないでしょう。