リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

国連女性差別撤廃委員会から中絶について受けてきた警告

2009年第6回報告に対する女性差別撤廃委員会の最終見解

健康
49. 委員会は、締約国の質の高い医療サービスを称賛する一方、近年、HIV/エイズを含む性感染症の日本女性への感染が拡大していることを懸念する。委員会はまた、十代の女児や若い女性の人工妊娠中絶率が高いこと、また、人工妊娠中絶を選択する女性が刑法に基づく処罰の対象となり得ることを懸念する。委員会は、女性の精神的・心理的健康に関する情報が不十分であることを遺憾に思う。


50. 委員会は、思春期の男女を対象とした性の健康に関する教育を推進すること、及び妊娠中絶に関するものを含め、性の健康に関する情報やあらゆるサービスに対してすべての女性や女児のアクセスを確保することを締約国に勧告する。委員会はまた、健康や医療サービス提供に関する性別データ、並びにHIV/エイズを含む性感染症の女性への拡大と対策に関するさらなる情報やデータを次回の報告に盛り込むよう締約国に要請する。委員会は、女性と健康に関する委員会の一般勧告第24号や「北京宣言及び行動綱領」に沿って、人工妊娠中絶を受ける女性に罰則を科す規定を削除するため、可能であれば人工妊娠中絶を犯罪とする法令を改正するよう締約国に勧告する。委員会は、女性の精神的・心理的健康に関する情報を次回報告に盛り込むことを締約国に要請する。


2016年日本の第 7 回及び第 8 回合同定期報告に関する女性差別撤廃委員会の最終見解

健康
36.委員会は、2011 年の福島第一原子力発電所事故に続く放射線に関する健康面での懸念に対処する締約国の取組に留意する。委員会は、しかしながら、放射線被ばく量が年に 20 ミリシーベルト未満の汚染地域を避難区域の指定から解除す
る締約国の計画に懸念をもって留意する。年間被ばく量の増加により住民の中でも特に女性や女児の健康に影響を及ぼす可能性が高まるからである。


37.委員会は、締約国が女性は男性よりも放射線に対して敏感である点を考慮し、放射線の被ばくを受けた汚染地域を避難区域の指定場所から解除することにより女性や女児に影響を与える危険因子について国際的に受け入れられている知識と矛盾しないことを再確認するよう勧告する。委員会はさらに、締約国が放射線の影響を受けた女性や女児(特に福島県内の妊婦)に対する医療その他のサービス提供を強化することを勧告する。 38.委員会は、締約国の十代の女児や女性の間で人工妊娠中絶及び自殺の比率が高いことを懸念する。委員会は、特に以下について懸念する。
(a) 刑法第 212 条と合わせ読まれる「母体保護法」第 14 条の下で、女性が人工妊娠中絶を受けることができるのは妊娠の継続又は分娩が母体の身体的健康を著しく害するおそれがある場合及び暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠した場合に限られること、
(b) 女性が人工妊娠中絶を受けるためには配偶者の同意を得る必要があること、並びに
(c) 締約国の女性や女児の間では自殺死亡率が依然高い水準にあること。


39.女性と健康に関する一般勧告第 24 号(1999 年)と「北京宣言及び行動綱領」に沿い、委員会は、締約国が以下を行うよう勧告する。
(a) 刑法及び母体保護法を改正し、妊婦の生命及び/又は健康にとって危険な場合だけでなく、被害者に対する暴行若しくは脅迫又は被害者の抵抗の有無に関わりなく、強姦、近親姦及び胎児の深刻な機能障害の全ての場合において人工妊娠中絶の合法化を確保するとともに、他の全ての場合の人工妊娠中絶を処罰の対象から外すこと
(b) 母体保護法を改正し、人工妊娠中絶を受ける妊婦が配偶者の同意を必要とする要件を除外するとともに、人工妊娠中絶が胎児の深刻な機能障害を理由とする場合は、妊婦から自由意思と情報に基づいた同意を確実に得ること、及び
(c) 女性や女児の自殺防止を目的として明確な目標と指標を定めた包括的な計画を策定すること。

なお第7・第8回合同の最終勧告では優生保護法にもとづく暴力についても次のような警告を受けている。

女性に対する暴力
22.委員会は、法務省が、
(a)男性器の女性器への挿入にのみ適用される強姦罪の狭い定義、
(b)性犯罪の低い罰則の引上げ、
(c)配偶者強姦を明示的に犯罪化する法的規定の採用、
(d)性犯罪の職権による起訴の導入を含む様々な課題に対処するために、刑法を見直す検討会を設置したことに留意する。委員会は、しかしながら、刑法を見直す法務省の検討会が、配偶者強姦を明示的に犯罪化する必要があるとは考えなかったことを懸念する。性交同意年齢が 13 歳のままであること法定強姦の法定刑の下限がわずか3年の懲役であることも懸念する。委員会は、さらに以下についても懸念する。
(a) 刑法に近親姦を個別に犯罪化する規定がないこと、
(b) 裁判所による緊急保護命令の発令が過度に遅れることがあるとの報告があり、それは配偶者等からの暴力を含む暴力の被害者を更なる暴力の危険にさらしていること、
(c) 配偶者等からの暴力を含む暴力の被害者である移民女性、民族的及びその他のマイノリティ女性並びに障害のある女性が事件を当局に通報することに抵抗感があること、また特に移民女性は「出入国管理及び難民認定法」に基づく保護を得るには「正当な理由」を提供する必要があるため、在留資格を取り消されるおそれから通報できないとの情報があること、並びに
(d) 「配偶者暴力防止法」があらゆる形態の家族における全ての女性に適用されるか不確実であること、及びそのような場合に裁判官が保護措置を執ることに積極的でないこと。


23.委員会は、女性に対する暴力に関する一般勧告第 19 号(1992 年)及び前回の勧告(CEDAW/C/JPN/CO/6、パラ 30)を想起し、締約国に以下を要請する。
(a) 刑法の改正に当たっては、配偶者等からの暴力や個別の犯罪としての近親姦を含む女性に対する暴力に包括的に対処することを確保するため、本条約及び委員会の一般勧告第 19 号(1992 年)並びにその法体系を十分に活用すること、
(b) 強姦の定義を拡張するとともに、性犯罪の職権による起訴を確保するための刑法の改正を促進すること、
(c) 配偶者強姦を明示的に犯罪化するとともに法定強姦の法定刑の下限を引き上げるため、刑法を改正すること、
(d) 緊急保護命令発令の司法手続を迅速に行うこと、
(e) 女性や女児(特に移民女性)に対するあらゆる形態の暴力の被害者に通報を奨励するとともに、暴力の被害者である女性がシェルターを利用でき、また十分な設備も備わっていることを確保すること、
(f) 指導的地位にある職員の研修、女性や女児に対する全ての暴力事件の十分かつ効果的な捜査、加害者の訴追並びに有罪の場合の適切な処罰を確保すること、並びに
(g) あらゆる形態の家族における全ての女性に対し「配偶者暴力防止法」の適用を確保すること。


24.委員会は、締約国が優生保護法の下で都道府県優生保護審査会によって疾病又は障害のある子供の出生を防止しようとし、その結果、障害者に強制的な優生手術を受けさせたことについて留意する。委員会は、同意なしに行われたおよそ
16,500 件の優生手術のうち、70 パーセントが女性だったこと、さらに締約国は補償、正式な謝罪、リハビリテーションなどの救済の取組を行ってこなかったことについて留意する。


25.委員会は、締約国が優生保護法に基づき行った女性の強制的な優生手術という形態の過去の侵害の規模について調査を行った上で、加害者を訴追し、有罪の場合は適切な処罰を行うことを勧告する。委員会は、さらに、締約国が強制的な優生手術を受けた全ての被害者に支援の手を差し伸べ、被害者が法的救済を受け、補償とリハビリテーションの措置の提供を受けられるようにするため、具体的な取組を行うことを勧告する。