リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

妊娠中絶の権利が今年の欧州選挙選でこれまでにない形で取り上げられている

The Conversation, Published: March 13, 2024 2.57pm GMT

Abortion rights are featuring in this year’s European election campaign in a way we’ve not seen before

仮訳します。

 中絶の権利を憲法に明記するというフランスで最近下された画期的な決定は、1975年にフランスで初めて中絶を合法化した法律を保護するものである。この法律(いわゆるヴェール法)は、フランスで最も称賛され尊敬を集める政治家の一人であり、女性の権利運動の象徴であったシモーヌ・ヴェイユによって提唱された。

 1974年、ヴァレリー・ジスカール・デスタン仏大統領から政府の保健大臣を務めるよう要請された判事であったヴェイユは、重要な演説を行った。彼女は、当時ほぼ男性のみで構成されていた国民議会で、中絶の非犯罪化に関する公衆衛生の事例を提示したのである。

 演説は、特に政治的右派による激しい反対と敵意にさらされた。それでもヴェイユ下院議員の過半数を説得し、彼女の提案に賛成票を投じることに成功した。上院で承認されると、法律は1975年に発効した。これによりヴェイユは、女性の地位向上と解放の象徴となった。

 国内レベルでの政治的成功に続き、ヴェイユは1979年、初の欧州議会直接選挙に立候補した。当選後、同議会は彼女を議長に選出し、彼女は欧州機関のトップを務める初の女性となった。


選挙を前にして
 ヴェイユが初めて欧州議会に出席してから40年以上が経過した今、政党は6月に行われる最新の欧州議会選挙に向けて準備を進めている。そして、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)の問題が再び議題となっている。

 2022年、欧州議会は女性の権利とセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス権の後退を強く非難する決議を出す必要性を感じた。

 これは、50年にわたって中絶の権利を憲法で保障してきた「ロー対ウェイド事件」を米国最高裁が覆す決定を下したことに対応するものだった。しかし、これはEU加盟国の動向への対応でもあった。

 決議案は、特にポーランドで近年施行された事実上の中絶禁止に焦点を当てたが、中絶が違法であるマルタ、アクセスが制限されているスロバキア、手続きが「利用できない」ハンガリー、権利が脅かされているイタリアにも言及した。

 重要なのは、この決議が中絶の権利をEU基本権憲章に盛り込むことを求めていることだ。つまり、EU内のすべての女性がこの種のリプロダクティブ・ヘルスケアにアクセスする権利を持つことになり、自国での制限からある程度保護されることになる。

 この呼びかけは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領も、フランスにおける中絶の新たな憲法上の権利を記念する式典の中で繰り返した。

 しかし、この議会決議は、欧州議会の政治グループ間、時にはグループ内の内部分裂を覆い隠している。これらの政治グループが選挙キャンペーンや選挙マニフェストを打ち出す中、中絶問題がヨーロッパ全土で見られるより広範な政治的二極化の一部となっていることは明らかだ。

 今度の選挙で大きく躍進すると予想されている極右政党の多くは、中絶の権利の制限を求めている。欧州保守改革派は、イタリアのブラザーズやスペインのヴォックスなどの政党が集まった右翼団体で、「受胎から自然な最期まで、生命を守りたい」と述べている。

 「アイデンティティと民主主義」グループ内の政党は、この問題に関して共通の立場をとっていないが、いくつかの政党は制限的なアプローチを採用している。例えば、ドイツのための選択肢は最近、ドイツで医師が中絶手術に関する情報を提供することを妨げる法律を禁止する提案に反対票を投じた。

 議会で最大の政治グループである中道右派の欧州人民党は、この問題に関して意見が分かれたままだが、同党の欧州議会議員の大半は、中絶は各国の権限に属する問題であり続けるべきだという意見で一致している。

 一方、政治スペクトルの反対側のグループは、欧州選挙のマニフェストで、リプロダクティブ・ヘルスと権利を守り、拡大する必要性について明確に言及している。その中には、左派、緑の党社会民主党が含まれる。

 同様に、リベラル派のグループであるリニュー・ヨーロッパは、中絶の権利に関してEU全体でより大きな協調を推進している。また、最近発足したシモーヌ・ヴェイユ協定は、ジェンダー平等に関する汎欧州的な取り組みの強化を求めるものである。


新しい議会の任期
 ヴェイユは、欧州議会が欧州共同体の民主的発展における重要な機関であると考えていた。彼女は、欧州議会への投票権が欧州市民に与えられたことを画期的な出来事であり、欧州統合と意思決定への議会の関与を高める足がかりになると考えた。彼女のリーダーシップの下、欧州議会は認知度を高め、真の政治的アクターへと変貌を遂げた。


 ヴェイユは3年間議長を務め、1993年まで欧州議会議員を務めた。欧州議会議員としての3任期中、彼女は女性の権利に関する問題を支援し続けた。

 2018年、パンテオン(フランスで最も著名な市民のためだけに用意されたパリの霊廟)に埋葬される栄誉に浴したシモーヌ・ヴェイユがかつて主張したことが、熱い戦いが繰り広げられる欧州議会選挙を前に再び表面化している。

 新たに選出された720人の欧州議会議員が次期議会に臨むとき、妊娠中絶や女性の権利をめぐる議論や討論が続くに違いない。選挙の結果次第では、また違った論調になり、より高い位置を占めることになるかもしれない。