リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日本では中絶は紙一枚の先にある

フランス人記者Cécile Pirouさんのインタビューを受けました

タイトルは"Au Japon, l'avortement ne tient qu'à une feuille" 
Slate FRというニュースサイトに載っています。
記者Cécile Pirou - 編集Thomas Messias - 2023年10月13日 20時00分

仮訳します。

 日本では既婚女性が中絶するためには、いまだに夫の同意書が必要である。しかし運動家たちは、この悪名高い書式を廃止させるための行動を準備している。
キャプション:中絶にアクセスするために法律で義務づけられている配偶者の同意書。紙版しか受け付けていない。


 日本では1948年以来、レイプや「身体的・経済的健康への危険」がある場合に中絶が認められてきたが、今年までは器具を使った方法しかできなかった。2023年5月以降、日本では中絶ピルが使用できるようになったが、日本人女性がこの方法を使用するには、資格を持つ婦人科医による夫婦間の同意が必要である。

 未婚の女性の場合、この同意要件は、たとえ父親が患者のパートナーでなくなったとしても、父親に拡大された。上記のような特別な状況を除けば、中絶の際の同意不履行は刑法に明記されているからである。


 現行法は、困難で劇的な状況を作り出している。安全な中絶のための#もっと安全な中絶を(ASAJ)のメンバーである梶谷風音と塚原久美は、安全な中絶の新しい手段の登場とともにこの要件が廃止されることを望んでいると語った。「私が経験したようなことを、娘にはさせたくないのです」と、久美は21歳で中絶した自身の経験に言及した。


紙一枚のあるなしで
 ゆうこ*は全く子供を望んでいない。結婚前からそのことを知っていた夫は、最初は理解を示してくれた。夫婦は避妊の方法としてコンドームを使っていたが、結婚後、ゆうこの夫はコンドームを使いたがらなくなった。彼女はピルを飲んでいなかったので、避妊薬を処方してくれる医者を見つけたときには妊娠していた。

 同じ頃、ゆうこは夫が莫大な借金を隠していたことを知った。彼女は中絶を決意したが、夫は書類にサインすることを拒否した。ゆうこは、郊外と大都市の2人の医師に相談し、何としても許可を得ようとした。二人の医師はきっぱりと断り、用紙がなければ中絶はできないと、ほとんど理解を示さなかった。31歳のゆうこは、法律の範囲内で妊娠を継続したいのであれば、妊娠を継続するしかない。

「婦人科医の職業団体は女性の自律を理解していない。このような法律で女性を守っているつもりなのだ。早乙女智子、産婦人科


 風音はゆうこのような事例をいくつも集めている。絶望的な状況に追い込まれ、時間がないとき、女性たちは彼女に連絡する。パートナーと遠距離恋愛中のすみこ*のケースだ。妊娠中で、激しいつわりに苦しんでいた彼女は、男性の職場でサインをもらうために、日本での中絶の法的期限である22週という時間と戦いながら、国を横断しなければならなかった。

 みえこ*は、別居中だが離婚はしていない暴力夫の同意を得なければならなかった。接近禁止命令が出されていたにもかかわらず、医師は、夫が同意書に署名するために、警察に付き添われて夫に会うことを強要した。


医師を保護する法律
 母体保護法は、不妊、中絶、出産に関する行為を規制する法律である。産婦人科医として36年の経験を持つ早乙女智子医師にとって、母性に関する法律と女性の身体の完全性に関する権利をごたまぜにするのは間違いである。

 日本で1999年から販売されている避妊用ピルの認可に貢献したと主張するこの産婦人科医は、開業当初から中絶手術の認可を受けていた。しかし、何年もの間、中絶を希望する女性からこの書類の提出を求めなければならないことが、彼女にますます重くのしかかってきた。


 早乙女智子は、中絶手術の免許を持つすべての人が持っている、かなり分厚いマニュアルを見せてくれた。そこには医師に対する勧告が書かれており、医師を保護する目的で、医師の権利についても言及されている。一方、患者についての記述はほとんどない。

写真キャプション:産婦人科医として36年のキャリアを持つ早乙女智子さん(2023年7月、横浜の診療所近くで)|Cécile Pirou


 「産婦人科医の専門家団体は女性の自律を理解していません。このような法律で女性を守っていると思っているのです」と彼女は言う。しかし、こうした強力な団体が法律の起草に関わっているのだ。多くの産婦人科医が同意廃止に賛成していると早乙女医師は考えているが、日本の組織がこの発展を妨げている。

 「母体保護法や刑法の中絶に関する法律を改正しない限り、同意書を廃止することはできません」と彼女は付け加える。与党は憲法を変えようとしているが、他のほとんどの政党は反対している。刑法を変えるということは、他の法律を変えるということであり、同意書を削除できるほど世論がまだ熟していないことも理由のひとつだと思います」。


出産の義務
 女性は日本の人口の50%強を占める。梶谷風音は4歳の頃から男女の待遇の違いに気づいていた。若い女の子が出産年齢に達すると、それは義務になる。「政府は女性の意思に反して子供を産むことを強制している」と、若い日本人女性はこの運命を受け入れない。

キャプション:ASAJのメンバー、梶谷風音。

 活動家としての梶谷風音は女性の権利のために戦っている。自分の体をコントロールする権利は、彼女の最優先事項だ。塚原久美は、避妊ピルを求めて戦った世代の一人だ。彼女は、新しい世代が女性の権利のための闘いにもっと参加しないことを嘆く。

 今日、日本で戦っている一握りの活動家は、多くの障害に直面している。高齢化社会を目の当たりにしている日本の政治家は、女性に子どもを産むかどうかの選択肢を与えるつもりがない。中絶ピルは、中絶へのアクセスを容易にする一歩となるはずだった。しかし、実際にはそうなっていない。


苦い薬
 搔爬や吸引を伴う中絶方法は10分で十分終わるが、薬による方法では8時間が必要になる。日本のプロトコルでは、女性は2剤目を服用した後も医療機関に待機しなければならない。これは、患者にとっても、患者を収容するのに十分なベッドを備えなければならない施設にとっても、現実的な制約である。

 薬による中絶の登場は、必ずしもすべての医師に歓迎されているわけではない。特に、1回の搔爬や吸引による手術で10万円から15万円(630ユーロから1000ユーロ)を儲けている医師たちはなおのことだ。中絶薬の処方は診察料しか入らず、中絶薬の価格は5万円、約320ユーロだとされる。

 日本では、中絶薬の平均的な費用は診察料を含めて100,000円(600ユーロ以上)になると言われており、すべて患者が支払わなければならない。日本の担当機関が多大な治験を行わせていることも、この高額な料金を正当化する理由にされていると、塚原は説明する。彼女が製薬会社(の元担当者)から得た情報によると、日本で課されたような治験のほとんどは、他の国々では要求されたことがないという。

 イギリスのラインファーマ社(の日本子会社)から発売された©メフィーゴパックは、(中絶に失敗して)胎児が誕生してしまった場合に奇形が生じる可能性があることを理由に、政府によって「劇薬」と分類されている。「存在しえない子孫に害が及ぶからということで、この薬を有害と表現するのは馬鹿げている」と、久美はコメントし、このような分類は日本の女性たちの困惑を深めるばかりだと付け加えた。

女性は日本の人口の50%強を占める|Cécile Pirou

 風音はメフィーゴパックに関する海外の研究を日本語に翻訳するのに多くの時間を費やし、久美は日本の女性たちにこの薬を使った中絶方法を正しく伝え、反対派に対抗するために、新聞等に何本も記事を書いている。しかし今のところ、この新しい選択肢について正しく理解している女性はかなり限られている。


 日本のアクティビストたちは政府を相手取り、中絶に課された同意と不妊手術に課された同意の両方について、法律から削除することを目的とした法廷闘争も辞さない覚悟だ。もしそうなれば数年かかる可能性がある。

 一方、早乙女医師は今年、自身が住み開業している横浜の地方選挙に立候補する予定だ。法律や権利の改善のために女性専門職団体で何年も運動してきた彼女は、政治への進出が事態を前進させる一助になることを望んでいる。

*氏名は変更されている。