リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

どこからが胎児か 墓地埋葬法と胞衣条例

 2021年12月にRHRリテラシー研究所が開いた院内集会に招いた法務省の役人は、刑法堕胎罪の保護法益は「胎児の身体と生命」だとくりかえし述べていました。この5月10日に開かれた院内集会でも、法務省の役人は「胎児」とは受精卵が着床したら胎児だと言いました。
 しかし、ここで「胎児」という言葉が何を「構築」しているのかに注意する必要があります。胎児とは「胎内に存在する(未生の)子ども」を意味する言葉です。着床の瞬間から「子ども」であるとみなすのは、ひとつの考え方にすぎません。少なくとも日本では、妊娠12週以降の中絶/流産/死産については、死産届や埋葬/火葬を義務付けています*1が、それ以前については条例で(東京都の「胞衣及び産汚物取締条例」によると)胎盤、さい帯、卵膜と共に「妊娠四箇月未満の死胎」は「胞衣」として扱われることになっているのです。
 重い月経のときに、経血に混じっている血の塊を見たことのある女性は少なくないでしょう。かつての私もそのような経験をしています。あの時の血の塊が着床し損ねた受精卵だったかもしれないと気づいたとき、小さな驚きとともに、生命への愛おしさのような思いが私の胸にこみあげてきました。でもそれは、「赤ちゃんが死んだ」という悲しみとは全くべつものでした。成長の段階ごとに受精卵、肺胞、胎嚢など別々のことばを当てているのは、存在としての質が異なるためではないでしょうか。いったん受精をしたら人の命であり胎児なのだとするイデオロギーは、必ずしも生身の女性の経験には則していないように思えます。


死産扱いになる以前の妊娠産物についてどうするのかは、横浜の伊勢崎クリニック事件を受けて話題になり、国が調査を行いました。
環境省・厚生労働省共同「妊娠4か月(12週)未満の中絶胎児の取り扱いに関するアンケート調査結果及び今後の対応について

 この調査報告の中では、「妊娠4か月(12週)未満であっても、生命の尊厳に係るものとして適切に取り扱うことが必要」としています。そもそも、4か月未満でも「胎児」と呼んでますね。(それにしても、細胞の塊が細長く伸びてオタマジャクシに似た形に変形していく妊娠5週の米粒大ほどの胎芽を「生命の尊厳に係るものとして適切に取り扱う」にはどうするのが正解だろう?)


伊勢崎クリニックの事件は、以下で決着がつきました。
人工妊娠中絶に関する基礎資料(2005年)
2005年5月6日

横浜市中区の産婦人科医院「伊勢佐木クリニック」(昨年8月に廃院)が中絶胎児を一般ごみと一緒に捨てた事件で、廃棄物処理法(委託基準)違反の罪に問わ れた元院長に対し、懲役1年、執行猶予3年、罰金100万円(求刑・懲役1年、罰金100万円)の判決が言い渡される。
「中絶胎児などを廃棄、元院長に有罪判決」『読売新聞』
「中絶胎児投棄の元院長、廃棄物処理法違反で有罪判決」『朝日新聞
「横浜の中絶胎児生ごみ廃棄:「12週未満は廃棄物」 元院長に有罪判決--横浜地裁」『毎日新聞