リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ガラパゴス化

日本の中絶医療はガラパゴス化している……と言い続けてきたが

本棚の隅から出てきた一冊『ガラパゴス化する日本』吉川尚宏

あ、これだ……と思い出した。3つのガラパゴス化を指摘している。


日本製品ガラパゴス化~日本企業がつくりだすモノやサービスが海外で通用しないこと
日本という国のガラパゴス化~日本という国が孤立し、鎖国状態になること
日本人のガラパゴス化~外(海外)に出たがらなくておとなしい日本人の傾向


このうち、日本製品ガラパゴス化現象は、以下のようなプロセスで進んでいくとされる。
①高度なニーズに基づいた財・サービスの市場が日本国内に存在する
②一方、海外では、日本国内と異なる品質や機能を求められる市場が存在する
③日本国内の市場が独自の進化を遂げている間に、海外諸国では異なるスタンダードが普及していく
④気がついたときには、世界の動きから大きく取り残されている


中絶医療のガラパゴス化は、まさにこのパターンに当てはまる。
①1940年代という早い時代に中絶医療を合法化してしまい、莫大な需要に応えるために、古い掻爬を工夫して対応することで技能を磨き、独自の方式を完成させていった。1980年代には掻爬では中絶を行えない中期中絶のために専用薬を開発し、掻爬と中期中絶薬による「分娩法」が鉄板のスタンダードになった。水子供養の流行を経て中絶はタブーとなって女性たちは沈黙させられ、中絶のスティグマ化が進行していった。
②海外では1970年頃になって女性の権利としての中絶が解禁され、より安全で確実な方法を求めてカーマン式カニューレを採用した吸引法が一気に広まった。女性の健康運動は、避妊や中絶を「女のもの」としてより改良することを求めた。
③海外では経口中絶薬の開発も進められ、21世紀初めには吸引と経口中絶薬による中絶がスタンダードになった。いずれも中絶を「早期化」する傾向があったため、中絶へのスティグマはどんどん緩和されていった。セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス&ライツの議論もますます進行し、カイロ会議では妥協の末ではあったがRHとRRの文言を書き込むことに成功した。
④日本でも男女共同参画が進められるなか、政府は「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」を推進するはずだった……が、2005年の基本計画からリプロはほとんど消され、その後、二度と戻ってこなかった。リプロダクティブ・ヘルス&ライツこそ、日本で「人権」を学んでいくための戸口になったはずだったのに……。2023年、日本でもようやく経口中絶薬が導入されたが、これまであまりにも独自路線を来たために、海外とは「中絶」そのものの捉え方も違えばスティグマのありようも異なり、医師も女性たちも使いこなすことができずにいる。


ある記者と話をしていて、日本に導入された経口中絶薬は「鎖国していながら出島でだけ使用を許可されているようなもの……」と思わず口から飛び出して、ああ、まさにそうだなと思った。もっとあたりまえの「日常的」な医療になってほしい。