リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

2021年FIGO声明:FIGOは、遠隔医療による中絶サービスを恒久的に採用することを支持する

仮訳しました

FIGOステートメント
2021 年 3 月 18 日


FIGOは、遠隔医療による中絶サービスを恒久的に採用することを支持します
 COVID-19のパンデミックは、世界中の女性と女児に特に強い影響を及ぼしています。一部の国で、中絶サービスに一時的な制限がかけられていることが原因です。一方、COVID-19パンデミックのあいだは医療・介護サービスにおける急速な医療・介護サービスにおけるテクノロジーの急速な導入が進んだことで、効果的かつ効率的にヘルスケアを提供する可能性が高まっており、特に十分なサービスを受けることが困難だった地域の人々にとってこれは朗報です。遠隔医療による中絶はそのような分野の1つであり、女性や少女がオンラインで医療従事者の診察を受け、薬を送付してもらって自宅で受け取ることで、自宅で中絶を自己管理できるようになる可能性があります。


この問題に対するFIGOの立場
 FIGOは、安全な中絶サービスへのアクセスを含むリプロダクティブ・オートノミーを、基本的かつ譲ることのできない人権であると考えます。中絶は急を要する必要不可欠な医療サービスであり、女性や少女の希望に沿い、安全、プライバシー、尊厳を第一に考えて提供されるべきものです。FIGOは、すべての政府に対し、安全な中絶サービスへのアクセスを妨げている障壁を取り除き、すべての少女と女性のための安全な中絶への普遍的なアクセスを確保することを――COVID-19の期間中もその後も――要求します。

 パンデミック中に実施された遠隔中絶プログラムによって、超音波検査を行うことなく有効性、安全性、効率性、受容性をすべて満たしたサービスを提供できることが実証されました。イングランドウェールズでの事例より、すべての女性と女児のアクセスを改善し、ケアへの障壁を減らし、特に社会から疎外され、不利な立場にあるグループの人びとに大きく貢献できることが示されました 。オーストラリアでは2015年から遠隔医療による中絶が利用されており、患者にダイレクトに提供する遠隔内科的中絶サービスは、効果的で安全、安価で満足のいくものであることが証明されています 。


安全性とプライバシー
 遠隔医療を用いれば、わざわざ診療所まで足を運ぶことなく、安全でプライバシーが守られた形で妊娠初期の中絶を行えます。遠隔医療はスティグマにさらされる恐れを減らし、遠隔地に住む女性や少女でも中絶サービスを受けられるようになります。安全で効果的な中絶サービスを提供するために、対面で会う必要はありません。実際、世界保健機関(WHO)は、プロセスのどの段階であろうとも適切な情報や医療サービスが必要になったり望んだりした時にそれが得られるのであれば、女性は薬による中絶を安全に自己管理できるとしています 。

 FIGOは、女性や少女がいつでも安全で偏見のない中絶サービスを受けられるようにするために遠隔医療は効果的な手段であると見なしています。COVID-19のパンデミックの際に、一時的な措置として遠隔医療による中絶が導入されたイングランドウェールズで得られた最新のデータは、女性たちが中絶を自己管理するのに成功したことを物語っています。実際、重篤な副作用などはきわめてまれでした 。遠隔医療と自己管理による中絶に関するさらなるエビデンスによって、医療従事者間のタスクシェアリングは、ほぼすべての場合において、すでに過剰な状態にある公衆衛生システムの負担を軽減しうるものであることが明らかになりました3。

 遠隔医療によって中絶が行われる妊娠週数は短縮されるため、患者にとっての安全性も向上します1, 。子宮外妊娠の可能性を排除するために、慣習的に超音波診断を行うことを支持するエビデンスは存在しておらず5、資格を持った医療者であれば対面診察を行わなくても臨床上のリスクや保護すべきリスクは分かります。WHOは以前から遠隔医療による中絶を推奨しており、超音波検査は、中絶の提供のために日常的に必要とされるものではないと述べています 。 また英国では、NICE(National Institute for Health and Care Excellence)が、超音波検査で妊娠の確定診断を行う前に中絶を行うことを推奨しています5。女性や少女たちは、さまざまな理由によって従来からオンラインで中絶薬を得ようとしてきましたが、安全で高品質な製品を手に入れられないこともあります 。国の監視を受けているプロバイダーから提供される場合は、使われる薬の品質が保証されます。


アクセシビリティの向上
 遠隔医療は、交通手段、仕事や介護の責任、障がい、クリニックに通うための費用など、多くの障害を取り除いてくれるため、あらゆる医療へのアクセスを向上させます。内科的中絶を受ける女性や少女にとって、遠隔医療はプライバシーの心配に関連する障壁を取り除き、また、治療を受けるまでの待ち時間が全体的に短縮されるため、アクセスも向上する可能性があります1。遠隔医療による中絶サービスは、クリニックへの来院が物理的または感情的に困難な人々に特に支持されていることが研究で示されています 。


女性と女児の経験に対するポジティブな影響
 性と生殖に関する医療の提供方法を改善しようとしている多くの国々で、遠隔医療モデルは希望の星になっています。中絶を求める女性や少女、そして医療従事者やシステムに与える影響が実証されていることから、このモデルは、多くの環境、特に資源の制限に直面している環境にとって望ましいものです。

 遠隔医療は、中絶を含む多くのリプロダクティブ・ヘルス・サービスにおいて、国の監督を受けていない医療手段への依存度を減らしています 。超音波検査を行うことなく、自宅で錠剤を服用する遠隔治療による中絶は、女性や少女は自分にとって適切な中絶の選択肢を見出せるようになっています。さらに、中絶前の超音波検査が不要になることで、内科的中絶を提供できる医療提供者の幅が広がり、女性や少女が安全でプライバシーが守られ、尊厳のある医療を受けられる可能性が高まります。

 世界中で、望まない妊娠をした女性と女児は、違法で安全でない中絶を受けることにより、日々、危険にさらされています。女性と女児には、常に安全な中絶へのアクセスが必要です。遠隔医療は、安全で思いやりのある、費用対効果の高い解決策を提供してくれます。


FIGOの勧告とコミットメント
 FIGOは、世界中の政府に対し、遠隔医療へのアクセスを強化するために資金を投じることを推奨しています。これにより、中絶サービスを求める人びとを含み、世界中の女性と女児に安全でタイムリーかつ効果的なケアを確実に提供することができます。


FIGO は以下のことを約束します:

  • 遠隔医療による中絶が成功しているエビデンスを、各国の加盟学会と共有します。また、国内および国際的なアドボカシー活動の一環として:
  • 各国の加盟学会が、特に低・中所得国(LMICs)において、同様のサービスを実施する機会を検討するよう奨励・支援します。また、
  • すべての国における中絶の非犯罪化を引き続き提唱し、スティグマや差別のない安全な中絶へのアクセスを改善するための世界的な取り組みを支援します。年齢や住む場所、性別、宗教、社会経済的地位、障がい、民族性、地域的または文化的背景などに基づくスティグマや差別のない安全な中絶へのアクセスを改善する世界的な取り組みを支持していきます。


References

  1. Aiken ARA, Starling JE, Gomperts R, et al. Demand for self-managed online telemedicine abortion in eight European countries during the COVID-19 pandemic: a regression discontinuity analysis. BMJ Sex Reprod Health. 2021. https://srh.bmj.com/content/early/2021/01/11/bmjsrh-2020-200880
  2. Hyland P, Raymond EG, Chong E. A direct-to-patient telemedicine abortion service in Australia: Retrospective analysis of the first 18 months. Aust N Z J Obstet Gynaecol. 2018;58(3):335-340. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29603139/
  3. World Health Organization (WHO). WHO recommendations on self-care interventions self-management of medical abortion. 2020. https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/332334/WHO-SRH-20.11- eng.pdf?ua=1
  4. Reynolds-Wright JJ, Johnstone A, McCabe K, et al. BMJ Sex Reprod Health. 2021. https://srh.bmj.com/content/familyplanning/early/2021/02/04/bmjsrh-2020-200976.full.pdf
  5. National Institute for Health and Care Excellence. Abortion care. 2019. Available at: http://www.nice.org.uk/guidance/ng140
  6. WHO. Safe abortion: technical and policy guidance for health systems. Second edition. 2012. https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/70914/9789241548434_eng.pdf?sequence=1
  7. Zamberlin N, Romero M, Ramos S. Latin American women’s experiences with medical abortion in settings where abortion is legally restricted. Reprod Health 2012;9,34. https://doi.org/10.1186/1742-4755-9-34
  8. Porter Erlank C, Lord J, Church K. Acceptability of no-test medical abortion provided via telemedicine: analysis of patient-reported outcomes. BMJ Sex Reprod Health. 2021 https://srh.bmj.com/content/early/2021/02/17/bmjsrh-2020-200954
  9. DeNicola N, Grossman D, Marko K, et al. Telehealth Interventions to Improve Obstetric and Gynecologic Health Outcomes: A Systematic Review. Obstet Gynecol. 2020;135(2):371-382. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31977782

FIGOについて
 FIGOは、世界中の産科・婦人科学会を結集した専門組織です。FIGOのビジョンは、世界中の女性が生涯を通じて、身体的、精神的、生殖的、性的な健康とウェルビーイングを可能な限り高い水準で達成することです。私たちは、特にサハラ以南のアフリカと東南アジアに焦点を当て、グローバルなプログラム活動をリードしています。

 FIGOは、特に生殖の健康、母体の健康、新生児の健康、子どもの健康、青少年の健康と非伝染性疾患に関わる持続可能な開発目標(SDGs)(SDGs3)に関連して、グローバルなステージで提言を行います。また、女性の性器切除(FGM)やジェンダーに基づく暴力(SDG5)への対応など、女性の地位を高め、生殖と性の権利の実現に向けた女性の積極的な参加を可能にするための活動も行っています。

 また、加盟学会に教育・訓練を提供し、リーダーシップの強化、優れた実践、政策対話の推進を通じて、低資源国の人々の可能性を高めています。

 FIGOは、世界保健機関(WHO)と公式な関係にあり、国連(UN)との協議資格を有しています。