リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

フェミニズム軸に時代と向き合う 劇作家・小説家 石原燃さん

しんぶん赤旗 2022年3月15日

 NHK番組改変事件を描いた「白い花を隠す」などの戯曲で知られる劇作家・小説家の石原燃さん。新作の舞台「彼女たちの断片」(東京演劇アンサンブル公演)は、中絶医療をめぐって女性の生きにくさや社会のゆがみを浮き彫りにします。本作に込めた思いを聞きました。(鎌田有希)

 物語の舞台はコロナ禍の東京。大学生の多部(仙石貴久江)が妊娠し、友人のみちる(永野愛理)やその母、知人らの助けを借りて経口中絶薬の服用を選択します。6人が見守る中、多部は中絶に臨みます。

 「7人の女性の一夜を描く物語です。年齢も出自も異なる女性が登場し、たくさんおしゃべりをします。観客も、おしゃべりに参加しているような気持ちで見ていただけるように心がけ、過度にドラマチックにしないことで、日常の時間のなかに中絶があるように描くことができました。それによって、よりシスターフッド(女性同士の連帯)な雰囲気もつくり出せたと思っています」

 多部が選択した経口中絶薬。世界保健機関(WHO)が「必須医薬品」と指定し、80カ国以上で使用されているものの、日本では外科的手法の「掻爬(そうは)法」が主流で、昨年末に承認のための申請がされたところです。

 「なぜこんなに中絶に罪悪感を感じるのか」。おしゃべりするうち、人口政策のなかで中絶が語られてきた歴史が明るみに出て、自分たちが国家や権力によってコントロールされている存在だと気付かされます。

中絶医療の遅れ自分の中の変化
 「日本の中絶医療が遅れていると耳にしたのは2年ほど前のこと。中絶医療が進んだ国では避妊も中絶も選択肢が多く、費用の面でも当事者に負担がかからないようになっています。どの国にも、国に生殖を管理されてきた歴史がありますが、その後どれだけ女性の人権が考えられてきたかが、中絶医療の状況に反映されていると思います」

 これまでにはないテーマに取り組んだ石原さん。自分の中で起きた変化について、こう語ります。

 「これまでも女性差別に抗(あらが)う気持ちはありましたが、一方で、家父長制的な価値観を内面化してきてしまった部分もありました。それが、ここ2、3年、#MeToo運動やフラワーデモに参加するなかで、私自身もアップデート(更新)され、フェミニズムについて、もっとちゃんと勉強してみようという気持ちになりました」

 「これまでも先入観や固定観念を払拭(ふっしょく)し、紋切り型から脱しようともがいてきました。本作では、フェミニズムによって中絶の不幸なイメージを変えることができたと思っています。今後もいろいろな問題を扱っていくと思いますが、フェミニズムを軸足にした姿勢は変わらないだろうって思いますね」

 今の社会を、「空気自体がぴんと張りつめているようだ」と言います。

 「フェミニズムが浸透してきた一方で、それへの反発もあるし、根強く生きている差別もあります」

意見尊重の経験積み重ねないと
 「避妊や中絶について、変えてほしいこと、変わってほしいことはいっぱいありますが、性教育の充実もぜひ実現してほしいことの一つです。性教育は人権教育です。家父長制的な価値観にとらわれることなく、自分の身体のことを自分で決められるようになるためには、小さい頃から、意見を尊重される経験を積み重ねなくてはなりません。すべての子どもが、自分の身体も意見も、大事にされる価値がある、と言えるようにすることが、人権教育の第一歩です。それが言えてはじめて、他者の人権も尊重できるのではないでしょうか」

 *東京演劇アンサンブル公演「彼女たちの断片」 演出=小森明子、出演=ほかに洪美玉、原口久美子、山﨑智子、志賀澤子、奈須弘子。23~27日、東京都渋谷区・伝承ホール。電話048(423)2521

 いしはら・ねん 1972年、東京都生まれ。小説『赤い砂を蹴る』(第163回芥川賞候補)。戯曲に「父を葬る」「沈黙」「夢を見る~読み語り版~」