ICPDからの帰国直後「リプロダクティブ・ライツ」は重要と河野外務大臣が発言
040 大渕絹子
○大渕絹子君 日本では一八八〇年に堕胎罪というものが制定をされますね。そして、その堕胎罪によってどういうことが図られてきたかといえば、いわゆる国の政策にのっとって産めよふやせよというような形の中で人口増加政策がとられてくる。その後、敗戦後一転して今度は人口が急激にふえていくことを抑えるために優生保護法が一九四八年につくられます。そして、その優生保護法の中で人工妊娠中絶というのを認めていくわけですよね。その認めていく中で、さらに今度は人口が増加をしていくという状況になってきて、それに対応するかのごとく、一九四九年に優生保護法の中に初めて今度は、母体の保護というのが前提ですけれども、経済的な理由で産めない人にも中絶が適用されて、そして日本の人口の急増というのは抑えられていくわけなんです。
この一九四九年当時というのは、日本ではまだ避妊の技術といいますかそういうものも、あるいは唯一の避妊方法であるコンドームさえも全国的には普及をしていないという状況の中で、この優生保護法の経済的理由というところにとらえられて中絶が行われていったということが実際なんですよね、日本の歴史の中で。これは私の母親の時代ですけれども、そういう実態というのはよく聞かされてきておりました。
そういう中で日本の人口抑制がされてきたということは世界の人は知らないわけで、この演説を見る限りでは、日本は女性の男女平等が非常に進み、女性の教育が進み、情報公開もされて、そして抑制をされてきたというふうに広げられていくということに対して、私はそうではなくて、事実はこうだったけれどもという、そういう事実を踏まえながら、しかし今、少子化社会に入ってしまっているということをやっぱり言っていかなければならないのじゃないかなというふうに強く思うわけでございます。
大臣は、自分から申し出てそこの部分は削ったと言われておりましたので、大臣が認識をしておられたので安心をしましたけれども、そういうのがわかっておらない男性たちもたくさんおるのではないかと思うのですね。だから、そういう中で厳然として今この堕胎罪というものがまだ日本の法律の中にあるということ自体、この国際人口会議で採択をされた女性の権利とも絡めて私は非常にこれは時代におくれている、そういう時代とギャップの持った法律ではないかと思うのですけれども、大臣はいかがお考えでしょうか。
041 河野洋平
○国務大臣(河野洋平君) 外務大臣としては非常に難しい質問をされているわけで、私の認識がもし浅く、間違っているようだったら厚生省に訂正をしていただかなきゃならぬと思います。
先ほど私申し上げたように、リプロダクティブライツという視点というものは実は非常に重要なのではないか。これは女性、それから生まれてくる子供たち、生まれるであろう、生まれるはずであったと言ってもいいかもしれません、あるいは生まれるであろう子供たち、こういった人たちに視点をきちっと当てて議論をするということが実は非常に重要だという感じを私は持っておったわけです。
それと同時に、経済的理由による中絶が日本の人口を抑制する一つの要素になっていたかもしれないというもし御指摘であるとすれば、私は人口増加を抑制するための、あるいは人口増加が抑制された理由というものはたくさんあって、そのうちのそれは一つであるいはあったかもしれないというふうには思います。ただし、それが人口増加の抑制の主要な原因であったかと言えば、それはそうも実は思わないのでございます。
戦後の日本社会の中における女性の地位、女性の権利あるいは女性の発言権、そういったものほかなり早く認められたと考えていいのではないでしょうか。これはアメリカがそういう指導をかなり積極的にしたということもきっとあると思います。つまり、女性が衆議院、参議院議員となって相当多数の女性議員が発言をするということもございましたし、それはもっと以前のそうでなかった時代に比べればかなり発言権を持ったというふうに思います。しかし、それはどの社会でも非常に厳しい状況を通過する、経験をしてきたということもまた私は否定できないというふうに思います。
042 大渕絹子
○大渕絹子君 この女性の権利、産む産まないということまで含めて女性の権利として確立をしていこうというのが今回のリプロダクティブヘルスとライツの精神ですよね。その精神とこの日本の法体系が合わなくなっているということなんですね、私が申し上げたいのは。堕胎罪の存在ももちろんそうですけれども、その堕胎罪から逃れるために優生保護法が制定されて、そして人工妊娠中絶が認められているわけですけれども、この法律の中でさえも主体は女性ではないのですね。それを選ぶのは女性ではないんです。中絶できるかどうかを決定するのは、あくまでも法的に決められたお医者さんなんですね。そこが手術をするかどうかの権限を持つというところに私は非常に納得できない部分があるわけです。
今回、この人口会議でもそこのところ、女性の産む産まないの権利というところで一番議論が沸騰したわけですけれども、先進国だと言われている、あるいは人口抑制に成功したと言われている日本でさえも、厳然としてこの二つの法律によって女性の産む産まないの権利は阻害をされているということに非常にギャップといいますか開きを感ずるわけですね。だからこそ、この人口会議で二十年の行動計画に示されたこの権利、女性の権利として確立をしていこうという提唱がなされたこの時期に、日本においても堕胎罪のあり方や優生保護法のあり方というものを根本的にとらえ直して、今の時代にマッチをした新しい女性の生き方として認められるようなそういう新しい法律、システムをつくっていく時期が来たのではないかと思うんですね。
そのことを強く今訴えたいし、そのことを副総理、人にやさしい政治をする村山内閣の副総理でいらっしゃいますよね、そして自民党総裁でもあられますので、そういう議論といいますか、そういうものを出していっていただきたいなと心から思うわけでございますけれども、その御決意をひとつ聞かせていただきたいと思います。
043 河野洋平
○国務大臣(河野洋平君) 医師の判断というものがかなり重要だという視点もあると思うんです。それは医学的知識を持たずに産むか産まないかという判断をするということについて、医師がその判断について医学的に医師としての判断をするということも、それも私は全く否定するわけにはいかないだろうと思うんです。
私がこういうことを申し上げておりますのは、人工妊娠中絶についての議論はさまざまな角度から、宗教的見地から御議論をなさった方もありますし、医学的見地からなさった方もありますし、人権といいますか権利として議論をなさった方もありますが、それはさまざまな角度からさまざまな議論がこれまでもあったし、あの会議でもあったわけでございまして、これらのことは、今委員御指摘のような視点も、私は全くそういう視点を考えないというわけにはいかない大事な御指摘だと思います。
しかし、いずれにしても、私が申し上げたように、一つの議論としては医学的な判断というものも重要だということもあるわけで、さまざまな議論を経て判断をされるべきもので、私のような人間の一方的な判断というものはまだまだこの議論からいえば不十分だというふうに自分自身思っております。
044 大渕絹子
○大渕絹子君 しかし外務大臣、大臣は演説の中で、女性の権利としてリプロダクティブライツを認めていくということはこれから先の重要な課題であるというふうにもおっしゃっておりますし、そのことを実現するために行動計画も示されているわけですから、日本が率先してそういう日本の中にある法体系を変えていくということに踏み出すことに私は大きな意義があると思うんです。
今このままの法体系で残しておきますと、一九九〇年にもあったわけですけれども、中絶ができる妊娠の時期というのがあるんですけれども、それを二週間ほど縮めてしまった通達が出されたということがあったわけですね。そういうことも、これから先も医学が進めば進むほど母体外で生きられる子供の時期というのは短くなっていくと思うんですけれども、そのたびごとに通達が出されて中絶の幅が狭められていくという危険性が非常にあるんですね、このままの法体系でいくと。だから、女性の権利としてそのことが認められるのであるならば、この法体系は変えていかなければならないと思っています。
女性議員を中心にしましてこういうことの改正についても話し合われていますので、これから先もどうぞ積極的にかかわっていっていただきたいことをお願い申し上げます。
045 河野洋平
○国務大臣(河野洋平君) 御意見は十分伺いました。