リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

性と生殖に関するヘルスケア・プロバイダーを人権擁護者として認める時が来た

Ms. Magazine, 1/9/2024 by VICTORIA BOYDELL and KATE GILMORE

仮訳します。

性と生殖に関するヘルスケア・プロバイダーを人権擁護者として認める時が来た
2024年1月9日 ヴィクトリア・ボイデル、ケイト・ギルモア著


世界中で、最前線で生殖医療に携わる人たちが、肉体的・言葉による虐待、公の場での辱めや屈辱、ハラスメント、法的脅迫、殺害予告、性的暴行、レイプなどに直面している 


 世界中で、性と生殖に関する保健医療サービスを受ける権利を守る最前線の保健医療従事者が、アンチ・チョイス勢力から悪質な攻撃を受けている。

 アフリカの角では、15年にわたり性と生殖に関する保健サービスを提供してきたある地区保健所の職員が、地元の保守派からの攻撃に直面していると語った。 「彼らは、私の信念と価値観のために、私を射殺しようとさえした。彼らに『お前は大量虐殺者だ』と言われた」。

 この恐ろしい体験は、深く憂慮すべき、しかしほとんど報告されておらず、文書化もされていない世界的な傾向の一部である。

 この2年間、私たちはセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス、権利、正義(SRHRJ)の専門家・研究者として、助産師、産婦人科医、コミュニティ・ヘルスワーカー、ピア・エデュケーター、ボランティア、研究者、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス・サービスのアドボケイトなど、私たちの同僚に対する身体的・言葉による攻撃に関する悲惨な証言を集めてきた。最前線にいる人々は、身体的・言葉による虐待、対面・オンラインを問わず公衆の面前での辱めや屈辱、嫌がらせ、法的脅迫、殺害予告、性的暴行、レイプについて述べている。

 「2019年、ある助産師がクリニックで大勢の人にレイプされた」と南アジアのある同僚は振り返る。「何も起こらなかった......ただ、その助産師は(引っ越して)仕事を失い、収入を失った」。

 別の同僚は、地元の反権利団体についてこう語った。「彼らは私たちの保健センターを破壊しようとする……窓ガラスに石を投げつけてきた」。

 ガーナでは、性と生殖に関する権利の擁護者が、特に農村部では、避妊について人々を教育したり、児童婚のケースに介入したりしただけで、保健サービス提供者が殴られたり、公に恥をかかされたりしてきたと述べた。

 安全への不安は、保健医療従事者の家族にも及ぶ。

 「それは死の脅しです」と南アジアの同僚は言う。「私は自宅で仕事をし なければならず、......(雇用主は)私を送るのにいろいろな車を使っていた。それから、『この仕事をやめろ』という脅迫を受けた。『子どもたちの通学先はわかっている』とも」。

 米国では、1990年以降、少なくとも11人のSRHR提供者が殺害され、1977年以降、42件の爆弾テロ、196件の放火、491件のセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス・サービスに対する襲撃事件が発生している。

 これらは、国際家族計画連盟(IPPF)、MSIリプロダクティブ・チョイス(MSI Reproductive Choices)、アイパス(Ipas)、国際助産師連盟(International Confederation of Midwives)、国際産科婦人科連合(FIGO)を含むSRHRの主要組織と協力して、私たちが世界中のSRHR従事者に行った23のインタビューから得られたほんの一握りの事例にすぎない。取材対象者は安全のため匿名とした。それでもなお、医療従事者たちはリスクにもかかわらず、不屈の献身と回復力によって、公然と敵対的な環境での日々の仕事を勇敢に続けてきた。

 だが、もう十分だ。

 これまでは、このような問題についての私たちの知識は散発的で、逸話的なものが主であった。これらの勇気ある行動を認識し、彼らの人権を守り抜くための集団的な行動が必要である。SRHRを擁護する人々は、自分自身と患者の安全のために、また医療システム全体の利益のために、職場で保護され、完全に支援されなければならない。


極めて重要な公共性の問題
 医療擁護者やサービス提供者の安全やウェルビーイングが損なわれると、ケアの提供も損なわれる。

 私たちの仲間は、パニック発作睡眠障害、食欲不振、うつ病など、このような敵対行為による精神的な打撃について語り、私生活や人間関係に深く影響を及ぼしている。彼らはまた、将来の雇用主から拒絶されたり、SRHRに携わったことで専門家としての昇進を拒否されたりするリスクがあると考え、仕事上の不利益に直面している。このような報復は、保健部門に大きな影響を与える。保健ワーカーが顧客にサービスを提供する能力を妨げたり、制限したり、あるいは制約したりするのである。

 「医師や看護師は、家族や同僚から汚名を着せられている。「中絶医療に携わっていることを愛する人に話すことを恥ずかしく感じている」。

 私たちの同僚の心身の健康と幸福は、このような敵意が医療システムにより広く永続させる緊張、ストレス、士気の低下のサイクルと同様に、より真剣に考慮されなければならない。


説明責任から逃れる
 世界保健機関(WHO)によると、世界中の医療従事者の60%以上が職場での暴力を経験している。このことは、性、セクシュアリティ、生殖に携わる医療従事者にとってはさらに顕著である。こうしたテーマは、こうしたサービスに対して公然と敵対的な公的議論、法律、政策を推進する政治的・宗教的アクターによって政治的に荷担されることが多い。

 私たちは、アルゼンチン、ポーランド、米国、ウガンダ、ロシア、ケニアなどの国々で、権威主義的な指導者たちが、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)サービスを求める人々や提供する人々に対して、スティグマ、恐怖、ヘイトスピーチを展開することで、自らの政治権力を強化するのを目撃してきた。

 しかし、SRHRワーカーに対する暴力行為を行う者や、公に反感を煽る者の多くは、その行動の結果に対する説明責任をほとんど免れている。つまり、これらの人権擁護者は、この不可欠で命を救うケアを提供するために攻撃され、訴追されることを常に恐れながら生き続けているのである。

 だが朗報は、集団的な行動が始まったことである。

 2022年初頭、私たちは人権に基づく対応と、SRHRの最前線で活動する人々の世界的な状況についての行動指向の調査を通じて、セクシュアル&リプロダクティブ・ライツの最前線で活動する人々をよりよく保護するための呼びかけを開始した。

 私たちは昨年、最初の結果を発表し、SRHRワーカーに対する敵対行為の重大な証拠がある一方で、こうした攻撃の原因や結果についてはほとんど知られていないことを確認した。

 そして2023年11月、アムネスティ・インターナショナルの同僚たちは、安全な人工妊娠中絶へのアクセスを支援する医療従事者、活動家、アドボケイト、同伴者が、しばしば虐待に直面し、法律で認められている場合でも、その活動のために逮捕、起訴、投獄に直面する可能性があることを明らかにする画期的な報告書を発表した。この報告書は、中絶医療サービスを提供する人々を支援し保護するために、州、教育機関、専門機関、労働組合、政府間組織、ソーシャルメディア企業、ドナーに対して明確な勧告を提示している。


止められない運動
 今年は国連人権擁護者宣言から25周年にあたるが、このような世界的な擁護者に対する敵意を変革するには、すべてのSRHR提供者を人権擁護者として認めることから始めなければならない。

 最前線にいる私たちの仲間の声を増幅させることは、こうした危険で容認できないほど高いレベルの敵意について、一般の人々の意識を高めるためにも不可欠である。彼らの声と経験は、このような敵意の性質と結果について、より強固な証拠基盤を構築する上で不可欠であり、この証拠基盤は、医療サービスを求め、提供する人々を保護する人権上の義務を果たすよう国家に求めるために利用することができる。

 私たちは共に、必要不可欠なサービスを受ける紛れもない権利を求める止むに止まれぬ運動の歴史的瞬間を形成している。これらのサービスは、私たちの最も身近な権利、すなわち性と生殖に関する健康と正義に対する人権を実現するために、恐怖や脅威、不当な干渉なしに働く熟練した専門家によって提供されなければならない。