リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「安全な中絶」がない国の女性たちを助けるために

7月13日に書いた話について、少し調べたことを。

7月11日付けTelegraph.co.ukの記事によれば、今回話題になっているRU 486の販売サイト「ウィミン・オン・ウェブ」は、中絶が厳しく制限されている国に暮らす妊娠9週未満の女性に限って、ミフェプリストン1錠(200mg)、ミソプロストル6錠(200mg)、妊娠検査薬のセットを販売しているという。

購入するためには、全25問から成るオンライン相談をクリアしなければならない。購入しなくても、試しに“相談”に入ることができたので、ちょっと覗いてみた。

まず目に飛び込んでくるのは、「中絶を必要としていますか?」の質問と、「あなたの健康と人生を守ろう!」というメッセージ。その下にサイト設置の目的が書いてある。

このオンライン・メディカル・アボーション・サービスは、危険な中絶による死亡数を引き下げるために、世界中の女性が安全なメディカル・アボーションミフェプリストンとミソプロストルという薬を使った中絶)に手が届くように助けるものです。

その後に概要の説明があり、相談プロセスに入るのだが、「今回は利用しないが興味がある」という選択肢もあるので、こちらを使えば中を覗くことができる。

相談(consultation)の最初の数問では、形を変えて、くり返し「中絶の意志」の確認が行われる。妊娠の有無の確認から始まり、意志が固まっていることや、誰にも強制されていないことが、まず最初に確認される。続いて処置を行うための環境(病院に60分以内に行けるところか、処置を手伝える人がいるかなど)が続く。何しろ基本的に自分で行うわけなので、入念な説明がある。最後に、既往症の確認に10問ほどが費やされている。ただし、住所にJapanと入力すると、そこで購入プロセスは終わる。購入するためには、何らかの手段で送ってもらわなければならないのだから、どうにもならない。つまり日本人はここでは買うことができないし、もし入手しても現行法上は刑法堕胎罪の対象になることを、念のために言い添えておく。

費用は、「最低70ユーロの寄付」となっており、日本円にすると10000円程度。中絶が禁止されている国々の人にとっては、日本人が感じるほど安くはないかもしれないが、バカ高いわけでもない。

今回の一連の報道では、薬による中絶の危険性がうたわれているのだが、たとえ少々リスクがあっても、現時点で他に全く何の手立てもない国々の女性たちにとっては、こうしたサービスを通じて中絶薬が手に入ることは、まさに福音であるに違いない。なにしろ、いくら中絶を法的に禁止しても、非合法中絶が増えるだけで、中絶そのものは減らないというのは、世界各地で立証されている事実である。世界の潮流に反して、1990年代になってから中絶が全面禁止されたエルサルバドルでは、あまりにも痛ましい方法で非合法中絶に踏み切った女性たちの死が報告されている。

ミャンマーなど、中絶が非合法である国々では、超早期中絶(または単なる月経誘引)を起こす手動吸引器を使った月経吸引(menstrual extraction)も広まっているようだ。手動吸引(および機械による吸引)もメディカル・アボーション(RU-486)も、WHOが妊娠初期に関して「安全な中絶」として推奨している方法である。しかし、吸引よりはメディカル・アボーションのほうが、比較的素人でも管理できるし、人手も少なくてすむ。何しろ小さな「薬」なので、送りやすいし、証拠も残らないということなのだろうか。

いずれにしても、本来は、法で禁止するのではなく、医療の助けを借りてより安全に行えるようになることが望ましい。

今回、ついでに合法的に中絶を行える国々の中絶費用についてもちょっと調べてみた。

New York Times(1990/2/28)によれば、RU 486解禁時のフランスで、1回の処置に使われる標準量(3錠)で48ドルと、メーカーの申請の半額にフランス政府は値段設定した。それにより、薬による中絶は256ドルとされた。当時の外科的手術(主に機械による吸引)は247.8ドルで、どちらの方法についても、フランス政府は自己負担を2割とした。

アメリカのほうは2000年にRU-486が認可されたが、「外科的手術より100ドルほど高い」ことが普及の妨げになっていると、やはりNew York Times(2002/9/25)が伝えていた。

だがAbout.comのWomen's Health(2003/12/2)によれば、アメリカの中絶ピルと外科的中絶費用は、それぞれ300ドルと500ドルとされている。導入当初は高かった価格が安定してきたということか?

Feminist Women's Health Centerによれば、一般的な初期中絶の費用は450-800ドルだとされる。いずれにしても、日本よりはるかに安い値段であることは間違いないのだけれど。

追記:
家族計画全面禁止により中絶率と女性の死亡率が急増したルーマニアチャウシェスク政権下での過剰な家族計画に関するニューズウィークの記事*1を、こちらで読めます。(last accessed 2010/1/25)

*1:from Karen Breslau, "Overplanned Parenthood: Ceausescu's cruel law", Newsweek, Jan. 22, 1990, p. 35.