リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「處女性月經困難症ニ對スル手術的療法ノ價値」 高岡 朋三(1920)

100年前にすでにあった「月経困難症」

標記の論文は、順天堂医学T9巻558号412-418頁
現代文にすると「女性月経困難症に対する手術的療法の価値について」てな感じでしょうか。

「劇烈ナル病状ヲ呈シタル排膜月經困難症ノ一例」鈴木 春男
順天堂医学 T11(565) 1922 pp.302-305

なんてのもあった。同じ順天堂です。


次にタイトルに出てくるのは戦後です。

「月経困難症の診断と治療に関する最近アメリカ医学の動向」松本 清一
産科と婦人科 / 診断と治療社 [編] 17(8) pp.1-8

dysmenorrhea(月経困難症)というのが西欧であまり使われていないようなので、日本はいつから使うようになったのだろうと、国会図書館データベースを調べた結果、タイトルに出てきたものとしてはこれば一番古かった。西欧医学の輸入と同時に入ってきたのか、日本人が作り出した概念なのかは分からないけれども。


なぜそんなことを考え始めたのかといえば、イギリスのNHSでdysmenorrheaを検索したらExercise 'no relief' for period pain(運動は生理痛の”助けにならない”」という文書1件しかヒットせず、period pain(生理痛)で検索したらたくさんヒットしたものの、日本のように「月経困難症=LEP(低用量エストロゲン-プロゲスチン)で治療」と直結していなく、まずは普通の痛み止め、運動、腹部を温める、それでもだめならようやくホルモン療法……という流れになっているようなのです。


RCOG(英王立産婦人科医協会)でも調べてみたら、「10代の月経困難症」はすぐに出てきたけれど、あとは用語説明の中でDysmenorrhoea(綴りがブリティッシュ英語)に対してPainful periods(痛い生理)とされている他、資格試験のために「緊急を要さない婦人科の問題」として、「原発性および続発性月経困難症の病因と管理」について説明できるようにしておくこと、ということしか出てこない。


FIGO(国際産婦人科学連盟)で検索しても、何も検索に引っかからない(英スペルと米スペルの両方で試した)。LEP(low-dose Estrogen-Progestin)についてRCOGとFIGOを検索しても何もヒットしませんでした。



ACOGでもまず出てきたのは思春期の月経困難症(Dysmenorrhea and Endometriosis in the Adolescent )、生理痛といった内容がほとんどで、LEPも見当たらないのです。


英語と日本語のウィキペディアを見たところ、英語の方にはホルモン・バース・コントロール(ピルによる治療)が出てくるが、日本の方は「ヤーズ」が(副作用の情報と共にだが)紹介されています。


さて、ホルモン療法は通常思春期の女性には行わないので、当然ながらヤーズが対象としているのは成人女性になるわけで、世界では「生理痛」として運動させたり温めたり、同じ薬でも痛い時だけ鎮痛薬をのむといった対応をしているのに、日本ではホルモン療法が第一手段とされている。しかもそれ相当に高い薬を、製薬会社や医師が「LEP」なる新たな概念まで持ち出して喧伝しているというのは、ちょっとおかしいのではないだろうか。


第34回日本女性医学学会学術集会イブニングセミナー①LEP連続投与と女性の活躍推進 2019/11/2
第41回日本エンドメトリオーシス学会学術講演会イブニングセミナー 患者の視点から見えてくる新たな診察アプローチ 2020/1/18
第72回日本産科婦人科学会学術講演会イブニングセミナー①女性ヘルスケア最前線Health-Related QOL(HRQOL)の向上を苦慮した月経困難症・子宮内膜症の薬物療法を考える 2020/4/24
第25回日本女性医学学会ワークショップ イブニングセミナー ”目指せ! LEP製剤Specialist" 改めてLEP製剤処方の基礎を確認しよう 2020/3/28

すべて
[https://gynecology.bayer.jp/ja/home/seminar/seminar-inner/:title=
バイエル薬品株式会社の共催で、同社の学会セミナースケジュール]にあります。(日付はチラシの方に合わせました。)


月経困難症をLEP製剤で治療するというのは、どうやら海外で売れなくなったヤーズを日本女性に売りつけるためだと考えてほぼ間違いないように思われます。