リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

生涯にわたる女性の健康

第5次男女共同参画基本計画では消された概念

昨日3月9日にオンラインで開催された「孤立した若年女性たちのいま〜彼女の権利はなぜ実現しないのか~|若草プロジェクト代表呼びかけ人 村木厚子氏 × ピッコラーレ代表 中島かおり スペシャル対談(モデレーター:ライター 望月優大氏)」


元厚生労働事務次官村木厚子氏が、在職中、「リプロへの抵抗は強く『生涯にわたる女性の健康』という言葉で徐々に慣らしていって、いずれ盛り込んでいくといくことになった」といった話をされていた。


では「生涯にわたる女性の健康」は、いったいいつから使われるようになったのか。1996年7月に出ている男女共同参画ビジョンにはすでに登場している。

男女共同参画ビジョン-21世紀の新たな価値の創造- 平成8年7月30日 総理府 男女共同参画審議会では、次のような説明が見つかった。

(3)リブロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康.権利(*))の確立
〔取組の視点〕
女性が自らの身体について自己決定を行い健康を享受することは、女性のエンパワーメントの基本であり、男女共同参画社会の実現の前提でもある。健康とは、病気や病弱でないことではなく、身体的、精神的及び社会的に安寧な状態にあることを意味する。
 女性の身体には妊娠や出産のための仕組みが備わっており、ライフサイクルを通じて男性とは異なる健康上の問題に直面する。1994年(平成6年)9月にカイロで開催された国際人口.開発会議では、リブロダクティブ・ヘルス/ライツという概念が提唱され国際的な注目を集め、さらに、翌年9月に北京で開催された第4回世界女性会議では、これが女性の人権として位置付けられた。
 リブロダクティブ・ヘルスはライフサイクルを通じて個人、特に女性の健康の自己決定権を保障する考え方で、リブロダクティブ・ライツはそれをすべての人々の基本的人権として位置付ける理念である。
 リブロダクティブ・ヘルス/ライツの中心的課題には、いつ何人子どもを産むか産まないかを選ぶ自由、安全で満足のいく性関係、安全な妊娠・出産、子どもが健康に生まれ育つことなどが含まれる。また、これらに関連して、思春期や更年期における健康上の問題、不妊、安全な避妊・中絶、性感染症の予防、患者の人権を尊重した治療の在り方などの生涯を通じての性と生殖に関する課題が幅広く議論されている。
 我が国ではこれまで、女性の健康については、子どもを産み育てる側面から大きな関心が向けられ、女性自身の健康及びこれに関する女性の自己決定への配慮が必ずしも十分でなかったとの指摘がなされている。今後は、リブロダクティブ・ヘルス/ライツについての考え方を広く社会に浸透させ、その視点に立って女性のライフサイクルを通じた健康に配慮する総合的な政策が望まれる。
 近年、我が国では少子化が進行している。その背景には、人々が望む子どもの数と実際に産む子どもの数が帝離[ママ]していることにもみられるように、出産や育児などに伴う精神的・身体的・経済的負担から出産、時には結婚を回避する傾向がみられる。一方では、今なお、女性は子どもを産んで一人前といった考え方が根強くあり、こうした社会的圧力に悩む女性も少なくない。これらは、いずれもリブロダクティブ・ヘルス/ライツが十分に保障されていないことの表れとみることができる。
人々が自由な選択によって子どもを産み育て、子どもを持つことが男女双方の喜びとなるように、2(3)で述べた仕事と家庭の両立支援なども含めて、子どもを安心して産み育てられる社会的・経済的環境を整備する必要がある。その際、子どもを持たない、あるいは持てない人々に対する十分な配慮が必要である。
(*)リブログクティブ・ヘルス/ライツ(reproductive hea1th/rights)の訳語については、様々な議論が続けられており、定訳というべきものは確立されていないが、この答申では差し当たり「性と生殖に関する健康・権利」を用いる。


〔具体的な取組〕
① ライフサイクルを通じて女性の健康を保障する観点から、女性の健康をめぐる現行の関連法令、関連制度について、リブロダクティブ・ヘルスを保障するための法的整備を含め、総合的に今後の在り方を検討すべきである。
 当面、女性が正確な情報に基づき自らの健康について自由に選択・意思決定できるように、医療現場等におけるインフォームド.コンセントの普及促進、避妊の選択肢の拡大、治療・相談・援助に関する体制・サービスの充実などライフサイクルを通じた女性の健康づくりのための環境の整備を一層推進する必要がある。
② 母性(*1)には社会的に重要な機能があり、社会全体が保護すべきものであるが、同時に母性が女性差別の理由となってはならないことについて、あらゆる機会を通じて、認識の浸透を図るべきである。母子保健対策については、健康診査、保健指導・相談、医療援護等の一層の充実に努めるとともに、特に生命の危険にさらされやすい周産期における母子の健康を確保するため、総合的な周産期医療サービスの充実、調査研究等の推進が必要である。
③ HIV(*2)/エイズ性感染症、思春期・更年期における健康問題等、女性の健康を脅かす問題について、正しい知識や認識の普及・浸透に努めるとともに、予防、健康診査、相談、治療など各段階で対策の一層の充実が必要である。
 近年急速に発達している生殖技術については、その安易な導入によって女性の心身の健康や人間の尊厳が損なわれないように医療関係者等の慎重な対応、情報の一層の公開等が求められる。
④リブロダクティブ・ヘルス/ライツについて、あらゆる機会を通じて、社会への定着・促進を図る必要がある。学校教育、社会教育及び家庭教育においては、幼児期から成人期に至るまで、女性と男性が適時、男女平等に基づく性に関する正しい知識が習得でき、女性の性的自己決定が尊重されるような教育・学習機会や広報.啓発の充実を図るべきである。
(*1)母性:女性の妊娠、出産及び哺育の機能の顕在化に着目した概念である。
(*2)HIV(Human Immunodeficienc Virus):ヒト免疫不全ウイルス。エイズはこのウイルスの感染により引き起こされる細胞性免疫不全状態を主な病態とする疾患である。

1996年 男女共同参画2000年プラン一男女共同参画社会の形成の促進に関する平成12年(西暦2000年)度までの国内行動計画- 平成8年12月 総理府 男女共同参画推進本部

9 生涯を通じた女性の健康支援
・リブログクティブ・ヘルス/ライツに関する意識の浸透
.女性の健康問題への取組についての気運の醸成
.学校教育における性に関する指導の充実
.性に関する学習機会の充実
.母性の社会的機能の尊重


・生涯を通じた女性の健康の保持増進対策の推進

  • 生涯を通じた健康の管理・保持増進のための健康教育・相談支援等の充実

.女性の健康教育・相談指導の充実
.女性の健康等にかかわる施策に関する総合的な検討

  • 妊娠・出産期における女性の健康支援

.妊娠から出産までの一貫した母子保健サービスの提供
不妊専門相談サービスの充実
.周産期医療の充実

  • 成人期、高齢期等における女性の健康づくり支援

. 成人期・高齢期の健康づくりの支援
.子宮がん、乳がん骨粗しょう症の予防対策の推進
.生涯にわたるスポーツ活動の推進


ところが、第5次男女共同参画基本計画では、「生涯にわたる男女の健康」という見出しに変わり、「生涯にわたる女性の健康」という言葉が用いられているのは「生涯にわたる女性の健康づくりを支援するには、女性特有の疾患に専門的に対応する医師を育成・増加させることも必要である。 」および「 生涯にわたる女性の健康を確保するためには、運動・スポーツ習慣の有無が密接に関連することから、生涯を通じた健康づくりのための身体活動を推進するとともに、男性に比べ女性の運動・スポーツ習慣者の割合が低いことなどの課題に鑑み、女性のスポーツ参加を促進するための環境整備を行う。 」という二文のみである。つまり、「女性特有の疾患」と「男性より運動しない女性の問題」に関わる「女性の健康」しか取り上げてなく、リプロダクティブ・ヘルスの観点は完全に抹消されている。

第5次男女共同参画基本計画


元々「生涯にわたる女性の健康」というのが、生殖能力をもつからだ特有の健康問題であり、妊娠にまつわることが全く抜け落ちてしまっているのは由々しき問題だと言えよう。