なぜ「/」が使われたのかは、まだ分からないけれど……
柘植あづみさんが、月刊DIO(連合総研)2022年9月号の「日本におけるセクシュアル・リプロアダクティブ・ヘルス/ライツの現状と課題ー医療・ジェンダーの視点からー」に次のように書いていた。
(ICPDでreproductive health and rightsの概念が提唱されたことを受けて)
この邦訳をめぐっては日本国内においても攻防があった。カイロ会議の準備会議からリプロダクティブ・ヘルス/ライツが記され、それを日本語に翻訳する際に、当初、政府(外務省)が「妊娠・出産に関する健康と権利」とした。これでは、従来の「母子保健」行政の枠組みによって、何の変化ももたらさない。そのため、カイロ会議やその準備会議の代表団のメンバーになっていた女性や団体から、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの翻訳として、「性と生殖に関する健康と権利」とする提案が出され、それが採用されるか、あるいは、リプロダクティブ・ヘルス/ライツとカタカナで表記されることとなった。p.11)
もうひとつ、SRHRとsexualが追加された経緯についてはこう説明されている。
リプロダクティブ・ヘルスのなかにセクシュアル・ヘルスを含むとする説明がこのカイロ会議の行動計画にも、北京会議の行動綱領にも含まれている。
多様なセクシュアリティの視点からセクシュアル・ライツが国際的に認識されるのは、この後1999年の世界性科学学会(現:性の健康世界学会)による「性の権利宣言」以降である。
2018年には、米国の民間のグットマッハ―研究所と医学雑誌『ランセット』のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する国際委員会が、その新しい定義を発表した。
私が把握している中でも、sexual rightsを最初に定義したのは、このガットマッハー(と、私は表記している)とランセットの委員会によるこの文書が最初であり、その後、国連でも用いられるようになったと見ている。
エグゼクティブサマリー:進歩を加速する-すべての人のためのSRHR:ガットマッハー-ランセット委員会の報告書 - リプロな日記
この文書で、SH、SR、RH、RRはそれぞれ以下のように定義されている(仮訳で示す)。
性の健康 sexual health
「セクシュアリティに関する身体的、感情的、精神的、社会的な健康の状態。セクシュアル・ヘルスは、セクシュアリティと性的関係に対する積極的かつ尊重的なアプローチと、強制、差別、暴力のない、快楽的で安全な性的体験の可能性を必要とする。性の健康が達成され維持されるためには、すべての人の性的権利が尊重され、保護され、満たされなければならない18。セクシュアル・ヘルスとは、すべての人が以下を利用できることを意味する:
- セクシュアリティ、セクシュアル・アイデンティティ19 、性的関係に関連するカウンセリングとケア
- HIV/AIDSを含む性感染症20 および泌尿生殖器系のその他の疾患21 の予防と管理のためのサービス
- 性心理カウンセリング、性機能障害および性障害の治療18
- 生殖器系のがんの予防と管理22
性的権利 sexual rights 19, 16
性的権利は人権であり、差別、強制、暴力のないすべての人の以下の権利を含む:
- 性と生殖に関する保健サービスを利用することを含め、到達可能な最高水準の性的健康を実現する10。
- セクシュアリティに関連する情報を求め、受け取り、伝える。
- エビデンスに基づいた包括的なセクシュアリティ教育を受ける20
- 身体の完全性が尊重される
- 性的パートナーを選ぶ
- 性的に積極的になるかどうかを決める
- 合意の上で性的関係を持つ
- 結婚するかどうか、いつ、誰と結婚するかを選ぶ
- 自由かつ完全な同意のもとに、婚姻中および婚姻解消時に夫婦間の平等を保ったまま婚姻を結ぶ17
- 烙印や差別から解放され、満足でき、安全で、楽しい性生活を追求する。
- セクシュアリティ、性的指向、性自認について、自由で、十分な情報に基づき、自発的な意思決定を行う1。
生殖に関する健康 reproductive health
「生殖に関する健康とは、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や病弱がないことではなく、生殖器官とその機能およびプロセスに関連するすべての事柄において良好な状態である」3。
リプロダクティブ・ヘルスとは、すべての人が以下のことができることを意味する:
- 生殖システムと生殖の健康を維持するために必要なサービスに関する正確な情報を得ること。
- 衛生的な方法で、プライバシーに配慮し、尊厳をもって月経を管理する23 。
- 親密なパートナーからの暴力やその他のジェンダーに基づく暴力を予防し、それに対応するための多方面にわたるサービスを受けることができる24。
- 安全で、効果的で、手ごろな価格で、納得のいく避妊方法を選択できる25 。
- 安全で健康な妊娠・出産と健康な乳幼児を確保するための適切なヘルスケア・サービスを利用する。
- 中絶後のケアを含め、安全な中絶サービスを利用できる3, 24, 26
- 不妊症の予防、管理、治療のためのサービスを利用する20。
生殖に関する権利 reproductive rights 10
リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)は、すべての夫婦と個人が、子どもの数、間隔、時期について自由かつ責任を持って決定し、そのための情報と手段を持ち、最高水準のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)を獲得する権利を有するという人権の認識に基づいている。また、以下のことも含まれる:
- 差別、強制、暴力のない生殖に関する決定を行う権利
- プライバシー、秘密保持、尊重、インフォームド・コンセントの権利
- 相互に尊重し合い、衡平な男女関係を築く権利
性と生殖に関する健康と権利の統合的定義
セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルスとは、セクシュアリティと生殖のあらゆる側面に関連した、身体的、感情的、精神的、社会的なウェルビーイングの状態であり、単に病気や機能障害、病弱がないことを意味するものではない。したがって、セクシュアリティと生殖に対する積極的なアプローチは、自尊心と全体的なウェルビーイングの促進において、楽しい性的関係、信頼、コミュニケーションが果たす役割を認識すべきである。すべての個人は、自分の身体に関する決定を行い、その権利を支援するサービスを利用する権利を有する。性と生殖に関する健康の達成は、性と生殖に関する権利の実現に依存しており、それはすべての個人の以下の人権に基づくものである:
- 身体の完全性、プライバシー、個人の自律性が尊重される;
- 性的指向、性自認、性表現を含め、自らのセクシュアリティを自由に定義する;
- 性的に積極的になるかどうか、またその時期を決める;
- 性的パートナーを選ぶ;
- 安全で楽しい性体験をする
- 結婚するかどうか、いつ、誰と結婚するかを決める;
- 子どもを産むかどうか、いつ、どのような方法で産むか、何人産むかを決める;
- 差別、強制、搾取、暴力から解放され、上記のすべてを達成するために必要な情報、資源、サービス、支援を生涯にわたって受けることができる。
必要不可欠なセクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス・サービスは、保健への権利の「利用可能性(Availability)、利用しやすさ(Accessibility)、受け入れやすさ(Acceptability)、および質(Quality)」の枠組みを含む公衆衛生および人権基準を満たしていなければならない28 :