リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

芦野由利子さん、金城清子さんの2000年の参考人答弁

20年経っても古びない……つまり何も変わっていない🔥

国会会議録検索システムでみつけました。ほぼすべてそのまま今も通じることばかり。結局、国は女性の健康と権利のために何も改善してこなかったということが分かります。ひどすぎる……。

第150回国会 参議院 共生社会に関する調査会 第1号 平成12年11月1日
参考人(芦野由利子君) 本日はお招きいただきましてまことにありがとうございます。
 戦前、産めよふやせよが国家の人口増加政策として推進されていた時代に産児調節運動を進めて投獄をされた女性がいました。申し上げるまでもなく、ほとんどの方が御存じでいらっしゃると思いますが、その女性は加藤シヅエさんといいます。戦後三十年、二十数年間ですか、参議院議員としても活躍をした女性でございます。その加藤シヅエさんが会長を務めます社団法人日本家族計画連盟から参りました芦野由利子でございます。ただ、きょうこれから申し上げますことは、家族計画連盟という組織を代表してというよりも、私個人の立場で発言するということをあらかじめ御承知おきいただきたいと思います。
 時間の制約がございますので、多少早口になるかもしれませんが、それもあらかじめお許しくださいませ。
 本日のテーマでありますリプロダクティブヘルス・ライツ、正確にはリプロダクティブヘルス・リプロダクティブライツでございますが、これは産児調節運動からさらに発展した概念と言うことができます。
 御存じのように、リプロダクティブヘルス・ライツは、一九九四年の国際人口・開発会議、カイロで開かれましたこの会議で提唱され、翌年北京で開かれました第四回世界女性会議で重要な女性の人権の一つであると確認されました。日本語では一般に性と生殖に関する健康及び性と生殖に関する権利と訳されますが、言いかえますと、性に関すること、産む産まないに関することを、人口政策や道徳ではなく健康と権利という視点からとらえようという考えでございます。
 リプロダクティブヘルス・ライツの定義はカイロ会議の行動計画及び北京会議の行動綱領に詳しく説明されておりますけれども、その最も中心にある考えは、レジュメをごらんいただきたいと思いますが、私のレジュメの二ページ目に女性の図がございますので、それをごらんくださいませ。この図に示されていると思います。この上の図は……。ありませんか。済みません、レジュメがない。──はい、わかりました。
 それでは、このパンフレットはお手元にございますでしょうか。──はい。図を事前にお送りしましたが、それが印刷されていないようですので、二十二ページ目をごらんください。よろしゅうございましょうか。
 ここに二つの女性の図がございます。この上の図は、国の人口政策や優生政策、あるいは宗教、家父長制、道徳などによって女性の体と性が管理され、産む産まないの選択の自由が奪われている状況を示しています。日本には現在なお刑法堕胎罪がございますが、堕胎罪はまさにこの図の状況でございます。下の図は、女性自身が自分の体と性の自主権を手にしている状況でございます。この下の図にリプロダクティブヘルス・ライツの基本と目指しているものが示されていると思います。
 ところで、なぜこの図が女性なのかといいますと、リプロダクティブヘルス・ライツは男女双方にかかわりのあることでございますけれども、女性にとってその重要性ははるかに大きいものがございます。
 それには二つ大きな理由がありまして、その一つは、申し上げるまでもなく妊娠、出産あるいは中絶するのは女性だけであるという生物的な性差があるからです。生物的性差のことを、ジェンダーに対してセックスと申します。国連の統計によりましても、世界では妊娠、出産が原因で年間約五十八万人もの女性が死亡しております。そのうち危険な中絶による死亡は年間約八万件と言われます。なお、これにつきましては同じパンフレットの五ページ目に男女別の疾患が割合になって示されておりますので、それを御参照いただきたいと思います。
 なぜ女性の図かという理由の二つ目は、先ほど生物的性差と申しましたが、それに対しまして社会的、文化的につくられた性差、これをジェンダーと申しますが、ジェンダーがあり、それによって女性が社会的弱者、男性が強者という力関係が構造的に社会に組み込まれているからです。そのために女性が不利益をこうむる、例えば女性の賃金が男性の六割しかないというようなこともその一例でございますが、女性が不利益を受けることが多いということが二つ目の理由として申し上げられます。
 昨年、日本ではバイアグラと低用量ピルが承認されました。承認までにかかった年月はピルが九年間、バイアグラはたった半年でした。ここに日本におけるジェンダーによる女性差別が象徴的にあらわされていると思います。
 このように、リプロダクティブヘルス・ライツは女性により深くかかわりますので、性と生殖に関する健康・権利というかわりに、女性の健康と権利と端的に表現することもできます。
 それでは、リプロダクティブヘルス・ライツにはどのような課題が具体的に含まれるのでしょうか。
 まず妊娠、出産がございます。それから、その調節手段である避妊、避妊には一時的な避妊とそれから永久的避妊、一般的には不妊手術と申しますが、永久的避妊がございます。それから、中絶がございます。月経や子宮がんのような女性特有の体の変化や疾病もあります。そのほか不妊や思春期の問題も重要です。また、長寿によって三十余年にも延びた中高年、老年期の性と健康の問題も無視できません。性にかかわる問題としては、性感染症HIVエイズ、性暴力や売買春なども含まれます。
 このように、リプロダクティブヘルス・ライツは、妊娠可能期だけに限られるものではありませんで、生涯にわたっております。つまり、母子保健や家族計画よりも広い概念でございます。これにつきましては、パンフレットの八ページ目にWHOが作図した大変わかりやすい図がございますので、これも御参照いただきたいと思います。今、私が申し上げました課題のほかにもなお幾つかの課題が、生涯を通して見たときに、性と生殖に関する健康・権利に含まれることがこの八ページ目の図によっておわかりいただけると思います。したがって、リプロダクティブヘルス・ライツは、まさに本日の議題でございます生涯にわたる女性の健康でございます。
 ただし、だからといって、これは男性を排除することを意味するものではありません。男性は全く無関係ということではございません。性感染症HIVエイズは男性にとっても問題ですし、避妊に対する男性の協力と責任は重要です。このように、リプロダクティブヘルス・ライツを確立する、先ほどの女性の図で申しますと下の図でございますね、あの状況を確立するためには男性の参画が不可欠であることを強調しておきたいと思います。
 リプロダクティブヘルス・ライツは、このように範囲が広うございます。したがって、現場で取り組む際には優先順位を見きわめる必要があります。
 きょうは時間の都合がありますので、私は主に産む産まないの選択に焦点を当てて、現状を検討し、残り時間で幾つか提言を述べたいと思います。
 なお、最初にお配りしましたレジュメでは、人工生殖技術、これは生殖補助医療というふうにも言われますが、具体的には人工生殖や体外受精、あるいは出生前診断などが含まれますけれども、それに触れませんでしたので、急遽レジュメを追加させていただきました。したがって、私のレジュメは三ページございます。後ほどこの問題にも少し言及したいと思います。
 まず、産む選択に関してどうか、現状を見てみたいと思います。
 日本には、仕事と家庭の両立が難しい、教育費が高い、子育ての精神的負担などのために、産みたいけれども産めないという状況がございます。望むときに安心して子供を産み育てられる環境をつくるためには、保育所の充実や育児休業の所得保障の引き上げ、仕事と家庭の両立支援、さらに男女の賃金格差の是正や性別役割分業意識の見直しなどが必要と思われます。
 次に、産まない選択に関してはどうでしょうか。先ほど低用量ピルの承認には触れましたけれども、同時に、昨年は銅付加IUD、それから女性用コンドームが日本でも承認されまして、ようやく日本の避妊法の選択肢も先進国に近づきました。
 なお本日、承認されました避妊器具をお持ちいたしましたので、さらに詳しくごらんになりたい方は後ほどどうぞお手にとってごらんいただきたいと思います。(資料を示す)これが銅付加IUDでございます。これが女性の子宮の中に入ります。それから、これが低用量ピルでございます。ピルはもっと種類がございますが、詳しい御説明は時間の都合で省きますけれども、何種類かございます。それから、これが女性用コンドームでございます。実際はここに潤滑油がついておりまして大変にべとべといたしますので、あえて潤滑油を取ったものをきょうはお持ちいたしました。これが女性の膣にかぶせるものです。それから、ついでながら、日本ではほとんど使われておりませんが、ペッサリーというのもございます。コンドームは皆さん御存じだと思います。それからマイルーラという殺精子剤もございますから、これもおいおい御回覧くださいませ。
 ところが、このようにようやく避妊の選択肢がふえたわけですけれども、ことしの毎日新聞の家族計画世論調査を見ますと、相変わらず避妊法の約七割がコンドームです。ピルはわずかに一・五%にすぎません。つまり避妊に関する包括的で公正な情報、教育がそれだけ不足しているということが言えると思います。
 それから、緊急避妊法という方法もございます。これは外国ではかなり広く普及しておりますし、フランスやノルウェーでは医師の処方せんがなくとも緊急避妊法が使えるというところまでいっておりますが、日本ではごく一部の医者が使っている段階でございます。
 それから、ピルがせっかく承認されましても自由診療のために大変高うございます。したがって、経済的に使いづらいという問題が起きております。
 人工妊娠中絶につきましては、これまで毎年減少しておりましたけれども、昨年、約四千件でございますが増加に転じました。年齢別には、十代と二十代でわずかながら中絶率が、人口千人に対する中絶の数ですけれども、ふえております。その背景には、性行動の低年齢化と活発化にかかわらず性教育が不十分である、ジェンダーによる力関係のため女性がノーと言えない、経済的にまだ自立していないなどがあります。
 マスコミでは十代の中絶だけがとかく大きく取り扱われますけれども、年齢別の中絶割合を見ますと、実は二十代が一番多くて四五・二%、それから三十代が三四%強ございます。十代はわずかに一一%程度でございます。
 中絶は女性にとって精神的、身体的負担であるだけでなく、経済的にも大変に大きな負担になっております。中絶費用は、ちなみに妊娠の初期中絶でも平均七万円という高額でございます。
 時間が大分迫っておりますので、人工生殖技術に関しましてはレジュメをごらんいただきたいと思いますが、二つだけポイントを挙げておきたいと思います。
 基本的に、女は子供を産んで一人前という社会通念、私たちの社会の中にある旧来の価値観、これを問い直すということがまず必要だろうと思います。それから、生殖技術が導入されることによる生命倫理的な問題、女性に与える身体的、精神的、経済的負担の問題。それから、出生前診断に関しましては、それが生命の質を選別する、そのことによって障害者差別、優生思想の強化につながるという懸念がございますので、そのことをとりあえず問題として申し述べたいと思います。したがって、人工生殖技術に関しましても、何らかの抑制的な使用に向かった歯どめが必要、ルールづくりが必要と考えております。
 以上、申し述べたことに加えまして、最後に幾つかの提言をしたいと思います。
 まず第一に、来年度は省庁の再編成がございます。したがって、この機会に母子保健中心の厚生行政を、生涯にわたる女性の健康を保障するための女性保健課、あるいは女性健康課を設置していただきたいと思います。
 二つ目に、現在でも母子保健課の事業の中で不妊相談の予算は拡大されております。しかし、産まない選択である避妊や中絶には重点が置かれておりません。性や避妊、中絶を中心に相談できる場がぜひとも必要です。それには新たに立派な建物をつくる必要はございません、既にある女性センターや保健センターのような施設の中に相談室を設ける、あるいは民間団体に委託するなどの方法があるでしょう。
 ただ、政府の予算で運営される相談所に対しましては、かつての優生保護相談所のようにならないように、個人の自己決定権、インフォームドコンセント・チョイスの徹底を大原則とするということが肝心だと思います。もし中絶についても気軽に相談できる場所があれば、水子供養に流される女性も少なくなるでしょう。
 ちなみに、欧米には、情報や避妊具、避妊薬が無料あるいは安価に入手でき相談もできる家族計画センターや女性クリニックなどの施設が数多くありまして、多くの場合、政府から公的援助が出ております。
 三つ目の提言でございますが、情報やサービスの提供者の役割と責任は重大です。したがって、保健・医療従事者のような専門家の養成カリキュラムの見直しを提案したいと思います。
 四つ目の提言でございますが、医師を介する避妊具や避妊薬、すなわちピルやIUDでございますが、それと中絶手術に対しては健康保険を適用してほしいと思います。
 西欧では、イギリスやフランス、スウェーデン、イタリアなど、避妊及び中絶手術の経費が全額国によって負担される国もございます。ほかにも女性が負担するのはごく一部で済むという国が西欧には数多くございます。
 五つ目の提言でございます。堕胎罪が先ほどごらんいただきました女性の図のまだ上の段階であるということを御説明申し上げました。すなわちリプロダクティブヘルス・ライツが全く確立されていない状況を堕胎罪は象徴していると思いますが、堕胎罪と母体保護法という二重構造から成る中絶に関する法制度を廃止して、新たに女性の自己決定権を尊重した避妊と中絶に関する法律をつくる必要があると思います。
 その主な要点といたしましては、女性の要請に応じて中絶が許可されるものとする、配偶者の同意は不要とする、望まない妊娠の予防対策を重視する、優生思想の強化につながる胎児条項は導入しない、減数手術は緊急避難とするといったようなことが考えられます。
 なお、政府は少子化対策に現在大変力を入れております。つい先日発表されました健やか親子21の最終報告を見ますと、思春期対策や妊産婦死亡率の改善など評価すべき点もございますけれども、全体といたしましては少子化対策そして相変わらず母子保健という枠の中で論じられているというふうに思います。また、不妊対策が少子化対策と関連づけて扱われていることも、不妊の人たちへのプレッシャーをさらに強める危険がございまして、私は問題だと考えております。
 今必要なのは、出生増加のための少子化対策ではありません。その意味で、国会に上程されると聞いております少子化社会対策基本法案も私は要らないと思います。重要なのは、障害の有無にかかわらず、いつ、だれと、子供を産むか産まないかを選択できる自由であり、障害があっても子供がいなくても差別されない社会をつくることだと思います。それはこの調査会のテーマでございます共生社会をつくっていく上での基本となると思います。少子化対策のかけ声が、平成版の産めよふやせよにならないことを切に願います。
 最後に、一言だけつけ加えたいと思いますが、これも政府の男女共同参画審議会基本問題部会が作成した「男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方 二十一世紀の最重要課題」が発表されました。それを拝見しますと、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツへの今後の取組」のところのたしか最後の箇所だったと思いますが、「ライツの概念については、種々の議論があるため、世論の動向を踏まえた検討が必要である。」という記述がございました。この表現に対しましては、私は正直なところ疑問を感じております。
 リプロダクティブヘルス・ライツを一本の木に例えますと、リプロダクティブライツは幹、リプロダクティブヘルスはそこから伸びる枝や葉と言うことができると思います。木が存在するにはそのどちらが欠けてもいけません。幹であるライツについて、今後、後退することのないよう、ここにいらっしゃいます国会議員の皆様そして政府には積極的に取り組んでほしいと思います。
 済みません、時間が超過したかと思いますが、どうもありがとうございました。


○会長(石井道子君) どうもありがとうございました。
 次に、金城参考人にお願いいたします。金城参考人


参考人(金城清子君) きょうはこういうところにお招きいただきまして、意見を申し述べる機会を与えられましたこと、大変うれしく思っております。
 私は、今、芦野参考人がお話しになったその後を引き受けまして、法律の問題に限定してお話をしてみたいと思っております。さらに、具体的な提言もしたいということです。
 まず、リプロダクティブヘルス・ライツという性と生殖の健康・権利、こういうことが国際社会の中で人権として認められる中で日本の法制度を見てみますと、それに真っ向から反するようなところがたくさんございます。そういうことにつきましては一日も早く国会で法律の改正ないし新しい法律の制定ということをやっていただきたいということで、幾つか指摘していきたいと思います。
 まず、堕胎罪の問題でございます。これは一番新しい成果文書七十二項(o)というところに出ているんですが、そこに書いてあるとおり、「違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を含んでいる法律の見直しを考慮する。」というのが出てきているわけです。自己堕胎罪、これは現在一年以下の懲役ということで刑法に存在しておりますけれども、これはまず廃止をしなければいけないと思います。
 そのほかの堕胎に関する罪についてはいろいろ議論のあるところだと思いますので、議論を踏まえてということでございますけれども、少なくとも自己堕胎罪を廃止することは、日本の国にとって現在では国際法上の責任となっているのではないかと考えております。
 ちなみに、現在の日本生命倫理学会会長、そして有名な刑法学者であられる中谷瑾子先生はもうずっと昔からこの自己堕胎罪の廃止ということを提言しておられます。
 三番目でございますけれども、避妊と中絶に関する法律、これ仮称でございますが、新しい法律の制定が必要ではないかということです。
 これにつきましては、優生保護法を改正して母体保護法になったということで、日本では優生思想に基づく法律はなくなったんだと、だから問題がないんだというふうにお考えの方があるいはおられるかもしれません。しかし、この改正問題は、国民の世論というのはほとんど反映されないうちに、あっという間に成立したという事情がございます。そして、実は女性たちは、この改正が間もなくあるだろう、したがって、国際的な状況を踏まえた上での新しい法律をつくらなければいけない、そのためにはどういうことが必要かということをかなり検討をしていたわけでございます。ところが、できてしまったのは何と母体保護法ということで、もうみんなびっくりしていると言っても過言ではないと思います。
 きょうの会議は、女性の生涯にわたる健康支援ということが必要だということですよね。しかし、この母体保護法というのは母体ということだけを強調いたしまして、子供を産む体だから保護しようということで、生涯にわたる健康を支援していくということから考えれば極めて限定的だし、しかも子供を産むということだけを女性について大変に強調をするということですから、非常に望ましくない名前ではないかと思います。ですから、この名称をめぐりましては、母体というのはもう使わない、そしてやはりその法律の内容を直截に表現している中絶とそれから避妊、これを正面に出した法律をつくっていくことが必要だと私自身は考えております。
 では、その法律の中にどんな条項を挿入する必要があるかということでございますが、第一番目は望まない妊娠の予防に関する規定、これはぜひ法律できちっとこういう問題について規定をしていく必要があると思います。
 先ほど芦野参考人のお話の中にありましたけれども、ずっと中絶が減ってきた、にもかかわらず去年は四千件ふえてしまったと。やはりその背景には、こういう問題についての情報の提供が十分ではないということがあると思うんですね。ですから、学校教育だけではなく社会教育を通じて、そして一般の人たちに避妊についての知識を十分に提供できるような、そういうことが大変重要だと思います。
 成果文書でございますけれども、そこに書いてあるとおりでございます。「望まない妊娠の防止は常に最優先課題とし、妊娠中絶の必要性をなくすためにあらゆる努力がなされなければならない。」。そのためにはやはり法律が必要だと思います。
 ちなみに申し上げますと、スウェーデンというのは非常に中絶の少ない国です。これはどうしてかと言えば、やはり避妊についての教育が徹底している、そのことが中絶を非常に少なくしていったと言われております。ピルの合法化ももちろん結構でございますけれども、何よりも大切なことは避妊についての情報を一人一人に提供することだということを強調しておきたいと思います。
 二番目でございます。これはやはり人工妊娠中絶の合法化ということです。これはあくまでも胎児が母体外で生存できない期間、この間においては妊娠中絶を合法化していく、これはもう国際的にどこの国でもほぼコンセンサスとして行われていることでございます。ただ、そのやり方といたしましては二つのやり方があるようでございます。一つが期間規制、一つが適応規制ということなんです。済みません、適応ではなく適用の方がいいと思います。
 期間規制というのは、中絶可能期間は十週から十二週、かなり短い。しかし、そのために中絶を受けるための要件はなしということです。ですから、期間規制であれば女性の自己決定権の保障ということから考えて理想的だと言えるわけです。ただ、中絶可能期間が短いので、その点が問題だということになります。
 それに対して適用規制ですけれども、これは二十二週未満、現在ではそのようになっておるようでございますけれども、大体胎児が母体外で生存できない期間、この間について妊娠中絶可能期間として認めます。ただし、要件としては、精神的、肉体的健康を害するというような何らかの要件が入るということなんです。
 ですから、この二つを見てみますと、女性の自己決定権の保障ということからすれば期間規制がいいんだけれども、この場合には若干その期間が短くなるという問題があるわけです。
 この点について非常な問題になってくるのは胎児条項とのかかわりです。多くの妊娠中絶では、今は、問題がなければ、子どもが欲しくないということであれば初期に行われているんですけれども、障害があることが胎児診断の結果わかった、その場合にどうしても中絶しなければならないというような大変重い障害である、障害もさまざまでございますので、そういうこともないわけではないわけです。そういうときに、十週から十二週の間に胎児診断の結果が判明するというのは現状ではまだ難しいということです。ですから、そういう場合までもすくい上げるということを考えれば適用規制の方がいいだろうということです。
 期間規制をとっている国では、ほとんど胎児条項を入れております。しかし、私も芦野参考人と同じ意見でございまして、胎児条項は法律の中に書くべきではないと考えております。やはり、障害があったら長い間中絶をしてよろしい、一方、そうでない場合には短い期間で中絶をしなければいけない、これは明らかに障害者に対する、障害というものに対する差別的な規定だと言わざるを得ないと思います。
 そういう意味で、胎児条項は入れない、その上で人工妊娠中絶ということをかなりうまく運営していくということを考えますと、私は混合規制というようなやり方でやるのが一番望ましいのではないかと思っているわけでございます。この場合には、十週までは女性の請求で認める、ですから要件は要らないということです。そして、あと二十二週未満まで、これは要件として精神的、肉体的健康を害するということです。女性の健康を害するということにつきましては、もうイギリスなどでも、子供を産みたくないその人に対して産みなさいと強制することは、どんな場合でも精神的、肉体的健康を害することになるんだという考え方が強いですので、そういう場合には二十二週までは、一応要件は入るけれども、ほぼ中絶が可能だというようになるのではないかと思います。
 次は、夫の同意でございます。これは、もう国際的な動向からいたしましても削除ということではないかと思います。
 ちなみに、女子差別撤廃条約十六条1(e)では、「子の数及び出産の間隔を自由にかつ責任をもつて決定する」男女「同一の権利」ということなんです。中絶に対して夫の同意が必要だということになりますと、これは男女同一の権利以上の権利を夫に与える、拒否権を与えるということになります。ですから、この条約を既に批准している日本といたしましては、夫の同意の削除というのは必要不可欠なことだと考えます。
 次に、不妊手術に関する規定、これを削除する必要があると思います。
 法律には、三条、二十六条、二十八条で不妊手術については一定の要件が課されたり禁止されたりしております。しかし、現在では不妊手術というものが避妊の手段としてまれではございますけれども日本で行われておりますし、それから性同一性障害の場合にその治療として生殖を不能にする手術などが行われております。やはり子供を産むという能力も人間の能力の一つとしてそれぞれ自分がどうするかについて決定できる、そういうものと考えていく必要があるのではないかと思います。
 ちなみに、成果文書では、リプロダクティブライツには、「人権に関する文書にうたわれているように、差別、強制、暴力を受けることなく生殖に関する決定を行える権利も含まれる。」こういうことが書かれてございます。
 最後になりましたけれども、不妊治療に関する法律、これも仮称でございますが、制定の必要があるのではないかと考えております。
 現在、厚生省では生殖医療をめぐりまして委員会を置いて検討を重ねております。どういう結論が出るかまだわからないのでございますけれども、できるだけ望ましい方向で出ることを祈っているわけです。ただ、私は、やはり生殖医療というものは大変大きな意味を社会全体に対して持つ医療だということを考えると、政府のガイドラインだとか医者のガイドラインだという、そういうことで行っていくことについては大変危惧を感じます。やはりきちっとした法律でこの医術の適用の方向は考えていかなければいけないと思います。
 そのときにその法律に絶対に入れなければならないこととして二つばかり指摘しておきたいと思います。
 一つは、不妊治療を受ける女性やカップルが自己決定権をきちっと持てるようなことを保障していく工夫をしなければいけないということです。日本の場合には、女性は子供を産んで一人前ということですから、こういう生殖医療が可能になってくる中でそういう不妊の御夫婦に対して子供を産めという圧力が非常にかかっている、そういう問題について考え方を変えるということももちろん大切でございます。少子化社会の中で圧力はますます強まるのではないか。そういうことについて社会全体で反省していかなければいけない。同時に、一人一人の不妊の女性なりカップルがそういう力が持てるような援助をしていくことが大変重要だと思います。そのために何があるかといえば、現在のところカウンセリングということになるのではないかと思います。
 それから、不妊治療というのは、言ってみれば、例えばクローンだって生みかねないような技術なんですね。そういう意味ではこういうことを治療する機関についてきちっとした規制をしていかないと、気がついてみたらクローンが世界で初めて日本で誕生してしまったなんということになりかねないと思います。そういう意味で、不妊治療を実施する機関、これは許可制にして、そして万が一法律に違反するようなことがあったらもうこういう技術はできないんだというようなことできちっと規制をしていく必要があるのではないかと思います。
 最後になりましたけれども、これは法ではございませんけれども、最近アメリカでも経口中絶薬、RU486が認可になったという話がございました。これはアメリカでは非常な議論があって認可がおくれたわけでございますけれども、フランスなんかではもう十年近く使っております。これは、やはり中絶ということで医療的な、外科的な手術を受けなければいけないというのは女性にとって大変負担ですし、健康にも経済的にも大きな負担になります。そういう意味で、お薬を飲めば中絶できるんだというお薬があるわけですので、そういうものについても認可していく必要があるのではないかというふうに考えております。
 長い間ありがとうございました。