リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

医者の話だからといって信用してはならない

中絶薬に関して誤情報も流布している

たとえば、Business Journalというサイトの連載:吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」の2022年1月13日「経口中絶薬、デメリットが多い?厳格な管理が不可欠、個人使用で健康被害の懸念も」という記事。

吸引法よりも経口中絶薬が安全だという確証はなく、現段階では安全性に疑問を感じる。


中絶薬を用いた内科的中絶が吸引による外科的中絶と同等に安全であることは、WHOが2003年に発行した”Safe Abortion”の時からすでにエビデンスが示されている。2012年版はすぺーすアライズによる日本語版もあるのだから、せめてそれくらい調べてほしい。科学的根拠もなくただ「感じた」ことを垂れ流すのはやめてほしい。


さらに、世田谷区にある不妊治療専門クリニックの医師が言っている間違いも垂れ流している。

「妊娠が進んでからの経口中絶薬の使用は不全流産となり、母体は大きな痛みや出血を起こす可能性が高いと思います。また、帝王切開をした人のなかには、子宮収縮薬が禁忌(使用してはいけない)というケースもあり、知らずに使用すれば子宮破裂を引き起こすこともあります」


これは現在、日本の産婦人科医たちが使っているプレグランディン(ゲメプロスト腟坐剤)のことだ。経口薬ですらない。
医療用医薬品 : プレグランディン (プレグランディン腟坐剤1mg)

1. 警告
子宮破裂、子宮頸管裂傷が発現することがあるので、用法及び用量、使用上の注意に特に留意すること。
……
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 緑内障、眼圧亢進のある患者
類似化合物のプロスタグランジンE1で眼圧を上昇させる作用が報告されている。
9.1.2 頸管炎、腟炎のある患者
炎症、感染を増悪させるおそれがある。
9.1.3 帝王切開又は子宮切開等の既往歴のある患者
子宮が脆弱になっていることがあり、過度の子宮収縮による破裂の危険がある。
9.1.4 多胎妊娠、経産婦の患者
子宮が脆弱になっていることがあり、過度の子宮収縮による破裂の危険がある。


ここでもまたエビデンスもなくただひたすらに中絶薬を危険視する「厚生労働省」の従来の態度が引用されているのも問題だ。

これまでも、海外から経口中絶薬を個人輸入して使用し、健康被害を起こす事例もあり、厚生労働省は注意を呼びかけていた。


次頁ではこんなことも書いている。

 経口中絶薬を使用する場合、妊娠7週未満の初期に限定されるが、妊娠7週を過ぎてから妊娠に気づく人も少なくない。

「9週まで」と毎日新聞は報道していたが、7週とは……いったい出所はどこだろう?


そして再び不妊治療専門医が以下のように「思っている」ことが垂れ流されている。

「経口中絶薬の使用には、専門医による厳格なガイドラインが必要です。経口中絶薬の承認申請がなされたとしても、日本国内での使用開始まではまだまだ遠いのではないかと思います。むしろ、話題性だけが先行し、個人輸入などによって誤った使用による健康被害が出ないように対策が必要だと思います」


薬剤師という資格をもつ者として専門的な記事を書くのであれば、ファクトチェックくらいすべきだし、せめて治験に関わった医師にでも取材してほしい。ABEMAに出てきたのも別の「世田谷区」の不妊治療専門医だったが、名前を売るためにメディア露出を増やそうとしているのではないかと疑いたくもなる。