リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

10年目の低用量ピル

本日付の毎日jpに、《低用量ピル:進まぬ理解 「副作用不安」普及遅く/利用者、「避妊」より「月経軽減」》という記事が載っています。次のようなリードから始まります。

 低用量ピル(経口避妊薬、OC)が解禁されてから、今月で10年。男性側に頼らない避妊法として利用は増えているが、副作用への不安も根強く、欧米ほど普及していないのが現状だ。一方、月経の負担を和らげるために服用を続けている実態も浮き彫りになっている。【大和田香織】

この記事の元は、毎日新聞 2009年9月22日 東京朝刊にあるそうです。以下、抜粋しながら解説をつけてみました。

 製薬会社7社でつくる「OC情報センター」(東京都中央区)の統計では、ピル服用者は01年の20万人から、今年3月で65万7000人に増えた。しかし海外との比較調査(今年5月)では、日本の服用経験者の割合は米国やフランスの5分の1程度にとどまっている=グラフ参照。

まだまだ少ないのね〜。グラフ見たいけれど、毎日新聞のオンライン版にはありません。残念。

 普及のネックの一因は、副作用への不安とみられる。ピルは高・中用量だった当時、血栓症脳卒中乳がんなどの恐れが指摘された。その後、低用量へ改良が重ねられ、日本産科婦人科学会ガイドラインで一定の安全性を担保している。

 日本家族計画協会クリニック(東京都新宿区)の北村邦夫所長は「この10年で、日本人は血栓症のリスクも予想以上に低いことが分かった。ピル服用でコンドームの使用が減ってエイズが増える、などとも言われたが、HIVエイズウイルス)感染の増加もピルとは関係ないことが分かっている」と話す。

かつて言われた副作用の恐れもなければ、エイズ増加との関係もない……となると、何が阻害要因?

 高校の保健体育の教科書最大手、大修館書店(東京都千代田区)は07年度から、低用量ピルの使用方法や副作用などを具体的に掲載した。性感染症防止のため、コンドームとの併用を求めている。

 都立新宿山吹高の竹下君枝教諭は「生徒へ浸透するかどうかは、学校や教員による差が大きい」と話す。竹下さんは前任校で健康教育を通じてピルによる避妊法を指導してきたが、学校によっては授業時間が不足したり、教員が生徒の悩みに十分対応できずに苦労しているという。「望まない妊娠を避けることはとても大切。家庭も含め、必要な情報提供はまだまだ不足しています」

そうか、性教育の対応に遅れがあるのかな?

一方で、避妊のためではないピル使用は増えています。

 ピルは、月経に伴う生理痛や出血過多を和らげ、子宮内膜症の治療にも有効とされている。OC情報センターが今春、服用開始1年以内の女性に生活の変化を聞いた調査(複数回答)でも、「月経周期が安定する」「月経痛が軽い」などが上位を占め、「男性任せでない避妊ができる」を上回った。副効用がピルを使い続ける理由になっている。

 前出の野田さんは「もともと月経が8〜9日と長く困っていた。今は5日で終わり快適」と話し、K子さんも「今は交際相手はいないが、月経不順に悩まずに済むため、ピルを使い続けている」という。

 ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(東京都中央区)の対馬ルリ子院長は、「プレ更年期」の患者にピル服用を勧めている。30代後半〜40代前半でホルモンのバランスが崩れ、不調を訴えるケースだ。「更年期前後の変化は個人差が大きい。ピルをやめホルモン補充療法を始めたが、出血の調節がうまくいかず、ピル服用を再開したら楽になったという例が多かった」という。

じつはわたしもかつて、「プレ更年期の治療(たぶん?)」でピルを飲んでました。でもほどなく服用をやめたのは、何よりも3ヵ月に1回程度、医者の診察を受けにいかねばならず、診察料込みの費用はけっこう高くつき、その割には効果が分からなかったから。最近は、診察の間隔を減らしたり、安めのピルが導入されたりしているらしいけど(メーカーによってけっこう値段が違い、病院によって導入しているメーカーが決まっていたため)、それでもアメリカやフランスに比べれば、はるかに面倒で高いのは間違いない。この記事の最初に出てくるカップルは21歳の頃から使ってきたようだけど、3ヵ月に1回、1万何千円かの費用と、通院(たいてい平日昼間)の手間をかけられる女性って、そう多くはないように思う。特に未婚カップルで平日は働いていたりしたら、「ピルもらいに行くので会社休みます」とは言えないでしょう?

ピルの真の阻害要因は、販売法(医師の診断が必要な処方薬であること)と値段ではないかと、わたしは思う。20数年前、アメリカのカリフォルニア大学の生協ではピルを自由に販売していたし、値段もけっこう安かったものだ。

最後に「経口避妊薬」について、毎日新聞がまとめてくれてます。

 ◇経口避妊薬

 黄体ホルモンと卵胞ホルモンを合成した成分により、脳に「妊娠している」と錯覚させ排卵を起きなくする。基本的に21日間服用し7日間服用をやめ、休薬時に月経に似た出血が起きる。1960年に米で発売され、日本では64年、月経不順などの治療薬として発売された。避妊用の低用量ピルは90年に国に承認申請されたが「性の乱れ」やエイズ患者増加を懸念する声などが上がり、承認は99年6月。同年9月に発売された。

ちなみに、日本では何やかやと理由をつけて避妊ピルの承認がなかなか下りなかったのに、バイアグラがスピード承認された直後に、あたふたとピルの承認も下りたのでした。そこらへんの話は、わたしも翻訳チームの一員を務めたティアナ・ノーグレンさんの『中絶と避妊の政治学』に詳しいですよ。以下参照。

中絶と避妊の政治学―戦後日本のリプロダクション政策

中絶と避妊の政治学―戦後日本のリプロダクション政策

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結局は、利権絡みの医療政策と男性優位/女性抑圧的な政治のありようが大きく影響しているような気がしてなりません。民主党が政権を握って、そこらへん、はたして変わっていくのでしょうか……?