リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

世界人権宣言採択70周年-女性の権利をめぐる状況-

国際人権ひろば No.137(2018年01月発行号)

特集 70周年を迎える世界人権宣言

世界人権宣言採択70周年-女性の権利をめぐる状況-
林 陽子(はやし ようこ)
弁護士、国連女性差別撤廃委員会委員

性差別の禁止と無差別平等原則
 「すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。」(世界人権宣言2条1項)

 「すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。すべての人は、この宣言に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別をそそのかすいかなる行為に対しても、平等な保護を受ける権利を有する。」(同7条)

 1948年に世界人権宣言が採択された時から、「性による差別を受けない権利」はそこに明記されており、女性は男性と同等に「法の前の平等」を享受できるはずであった。

 さらに、世界人権宣言の中身は、1966年に採択された2つの国際人権規約社会権規約自由権規約)に受け継がれ、規約を締結した国にとっては法的拘束力ある国際約束となっている。

 しかしながら、地球上のどの国も男女平等賃金を達成しておらず、世界の国会における女性議員の割合は平均23%に過ぎない。企業の役員・管理職、法曹・医師などの専門職、大学教授や自然科学者など、多くの指導的立場にある職業は、圧倒的に男性で占められ、対照的に、育児・家事・介護などの無償労働はその多くを女性が担っている。

「書かれていない権利① ― 女性に対する暴力からの自由」は割愛しますので、元のページでご覧ください。リプロに関する部分のみ引用させてください。

女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツを侵害する行為は、女性に対する暴力である。

2つ目の書かれていない権利はリプロのことです。

書かれていない権利② ― リプロダクティブ・ヘルス・ライツ


 次に、世界人権宣言に登場しない2つ目の権利として、リプロダクティブ・ヘルス・ライツが挙げられる。代表的な見解によると、リプロダクティブ・ヘルスは4つの目的を持っていて、その目的を達成する権利がリプロダクティブ・ヘルス・ライツである。

 ①生殖に関して適切で責任ある実行能力を持つこと。②希望するときに、希望するだけの子どもを安全に生むこと。③性と生殖に関する疾病、障害を避け、必要な時に適切なケアを受けられること。④性と生殖に関連する暴力その他の有害な措置を避けることができること1。

 これらの定義に照らせば、女性性器切除(FGM),少数民族や障害をもった女性に対する強制不妊手術、女児の胎児の強制堕胎手術(男児を産みたいため)、人工妊娠中絶への合法的なアクセスがないこと(結果として女性の健康を害する)は、いずれも女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツに対する重大な侵害である。世界人権宣言は生命・自由・身体の安全を享有する権利(3条)、拷問の禁止(5条)を規定するが、リプロダクティブ・ヘルス・ライツについて述べていない。近年、人権条約機関では安全な妊娠中絶へのアクセスがないことは「拷問」にあたるという見解が出てきているが2、それは世界人権宣言に始まる伝統的な国際人権法のカタログにリプロダクティブ・ヘルス・ライツが含まれていなかったことの裏返しである。

 国連では2000年にミレニアム開発目標MDGs)を採択し、2015年までの達成をめざした。各国のMDGsへ向けた取り組みには一定の進捗があったものの、結果として完全な達成は果たせず、最も達成に遠い目標は「妊産婦死亡率の削減」であった。女性に母となることを文化的に強制する国々がある一方で、世界的に見て若年女性の死亡の第一の原因は妊娠・出産であり、女性たちが安全に子どもを産む環境のために資源が投入されていない。

 日本では、2017年12月に、改正前の優生保護法(現在の母体保護法)により、10代で強制不妊手術を受けた宮城県在住の女性が、国を相手に国家賠償訴訟を提起すると報道されている。旧優生保護法の問題点は、女性差別撤廃委員会の総括所見が日本政府に指摘、勧告をしていたものであり、強制不妊手術の被害者が約25,000名いることも政府の回答から明らかであった。沈黙を通してきた被害者が具体的な法的アクションを取ったことは、日本の人権の歴史上、大きな一歩である。


これからの10年に向けて

 世界人権宣言80周年へ向けてのこれからの10年は、これら「宣言に書かれていない女性の権利」を、机上の理論ではなく、女性たちが手にして使えるものにしていくための10年である。その成功の鍵は人権教育であろう。

1:我妻堯「リプロダクティブヘルス」(南江堂、2002年)で紹介されている我妻博士の説を筆者が要約したもの。

2:自由権規約委員会の個人通報 Mellet v.Ireland (No.2324/2013)、女性差別撤廃委員会の個人通報L.C. v. Peru(No.22/2009)。

我妻先生の定義が引用されていますね❣