リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

アイルランドに対する国連機関からの勧告と非難

各々関連部分を試訳します。


2015年経済的、社会的、文化的権利に関する委員会(CESCR)の最終見解
Concluding observations on the third periodic report of Ireland
E/C.12/IRL/CO/3

性と生殖に関する健康
30. 委員会は、中絶に関する締約国の非常に制限的な法律とその厳格な解釈について懸念している。特に、レイプや近親姦の場合および妊婦の健康に対するリスクがある場合を含む中絶の犯罪化、妊婦の健康とは対照的に生命に対する実質的なリスクを構成するものについての法的および手続き上の明確さの欠如、海外で中絶を受けることや 必要な情報にアクセスすることができない女性に対する差別的影響に懸念している。また、セクシュアル・アンド・リプロダクティブ・ヘルス(12条)に関する情報へのアクセスが制限されていることも懸念される。
委員会は、締約国が、中絶に関する国民投票を含む必要なすべての措置を講じ、憲法および2013年妊娠中の生命保護法を含む中絶に関する法律を国際人権基準に沿って改正し、何が妊婦の生命に対する実質的なリスクを構成するかを明確にするガイドラインを採択し、効果的なコミュニケーションチャネルを通じて危機的妊娠の選択肢に関する情報を公表し、性的およびリプロダクティブヘルスに関する情報の入手可能性と利用可能性を確保するように勧告する。

2016年の子どもの権利委員会 アイルランドの第3・4回報告書に関する最終見解
CRC/C/IRL/CO/3-4 1 March 2016

思春期の健康
57. 委員会は、母体の生命に「現実的かつ実質的なリスク」がある場合にのみ中絶を認め、レイプや近親姦による妊娠の場合、あるいは重度の胎児障害の場合にも中絶を犯罪とする妊娠中の2013年の生命保護法を懸念している。さらに、委員会は、「現実的かつ実質的なリスク」という用語が、医師が客観的な医療行為に従ってサービスを提供することを妨げていることを懸念している。また、委員会は、青少年に対する性と生殖に関する健康教育及び緊急避妊法へのアクセスが著しく欠如していることを懸念している。
58. 青少年の健康と発達に関する一般的意見第4号(2003年)に照らして、委員会は、締約国に対し、以下のことを勧告する。
(a)あらゆる状況において中絶を非犯罪化し、子どもたちが安全な中絶および中絶後のケアサービスを受けられるようにする観点から法律を見直し、中絶の決定において妊娠中の少女の意見を常に聞き、尊重することを確保すること。

自由権規約(International Covenant on Civil and Political Rights)の個人通報制度による通報番号 2324/2013 に関する選択議定書第 5 条 (4) の下で人権理事会によって採択された見解
CCPR/C/116/D/2324/2013 17 November 2016
Mallet vs. Ireland


自由権規約(International Covenant on Civil and Political Rights)の個人通報制度による通報番号 2425/2014 に関する選択議定書第 5 条 (4) の下で人権理事会によって採択された見解
CCPR/C/119/D/2425/2014 11 July 2017
Whelan vs. Ireland

 どちらもCenter for Reproductive Rightsが代理人になり、中絶のために海外渡航を強いる生存不能な妊娠の終了の拒否は、市民的及び政治的権利に関する国際規約第7条、17条、19条、2(1)、3条及び26条に基づく拷問及び残虐、非人道的又は品位を傷つける取り扱いからの自由を侵害するかどうかを争った。その結果、国連の条約監視機関(TMBs)は、中絶の犯罪化が女性と少女の人権を損なうことを繰り返し認めた。
 メレット対アイルランド裁判*1とウィラン対アイルランド裁判*2の両方で、人権委員会は、中絶の禁止と犯罪化が、プライバシー、平等と非差別、残酷で非人道的で品のない取り扱いからの自由に対する女性の人権を侵害する、と断固として述べる重要な判示を出した。

 Center for Reproductive Rightsの報告*3を仮訳する。

メレット対アイルランド事件(2016年)、ウィーラン対アイルランド事件(2017年)(国連人権委員会
提出日:2013年11月11日
国連委員会、アイルランドの妊娠中絶法は人権侵害との裁定を下す

 (03.18.21更新) 2つの画期的な裁定において、国連人権委員会アイルランドの厳格な人工妊娠中絶禁止は女性を残酷で非人道的かつ品位を傷つける扱いに服させると判断した。個人の訴えに対して初めて、委員会は中絶の犯罪化と禁止が国際人権法に違反することを認めた。委員会はアイルランドに対し、中絶を合法化し、アイルランドにおける中絶医療へのアクセスを確保することで、将来の違反を防止するよう指示した。

 リプロダクティブ・ライツ・センターは、アマンダ・メレットさんとシオバン・ウィーランさんの代理人として、アイルランドで妊娠に致命的な胎児障害があることを知った後、中絶医療へのアクセスを拒否された2件のケースを委員会に提訴した。アイルランドでは中絶が法的に禁止されているため、女性は合法的な中絶治療を受けるために外国に渡航しなければならなかった。

 当時、アイルランドには世界で最も制限の厳しい中絶法があった。アイルランドの法律は中絶禁止を憲法に明記し、女性の生命が危険にさらされている場合を除き、ほとんどすべての状況において中絶を犯罪としていた。その結果、アイルランドでは毎年何千人もの女性が、合法的な中絶治療を受けるために外国に渡航しなければならなかった。厳しい刑法は、アイルランドにおける中絶をめぐる恥辱と汚名を拡大させた。

 国連人権委員会はその決定の中で、アイルランドの中絶法によって引き起こされた心理的、身体的、経済的被害を認めた。同委員会は、アイルランドが市民的及び政治的権利に関する国際規約第7条、第17条、第26条に違反していると認定し、同国に対し、補償の提供やリハビリ費用の負担など、女性たちの苦痛に対する完全な賠償を行うよう命じた。同委員会はまた、アイルランドにおいて中絶を合法化し、中絶医療へのアクセスを確保することにより、今後同様の侵害を防止するための措置をとるようアイルランドに指示した。

 アイルランドの保健大臣は2016年と2017年に、メレットとウィーランが耐えた苦痛について正式に謝罪した。2017年、この画期的な判決は、必要な改革に関する勧告を行うことを任務とする合同議会委員会の報告書において、中絶に関する法改革が必須である理由のひとつとして引用された。

 2018年、法改正のプロセスは、アイルランド憲法による人工妊娠中絶の禁止が廃止され、アイルランドにおける人工妊娠中絶の合法化という形で頂点に達した。

 これらの事件は、国際的な法的権威が個人の訴えに対して、国家による中絶の禁止と犯罪化を明確に非難した初めてのケースとなった。