リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

グローバル・ギャグ・ルールの前代未聞の拡大:権利、健康、言論の自由を踏みにじる

Zara Ahmed, Guttmacher Institute, First published online: April 28, 2020

The Unprecedented Expansion of the Global Gag Rule: Trampling Rights, Health and Free Speech | Guttmacher Instituteから抜き書き・仮訳します。

トランプ政権は、米国内外で性と生殖に関する健康と権利を攻撃する明確なパターンを確立している。

いわゆるグローバル・ギャグ(口封じ)・ルール(GGR)は、外国の非政府組織(NGO)が中絶サービス、情報提供、カウンセリング、紹介、アドボカシーを提供するために、米国以外の資金を使用することを禁じている。

元々のGGRは、1984年にメキシコシティで国際人口会議が開催された時に、共和党レーガン大統領(当時)が導入したことから「メキシコシティ政策」と名付けられた政策だった。民主党クリントン政権が1993年に覆し、共和党になると復活、民主党が撤回と繰返してきた。トランプ大統領のGGRは規模も影響力も大幅に増幅したものだった。NGOヒューマン・ライツ・ウォッチHRW)によれば、過去のGGRによる米国の資金援助への影響は5.75億ドルだったが、トランプ政権では約22億ドルに上るとも試算されている*1

1984年にロナルド・レーガン元大統領によって初めて制定されたもので、中絶を提供する団体への連邦政府の資金提供を禁じている。

 それ以来、ワシントンはこの政策に翻弄されてきた。民主党の大統領であるビル・クリントンバラク・オバマはこの政策を撤回した。共和党ジョージ・W・ブッシュとトランプは、これを元に戻した。トランプ政権はさらに踏み込んで、中絶サービスを提供したり、女性に中絶を紹介したりする団体には、たとえそのサービスに連邦政府資金を使用していなくても、米国連邦政府からの資金提供を禁止している。

 この政策は「グローバル・ギャグ・ルール」とも呼ばれ、団体が提供するサービスの中に人工妊娠中絶を含めたい場合、あるいは中絶を行う他の団体を支援したい場合は、すべての米国からの資金提供をあきらめなければならない。

 2017年にトランプ大統領がGGRを敷いた時には、ゲイツ財団*2国連人口基金、イギリス政府の国際開発省(DFID)が共同で「家族計画サミット」を開催し、不安定なアメリカに頼らずに世界中の女性たちのリプロの権利を保障することへのコミットメントを確認しあい、この先何年にもわたる財源を確保した。

 民主党のバイデン政権下の現在はGGRは破棄されているが、次の大統領選の行方次第では復活する恐れがあつ。再びアメリカ国内の政治が世界のリプロの権利を不安定にすることを避けるために、アメリカに依存しない方法が模索されている。


以前のログも参照:2023-11-06 中絶はなぜ政治論争を超えるのか

上記のブログから一部引用する。

調査によれば、この政策によって中絶の数は減らないばかりか、避妊ケアやカウンセリングを受けることが難しくなるため、中絶がより一般的になることさえある。

 6月に発表されたカリフォルニア州スタンフォード大学のニーナ・ブルックス氏らの研究では、箝口令が敷かれていた年には、そうでなかった年に比べ、アフリカ26カ国の女性の中絶件数が40%増加していた。

*1:https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2018/05/ggrsrhr.html

*2:マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が、妻のメリンダ氏とともに2000年に設立した世界最大規模の慈善団体(朝日新聞2015.12.16)