リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

妊娠を回避するための3種のピル(ズ)

「経口中絶薬」という言い方、海外では使われていないのにお気づきですか?

経口中絶薬を英語に直すとoral abortion pill(s)になりますが、この表現は英語圏ではほとんど使われていません。ではなぜ日本では「経口中絶薬」と言われたかといえば、日本には中期中絶のために経腟坐剤の中絶薬(Vaginal Suppositories)があるので、これと区別するため。「日本初の中絶薬」は今回のメフィーゴパックではなく1984年に承認された経腟坐剤プレグランディンなのです。でもこの膣坐剤は、世界ではもはやほとんど使われていない。


最近、abortion pillsという表現が英語圏で好まれるようになったのは、ミフェプリストンとミソプロストールの2種類(複数)の薬を使うことを強調するため。またピルと表現することで経口薬であることはおのずとわかる。


実際、段階によって3種類のpillを使い分けるなどと説明されることもよくある。
contraceptive pill(避妊薬 CP)
Emergency contraceptive pill(緊急避妊薬 ECP)
abortion pill(s)(中絶薬)


ただし、abortion pill(s)についてAPと略す例は今のところめったに見ない(ごくたまにある)。
一方、abortion pill(s)は自然流産にも使われ作用機序も同じであるため、一般社団法人性と健康を考える女性専門家の会(私も会員)では「流産薬」と訳すことも提案されている。


ミフェプリストンは1988年からフランスと中国でプロスタグランジンの一つと組み合わせることで使われ始め、数あるプロスタグランジンの中からミソプロストールと組み合わせるのが標準化したのは、WHOの必須医薬品にこの2薬セットで指定された2005年。

この薬は超音波検査ではまだ妊娠を確認できない(見えない)妊娠4-5週から服用可能で、子宮内妊娠していない場合には何も起こらない(そのことで異変がわかる)ので、その段階で検査を受けに行けば基本的に大丈夫——早い段階なので子宮破裂などには至らないと考えられている。むしろ、より早い段階の方が排出物の量も少ないし、小さいので苦痛も少ないし、成功率も高くなり、治療時間も短縮されるので望ましいというのである。ただし、問診等で「子宮外妊娠のリスク」のありそうな患者を除外する(そういう患者には薬を送付せず受診を勧める)ことはもちろんである。


このやり方は"no-test" medical abortionなどの名称で知られており、その安全性と有効性は科学的に検証済み。FIGOは2020年にコロナ禍における中絶薬のオンライン処方と自宅服用を推奨し、2021年3月にはデータを示して、この方法はコロナ禍収束以降も恒久的に使われるべきとした。
https://www.figo.org/FIGO-endorses-telemedicine-abortion-services


さらに世界では、ミフェプリストンを通常の経口避妊薬や緊急避妊薬として使うための治験が現在進行中で、有望視されている。


一方、ミソプロストールは、単独で複数回反復使用することで中絶効果があることが1980年代の南米に広まり検証された。胃潰瘍等治療薬として薬局販売されていたサイトテックの説明文書に「妊婦には禁忌」と書いてあることに気づいた素人の女性たちが、この薬を使って中絶を試み、効果があることに知って口コミで広めたと言われている。後に医学的に安全性と有効性が確かめられ、プロトコルが確立された。2003年にWHOは、この方法も「安全な中絶」として推奨するようになっている。


ミソプロストールは非常に安い薬の為、中絶の用途で「治験」に金をかける製薬会社はなかなか出てこないと考えられる。(事例があるかどうかは不明。)なので、海外のドクターは各々の判断でミソプロストールを「適用外使用(off-label use)」しているという。日本でもそうした使い方ができるようになれば助かる人が増えるのに……悩ましいところだ。