海外では1970年前後に中絶が合法化された時に、吸引法が導入された。日本の妊娠初期(12週未満)の中絶では未だに搔爬(ソウハ)手術が多用されている。
欧米では1967年にイギリスで中絶が合法化されて以来、1970年代に次々と「女性の権利」としての中絶が合法化された。
当時の欧米で、ソウハは「違法の堕胎師」が使う方法だったため、欧米の医師たちはもっと洗練された方法を求め、吸引法を導入することに決めた。
1970年代の欧米の中絶医療で吸引法が導入されることになった決め手は、柔軟性があり子宮に穴をあけるリスクが低いプラスチック製のカーマン・カニューレを発見したためだった。
このカニューレはまだ中絶が禁止されていたアメリカで、違法中絶を行っていた心理学者カーマンが考案したものだった。
素人が考案した器具を医者がこぞって導入するのは非常に珍しいことで、カーマン・カニューレがいかに優れた器具だと見なされていたのかが窺える。
ところが日本の電動吸引では、今も金属製の管が使われ続けているという。
1980年代に入ると、夢の中絶薬と呼ばれたRU-486 (ミフェプリストン)が開発された。1988年にはフランスと中国で承認、以後世界に広まっていき、今では75か国以上で認可され、子宮収縮薬ミソプロストールと組合わせて使われている。
ミフェプリストンは1000円以上するが、ミソプロストールは数十円で買える非常に安い薬。潰瘍治療薬として、海外では薬局で市販されているよほど安全な薬。そこで、中絶が違法だったブラジルの女性たちは、「妊婦に禁忌」のこの薬で中絶できることを発見し、有効な分量やのみ方を口コミで広めた。
現在では、国際産婦人科連合もミソプロストールの複数回投与による中絶の有効性を認め、様々な臨床例に応じて投与方法を指導している。
この薬は日本でもサイトテックという名で使われているが、医師の処方箋が必要な薬とされている。
現在、日本で治験が行われている中絶薬とはミフェプリストンとミソプロストールの「コンビ薬」。病院経営の観点から、従来の外科手術による中絶と同等の値段をつけることが検討されているという。
日本の中絶手術(その多くがソウハ)は保険がきかない自由診療で、たいてい10万円以上かかる。
先進国の多くでは、中絶は非常に多くの女性が必要としている不可欠な医療であるため、健康保険がきくことも多い。女性自身の費用負担がゼロの国も少なくない。
なぜ女のリプロを支援するのか。それは現代の技術をもってしても、今は女しか(あるいは産む機能を備えた人しか)次世代となる子どもを産めないからだ。
そして社会は次世代が存在していることを当て込んで回っている。
次世代が激減すれば、社会は衰退し、福祉は崩壊する。生活レベルは落ちる。
そこに気づいたフランスなどの国々は、福祉を充実させ、育児支援や両立支援にたっぷり税金を注ぎ込み、人々のプライバシーにできるだけ口を挟まず、夫婦別姓も同性婚も非婚パートナーもシングルマザーも外国人も差別せず、子どもを産み育てる人々を助ける方向に転換し、少子化を緩和するのに成功した。
数世代前の女性は数人の子を産み終えると寿命が尽きていた。
現代女性は人生に400回以上の月経周期を経験し、そのうち出産に至るのは0~2回。貴重な1回か2回のチャンスを、自分の人生の中でより良いタイミングで産みたいというのは当然の願いであって、決して「自分勝手」などではない。
「望まないタイミング」で出産するのは、当人のキャリア形成を阻害し、貧困の原因になり社会的損失になる。早すぎる結婚は離婚に終わりがちで養育費を負担しない元夫も多い。
女性にとってベストなタイミングで産むためには、400回もの「失敗の可能性」をコントロールする避妊・中絶は不可欠なのだ。
中絶薬は出産調節に重要な役目を担う。「中絶薬」に「10万円」など高値をつけるのは愚の骨頂だ。
元々日本は避妊薬・避妊具も高すぎる。性教育も不足していると言われ続けてはや半世紀。
これではトイレで出産する高校生や、とても育てられないと追い詰められて産後遺棄する女性を減らせない。
女は自分のからだを使い、自分の人生のなかで出産する。
女性たちを追い詰め、不幸にするような政策を取ってきたことが少子化の根本原因だといいかげん社会も政府も気づくべきだ。
もしこの国が女の幸福とリプロを守る方向に政策転換できれば、きっと少子化は緩和される。
政策転換できなければ……あとは地獄だ。