リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

4つの出生率パターン

1.いまも高出生率の国々:アフリカのサハラ以南の諸国、貧困や生活上の困難が多く、人権が保障されていない状況にある。
2.出生率が急低下したが下げ止まった、または回復傾向にある国々。育児支援や両立支援が行き届いているフランス、スウェーデンなど。
3.1960年代頃から(国によっては1980年代頃から)徐々に出生率が低下し始め、今も低下が続いている国々。南アメリカの国々など。家族計画が強硬に進められており、効果が出ているが、将来的には少子化が懸念される。
4.すでに低出生率が長期的に続いており少子化が進んでいる国々。多くは教育が普及し、所得が高く、女性の権利が保障されているような国々だが、中には育児施策が不足しており、ワーク・ライフ・バランスが保てないため希望する数の子どもをもてなくなっている国もある。これらの国々は近い将来国力が低下すると考えられる。

日本は4の最後のパターンに入る。

どのパターンであっても処方箋は基本的に同じ。


 制度的、経済的、社会的に夫婦や個人が自らの生殖に関する目標や願望を実現できるようにエンパワーすることで、リプロダクティブ・ライツを実現していけば、出生率は女性1人当たり2人前後で推移するようになり、移民に頼らなくても人口は安定すると考えられている。

4つのパターンそれぞれに手段は異なる。1では保健、医療、教育等の支援を行い、人々が避妊の知識と手段を手に入れられるようにする。2ではより手厚い福祉が重要になる。3は政府主導の家族計画からカップルや個人主導の自発的な出生調整を実現していくために人々をエンパワーする必要があるだろう。4については、2に移行していくための政策転換が必要である。

関連部分を以下から部分的に訳してまとめてみる。
THE POWER OF CHOICE

 ヨーロッパにおける少子化の説明は、古典的な人口統計学的変遷説から経済学的なものまで多岐にわたっている。
 人口動態学的変遷理論によれば、工業化や都市化に伴う社会生活の変化に対応して出生率が低下する。経済学主導の理論では、子どもとモノの相対的なコストが出生率の低下の一因とされている(Mason, 1997)。
 いずれにしても、高出生率から低出生率への変化は、時間の経過とともに夫婦の行動が根本的に変化することを意味し、夫婦自身と社会の両方に重要な意味を持つ。この変化が、経済的・社会的状況の変化への短期的な対応ではなく、持続的かつ広範に採用された場合、それは社会規範の根本的な変化を反映している。
 低出生率が持続するのは、3つの条件が満たされたときである(Coale, 1973)。
 第一に、出生率は自分の生活の一部であり、自分の行動によってコントロールしたり、影響を与えたりすることができると認識することである。今日では比較的簡単なことのように思われるかもしれないが、「意識的な選択の領域」の中での出産という概念は、個人やカップルが自分自身や家族、そして人生の選択肢を見る方法に革命的な変化をもたらしたのである。2つ目は、子供の数が少ない方が有利だと考えることで、「生殖能力をコントロールする」、つまり子供の数を少なくするための行動を起こす動機となることだ。そして3つ目は、妊娠を防ぐための確実な手段と、その手段に関する知識をもっていることである。
 低出生率の維持を実現するためには、これら3つの条件がそれぞれ何らかの形で存在する必要がありますが、中でも「自分の望む数の子どもを持つことが可能である」という認識と、そのための明確な動機付けが最も基本的である。これらの条件が揃わないと、妊娠を防ぐ方法があっても、出生率への影響はせいぜい限られたものになってしまう。
 低少子率の維持を実現するには、これら3つの条件がそれぞれ何らかの形で組み合わさっている必要があるが、中でも「自分の望む数の子どもを持つことが可能だ」という認識と、「子どもを持ちたい」という明確な動機が最も重要になる。この2つがなければ、妊娠を防ぐ方法があっても、出生率への影響はせいぜい限られたものにしかならない。しかし、この2つの前提条件が満たされていれば、自らの動機に基づいて行動できるような明確な道筋をカップルや個人に提供し、子供を持つかどうか、いつ、どれくらいの頻度で子供を持つかを自由にかつ責任を持ってカップルや個人が決定する権利を実現するために、避妊は中心的な役割を果たすことができる。