リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

政治の右傾化と中絶禁止

アメリカのFDAが中絶薬の薬局販売を広く承認

 最高裁のドブス判決で中絶の権利が否定されたアメリカと、2020年の最高裁でほぼすべての中絶を禁止する判決が出たポーランドのどちらも、世論調査によると国民の過半数が「中絶合法化」を支持していることが明かになっている。両国の中絶禁止は、国民の総意によるものではなく、むしろ政治の右傾化に影響されているように見える。
 トルコでは、1983年に中東諸国の中で数少ないオンデマンドの中絶(妊娠10週まで)を認めたが、2012年に保守派の政治家たちが中絶を制限する法案を出して中絶反対の議論が活性化した。以後、かつては無料で中絶を提供していた公立病院が中絶医療から撤退し、今では数少ない民間クリニックで高額な費用(700ドルくらい)を払わないと中絶を受けられなくなっている。韓国でも、2019年に中絶を禁じた刑法堕胎罪関連規定に対して憲法不合致の判決が出て、2021年1月1日から実質上刑法堕胎罪が停止した。しかし、2022年に保守派の尹錫悦(ユン・ソクヨル)が大統領に就任して以来、中絶にまつわる法や医療の改善は滞っている。
 COVID-19 のパンデミックの最中に、ポーランドでは合法的な中絶が制限され、トルコでは公立病院で中絶を受けられない状況が悪化している。こうした国際的な変化のさなかに、アメリカでも時代に逆行するような最高裁判決が出てしまったわけである。FIGOもWHOも、ドブス判決が出てすぐにアメリカを非難するコメントを発した。
 バイデン大統領も、就任時に中絶が禁止された州に対して連邦政府は何らかの働きかけを行うと誓った。このたびのFDAの新ルールへの転換は、バイデン政権のプロチョイス政策のひとつだと言えるだろう。
 実は、ドブス判決が出る以前から、アメリカの中絶の過半数はすでに薬による中絶に移行していたという。この判決以降は、薬で行われる中絶の比率がますます急上昇しているそうだ。