女性の人権としてのリプロダクティブ自己決定権
国連特別総会「女性2000年会議」(2000年6月5日~10日)のアドホック全体会合に関する報告書(2000年9月公表)から 総理府仮訳
国内レベルで取るべき行動
各国政府により:
66~67割愛…
68.
(a) 女性があらゆる人権と基本的自由を享受することを保護・促進し、女性及び少女に対する権利侵害を容認しない環境を作るための諸施策を立案して実施に移す。
(b) できる限り早く、望むらくは2005年までに、差別的条項の撤廃に努めることを目的として法律の検討を行い、女性や少女が自らの権利を保護されず、ジェンダーに基づく差別に対抗出来る有効な救済手段を持たない状況下に放置されるといった法的ギャップを除去することによって、差別のない、ジェンダーに配慮した法的環境を構築し維持する。
(c) 女子差別撤廃条約を批准し、同条約に対する留保を制限し、同条約の目標及び目的に反する、あるいは国際条約法と相容れない留保を撤回する。
(d) 女子差別撤廃条約の選択議定書の署名及び批准を検討する。
(e) 国際刑事裁判所ローマ規程の署名及び批准を検討する。
(f) 女性や少女に対するあらゆる形態の差別を禁止・撤廃する法律・手続きの策定・検討・実施を行う。
(g) 母性(マタニティ)、母であること(マザーフッド)、親であること(ペアレンティング)、及び出産における女性の役割が差別の根拠となったり、女性の完全な社会参加を制限することがないよう、計画や政策を含む各種措置を講じる。
(h) 土地改革、地方分権、経済再編など、国の立法・行政改革が、女性、とりわけ農山漁村の女性や貧困の中で暮らす女性の権利を推進するものとなることを確保し、土地、財産権、相続権、信用、女性銀行や協同組合といった伝統的貯蓄方式などの経済的資源への女性の平等なアクセス・管理を通じて、女性のこれらの権利を促進し、女性が権利を享受できるような施策を講じる。
(i) 難民の地位及び庇護を認める根拠の評価に当たり、ジェンダーに関連した迫害や暴力を認定する措置を考慮するなど、あらゆる女性の権利を保護・促進するために、適当な場合には国の出入国管理及び庇護に関する政策、規則及び運用にジェンダーの視点を組み込む。
(j) 個人、組織又は企業による女性や少女に対する差別や暴力を根絶するあらゆる適切な措置を講じる。
(k) 民間部門や教育機関が差別を禁じた法律の遵守を促進・強化するよう、必要な対策を講じる。
69.女性に対する暴力(割愛)
70~71. 割愛72.
(a) 極めて疾病率・死亡率が高い疾病を含む、マラリアや結核、HIV/AIDSその他女性の健康に不均衡に大きな影響をもたらす疾病など、新しく出現した、また現在も続いている健康上の問題におけるジェンダーの側面に、優先順位に基づいて対処する政策を採用し、対策を実施する。
(b) 妊産婦の罹患率・死亡率の低減を保健部門の優先事項とし、また、とりわけ母胎の安全確保を推進し、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、骨粗しょう症、HIV/AIDSなど性感染症の防止、発見、治療に優先的に対処するため、女性が基本的な産科医療、設備と十分な人員が整った妊産婦医療サービス、熟練した分娩介助サービス、救急産科医療、必要に応じた高度医療施設への効果的な照会サービスや搬送、産後ケア、家族計画に容易にアクセスできるようにする。
(c) 良質の家族計画サービスや避妊についていまだ充足されていないニーズを満たす対策、すなわち、サービスと供給と利用の間に現在存在するギャップを埋める対策を講じる。
(d) 女性の死亡率や罹患率に関する最新かつ信頼のできるデータを収集し普及するとともに、社会的・経済的要因があらゆる年齢の少女や女性の健康に与える影響についての詳しい研究、及び少女や女性に対する保健医療サービス提供、かかるサービスの利用パターン、女性を対象とした疾病予防・健康増進計画の価値に関する研究を行う。
(e) 男女を問わず誰でも、生涯を通じて、教育、清潔な水、安全衛生設備、栄養、食料安全保障、健康教育計画など、保健医療関係の社会サービスを平等に利用できるようにする。
(f) 保健医療従事者に安全な労働環境を提供するようにする。
(g) 必要に応じ、また適当な場合には、女性団体やその他の市民社会の関係者と協議し、保健関連の法律、政策、計画を採択、実施、検討、改定するとともに、あらゆる女性に生涯を通じての包括的でしっかりした内容で、料金が手頃な保健医療、情報、教育、サービスの提供を行うことで、達成可能な最高水準の心身の健康を確保し、HIV/AIDSの流行や女性特有の精神的・職業的保健計画の必要性や加齢に関する新しい知識が得られた結果女性や少女から新たに寄せられるようになったサービスやケアの要請にこたえ、また適当な場合は、取り締りや法的体制の設立又は強化により、あらゆる保健サービスや保健従事者が、女性を対象とした多様な保健サービスの中で倫理的、専門職業的かつジェンダーに配慮した基準に沿って人権を保護・促進するよう、必要な予算措置を行う。
(h) 保健情報、教育、保健医療サービスへのアクセスに関して、あらゆる女性や少女に対する差別を撤廃する。
(i) リプロダクティブ・ヘルスとは、人間の生殖システム、その機能と(活動)過程のあらゆる側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあることを指す。したがって、リプロダクティブ・ヘルスは、人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖能力を持ち、子供を産むか産まないか、いつ産むか、何人産むかを決める自由を持つことを意味する。この最後の条件は、男女とも自ら選択した安全かつ効果的で、経済的にも無理がなく、受け入れやすい家族計画の方法並びに法に反しない他の出生調節の方法についての情報を得、その方法を利用する権利、及び女性が安全に妊娠・出産でき、またカップルが健康な子供を持てる最善の機会を与えるよう適切なヘルスケア・サービスを利用できる権利について示唆している。上記のリプロダクティブ・ヘルスの定義にのっとり、リプロダクティブ・ヘルスケアは、リプロダクティブ・ヘルスに関わる諸問題の予防、解決を通して、リプロダクティブ・ヘルスとその良好な状態に寄与する一連の方法、技術、サービスの総体と定義される。リプロダクティブ・ヘルスは、個人の生と個人的人間関係の高揚を目的とする性に関する健康も含み、単に生殖と性感染症に関連するカウンセリングとケアにとどまるものではない。
(j) 上記の定義を念頭に置くと、リプロダクティブ・ライツは、国内法、人権に関する国際文書並びに国連で合意したその他関連文書で既に認められた人権の一部をなす。これらの権利は、あらゆるカップルと個人が自分たちの子供の数、出産間隔及び出産する時期を責任をもって自由に決定でき、そのための情報と手段を得ることができるという基本的権利並びに最高水準の性に関する健康及びリプロダクティブ・ヘルスを得る権利を認めることにより成立している。その権利には、人権に関する文書にうたわれているように、差別、強制、暴力を受けることなく、生殖に関する決定を行える権利も含まれる。この権利を行使するに当たっては、現在の子供と将来生まれてくる子供のニーズ及び地域社会に対する責任を考慮に入れなければならない。あらゆる人々がこれらの権利を責任を持って行使できるよう推進することが、家族計画を含むリプロダクティブ・ヘルスの分野において政府及び地域が支援する政策と事業の根底になければならない。このような取組の一環として、相互に尊敬しあう対等な男女関係を促進し、特に思春期の若者が自分のセクシュアリティに積極的に、かつ責任を持って対処できるよう、教育とサービスのニーズを満たすことに最大の関心を払わなければならない。セクシュアリティに関する知識不足、リプロダクティブ・ヘルスについての不適切または質の低い情報とサービス、危険性の高い性行動のまん延、差別的な社会慣習、女性や少女に対する否定的な態度、自らの性と生殖に関し限られた権限しか持つことが出来ない多くの女性や少女の現状といった諸事情のため、世界の多くの人々はリプロダクティブ・ヘルスを享受できないでいる。思春期の若者は特に弱い立場にある。これは大部分の国では情報と関連サービスが不足しているためである。高齢の男女は性に関する健康及びリプロダクティブ/セクシュアル・ヘルスについて特有の問題を抱えているが、十分な対応がなされていない場合が多い。
(k) 女性の人権には、強制や差別や暴力を受けることのないセクシャル/リプロダクティブ/ヘルスを含む、自らのセクシュアリティに関する事柄を自ら管理し、それらについて自由かつ責任ある決定を行う権利が含まれる。全人格への全面的な敬意を含む、性的関係及び性と生殖に関する事柄における女性と男性の平等な関係には、性行動とその結果に対する相互の尊重と同意、及び責任の共有が必要である。
(l) 男性が安全で責任ある性と生殖に関する行動を取り、望まない妊娠やHIV/AIDSなどの性感染症を予防する方法を効果的に取り入れることを奨励し、それを可能とするような計画を立案・実施する。
(m) 女性に対する有害かつ医学的に不要な又は強制的な医療の介入並びに不適切かつ過剰な投薬を排除するために、あらゆる適切な措置を講じ、また、適切な訓練を受けた職員から、あらゆる女性に対し、見込まれる利益と副作用の可能性なども含め、自らの選択に関して、十分知らされることを保障する。
(n) 女性や若者など、HIV/AIDSや性感染症を抱えて生活している人々が差別されず、そのプライバシーが尊重されるような施策を講じ、HIV/AIDSや性感染症の更なる感染を防止するために、こうした人々が必要な情報に接する機会を封じられることがないよう、また非難や差別や暴力の対象となる不安を伴うことなく治療や介護が受けられるようにする。
(o) 国際人口・開発会議の行動計画のパラグラフ8.25は以下のように述べている。
「いかなる場合も、妊娠中絶を家族計画の手段として奨励すべきでない。全ての政府、関連政府間組織及びNGOは、女性の健康への取組を強化し、安全でない妊娠中絶(注解20)が健康に及ぼす影響を公衆衛生上の主要な問題として取り上げ、家族計画サービスの拡大と改善を通じ、妊娠中絶への依存を軽減するよう強く求められる。望まない妊娠の防止は常に最優先課題とし、妊娠中絶の必要性をなくすためにあらゆる努力がなされなければならない。望まない妊娠をした女性には、信頼できる情報と思いやりのあるカウンセリングが何時でも利用できるようにすべきである。健康に関する制度の中で、妊娠中絶に関わる施策の決定又はその変更は、国の法的手順に従い、国または地方レベルでのみ行うことができる。妊娠中絶が法律に反しない場合、その妊娠中絶は安全でなければならない。妊娠中絶による合併症に対しては、いかなる場合も女性が質の高いサービスを利用できるようにしなければならない。また、妊娠中絶後にはカウンセリング、教育及び家族計画サービスが即座に提供される必要があるが、それらの活動は妊娠中絶が繰り返されることを防ぐことにも役立つ。」
(注解20)安全でない妊娠中絶とは、必要な技術を持たない者により、あるいは最低限の医学水準に達していない環境、若しくはその両方の状況の下で、望まない妊娠を中絶させる措置と定義される。(世界保健機関技術作業グループ報告、「安全でない妊娠中絶の防止と管理」ジュネーヴ、1992年4月(WHO/MSM/92.5)による。)
この記載を勘案し、違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を含んでいる法律の見直しを考慮する。
(p) あらゆる女性、特に思春期の少女及び妊婦を対象として、男女別の包括的なたばこ防止・抑制戦略を推進・改善する。この戦略には、特に教育、たばこ防止・禁煙事業、たばこの煙にさらされる環境の改善、世界保健機関の国際たばこ対策枠組条約の支援などが含まれる。
(q) 薬物が健康に与えるリスクやその他の影響、家族に及ぼす影響に関する情報キャンペーンを始め、女性や思春期の少女に広がる薬物乱用の撲滅を目指した情報計画や治療を含む処置を推進し、又は改善する。