リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

生殖補助医療が高齢出産化に与えた生物人口学的インパクト

早乙女智子産婦人科医師 2017の論文

智ちゃんは友人なんですが、この論文の存在は知らなかった。
生殖補助医療が高齢出産化に与えた生物人口学的インパクト学術の動向2017.8 pp.12-17

豊富な知識に裏打ちされた議論と、ところどころにちりばめられた「インパクト」のある文言に、うんうん! そうそう!…と、膝を打ちたくなります。

  • 若くして産み育てることが困難な状況であるにもかかわらず、「卵子のロウか」を政府や社会が取り上げる奇異に我々は気づくべき
  • 高齢で産みたいと思うわけではなく、結果的に高齢出産となる女性の精神的身体的負担を増やさない配慮も重要
  • 生物人口学の観点では、生物である以上、多様性があり、理論だけでは解決しない生体特有の現実がある。「女性は産むべき」というのは生物学的現実を知らない暴言に過ぎない
  • 生殖技術の進歩は高齢出産化を後押ししたが、出産数の増加の多くはそれに引きずられた自然妊娠だった
  • 体外受精での出産は約5万人まで増加したが、それは前出産の5%に過ぎず、高齢出産がすべて対外受精によるものと錯覚してはいけない
  • 過去の40代出産をみれば、1920年代には11万件も出産していた。つまりそれはほとんど自然妊娠で今よりずっと多かった
  • 40代での出産を極度に嫌って中絶していたのは1970年代から80年代特有の現象で、そもそも40代は妊孕性が低下するとはいえ自然妊娠するものである
  • 安心していつでも子供が持てる社会になれば、希望子供数は平均で2人くらいであり、これが叶えば、人口減少は緩やかになり精子人口が得られるはずである
  • 日本国内では医学な知識を享受すると性器教育、行き過ぎた性教育と批判的な向きもあるが、自分の身体について知らないまま妊娠・出産することで個人が幸せになれるのかはなはだ疑問である
  • 女性を脅しても人口は増えない

ぜひ読んでみて!



(「22歳が妊娠しやすさのピーク」とした高校生向け保健体育の副教材の嘘は、すでに解明されていますが⇒
西山千恵子・柘植あづみ著『文科省/高校「妊活」教材の嘘』論創社 2017年)