リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日本で男女の賃金格差が埋まらないこれだけのワケ。企業の開示義務化でどう変わる?

Mi-Mollet 2022.5.28

加谷 珪一
mi-mollet.com

 金融庁の審議会が、上場企業に対し男女間の賃金格差などについて情報開示することを求める報告書案を了承しました。男女間の賃金格差の背景には、正社員と非正規社員の待遇格差という問題があり、うまく対応できれば、両方の問題を一気に解決できる道筋が見えてきます。


 日本の男女間賃金格差が諸外国よりも大きいことは、よく知られた事実です。OECD経済協力開発機構)の調査によると、日本における男性賃金の中央値を100とした時の女性の賃金は77.5と低い水準にとどまっており、日本の順位はOECD加盟国中、下から3番目でした。

 男女間で賃金格差が大きい理由のひとつとして昇進格差の問題を指摘する声があります。女性は組織内でなかなか昇進できないので、相対的に賃金が高い人の割合が低下することで、全体の賃金が伸び悩むという理屈です。確かに日本企業における女性登用の比率は低く、先ほどの報告書では、女性管理職の比率についても公表することを求めています。

 しかしながら、日本の場合、昇進すると給料が劇的に上がるような体系ではありませんから、男女間の昇進格差だけでここまでの賃金格差になるとは考えにくい状況です。女性の登用促進についても、社会全体として進めて行くべきですが、賃金格差についてはまた別の理由が存在している可能性が高いのです。

 女性の賃金が圧倒的に低いのは、日本では女性が非正規社員として勤務している割合が高く、正社員と非正規社員との間に大きな賃金格差が存在していることが原因です。

 厚生労働省の調査によると、正社員は非正規社員と比較して、約1.5倍の賃金となっており、両者には大きな違いがあることが分かります。また非正規社員として働いている人の割合は圧倒的に女性が多いというのが現状ですから、男女間の賃金格差の正体は、やはり正社員と非正規社員の格差にあると考えるべきでしょう。

出典:平成30年賃金構造基本統計調査の概況|厚生労働省

 日本では、子育ては女性がするものという感覚が根強く、出産で退職すると、その後は非正規社員として仕事に復帰するケースがよく見られます。もし正社員と非正規社員に大きな待遇格差が生じていなければ、仕事に復帰した女性の賃金は元に戻るはずですから、男女間でこれほど大きな差にはなりません。


非正規社員に女性が多い理由は3つ

 女性が出産後、非正規社員とて働くケースが多いことには、主に3つの理由があると考えられます。1つめは、家庭内や家族間で家事や子育てなどの分担ができていないこと。2つめは、保育施設などインフラの整備が不十分で、働きながら子育てをするのが難しいこと。3つめは日本企業の雇用制度が硬直的で、仕事に対して賃金を支払う、いわゆるジョブ型雇用になっていないことです。


 家庭内の問題は家族で解決してもらうよりほかありませんが、インフラについてはすべて行政が解決できる問題です。一部の地域では、保育施設の増設に反対する人たちがいて、整備が進まないといった問題も発生しています。子育てインフラを増強することは、ほぼ全国民にとっての総意なはずですから、反対意見が出ている場合には、なぜ反対なのか、代替案として何が考えられるのか、オープンな議論が必要でしょう。


 これまでの日本企業は雇用制度の改革に激しく抵抗していましたが、近年、ジョブ型への移行を進める企業が増えてきました。仕事に対して賃金を支払う制度が定着すれば、職場復帰した女性の賃金が下がるという問題はかなり改善されそうです。

 先ほどの報告書では、女性の管理職比率についても公開するよう求めているのですが、女性の管理職登用の積極化については逆差別になると反対する意見もあるようです。確かに女性の管理職比率を一定以上にするよう強制した場合(例えばクオータ制)、一部でそうした弊害が発生する可能性はゼロではありません。

 しかしながら、企業というのは本来、合理的に行動するはずですから、しっかりとした競争環境が維持されれば、逆差別の問題について心配する必要はほとんどありません。もしスキルに応じて適切に賃金を支払うという慣行が当たり前のものとなり、正社員と非正規社員との間の賃金格差が消滅すれば、必然的にやる気のある人物は、より積極的に仕事に取り組むようになるでしょう。結果として、相応の実力を持った人は、男女に関わりなく十分な成果を伴う形で、昇進を実現することになります。つまり、機会の平等と適切な競争環境さえしっかり整えれば、不相応な人が昇進するという問題は発生しにくいのです。

 一連の問題においてもっとも重要なのは賃金格差です。同じ仕事をしているにもかかわらず、賃金に格差が生じていることには経済的合理性がありません。ここを解消することこそが、全体の問題解決の早道になると考えるべきでしょう。