リプロな日記

日本のアボーション(中絶と流産)にまつわる諸問題を研究しています

パワハラ・セクハラ・倫理

上司の厳しい失跡で鬱状態になり自殺した男性の遺族が損害賠償を請求していた事件で、「会社は自殺を予見できた」として賠償支払いが認められました。事件を知りたい方はこちらへ。

リプロそのものとは関係のない事件なのですが、先日出席した研究会で、若い研究者に対する先輩研究者の手厳しい質問のしかたが気になっていたところなので、目を引かれてしまったんです。後で「ああいうのもパワハラ」と評していた人がいたんですが、言われてみてば、そうだよな〜と。逆に、あれを見ていて、発言できなくなった人も少なからずいたように思います。

実際、わたしは幾種類もの学会に参加した経験があるのですが、女性の比率の高い学会では、ああいった手厳しい質問はあんまり見ないような気がします。男女比もだけど、暗黙のドレスコードがある(スーツとネクタイ着用、ただし先輩格はわりと自由)ところのほうが、上下関係が厳しいせいでしょうか、質問の口調もキツイという印象があります。根本には「後輩学者を育てようとする愛情」があるのだと信じたいですが、そうだとしたって、もう少しマナーがよくてもいいんじゃないかと思うときもしばしば……。今回、わたしも知りたいことがあって質問したけど、あんまり厳しく追及しちゃかわいそうだと思ったものだから、本来、指摘しておくべき事実誤認(引用しているエンゲルハートの本の第二版では、全く結論が違っているということ)については、あの場では言わず、お昼休みに当人にちらりと伝えておいた。「知りませんでした。見てみます」と笑顔で応じてくれたのを見て、質疑時間中に言わないでおいてよかったと思ってしまった。

セクハラ、パワハラといえば、昨日出席した柘植さんの講演会でも、ESP細胞樹立が虚偽だったとされる韓国のファン・ウソク(黄禹錫)教授に対して、2005年論文の共著者として名を連ねる米ピッツバーグ大学のジェラルド・シャッテン教授が、「研究対象となる卵子を入手した方法が倫理基準に照らして問題がある」ことを批判して、サイエンスに掲載された論文から自分の名前の消去を求めたという事件への言及がありました。

卵子の不正入手」とは、柘植さんによれば、

  1. 金で買っていた(見返りとして不妊治療のディスカウントを行った事例も含む)
  2. インフォームド・コンセント不足(同意書がなかったり、用途を知らされていなかったり、虚偽だったり)
  3. 部下に対する強要(パワハラ)の疑い

この3番目について、「知っていた人?」と会場に挙手が求められたのですが、知っていた人、少なかったですね。だけど、柘植さんによれば、シャッテン(Gerald Schatten)教授が最も問題視したのは3番目のパワハラの疑いだといいます。つまり、部下にあたる女性研究者に直接間接的な圧力がかかったという疑惑です。だけど「日本人は金銭の授受については厳しい」けど、2番、3番の観点ではあまり追求しないためか、あまり報道されなかったと聞いて、ああ、なるほど、と思った。わたしが知っていたのは、英文のニュースで見ていたからかもしれません。

そこで改めて調べてみました。まずはアメリカの大衆紙USATODAYでの報道。


Posted 12/16/2005 6:53 PM Updated 12/18/2005 8:57 PM
South Korean scientist stands by stem cell researchより、以下抜粋。

Last month, Hwang publicly admitted that, after more than a year of denial, he had violated international ethics guidelines by using eggs from two female scientists in his lab. He also then stepped down as head of the World Stem Cell Hub, an international project launched in October and aimed at finding treatments for incurable diseases.

1年以上否定していた「女性同僚2人に提供される卵を使用するという国際倫理ガイドへの違反」を認めて辞任したとあります。

上述の1ヶ月前の記者会見をオーストラリアの新聞の東京駐在員が取材した記事も見つけました。


'Shameful' ethical row fells stem cell expert
By Deborah Cameron, Tokyo
November 25, 2005


この記事の中に、クローン犬Snuppyの話が出てきます。CNN.co.jpによれば、《希少な大型犬「チベット犬(チベタン・マスチフ)」のクローンに成功したと発表した。》とか。“希少な大型犬”のクローンって、つまりは商業的に大量生産が可能になったというわけでしょう? クローン羊ドリーの時のように、もはや生命の不思議さをあれこれ思いをはせたりできなくなっている――ああ人の常識のなんとはかないことよ! 動物のクローンごときでは動揺もしなくなっている自分たちに気づかずにいられません。