リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

中絶薬は「堕胎罪」「中絶」の見え方を変える

まだ「胎児」が存在していない時期に流産を誘発する場合も「堕胎」にあたるのか? 日本でも議論が必要では?

刑法 第二十九章 堕胎の罪
(堕胎)
第二百十二条 妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懲役に処する。

ここには「堕胎」とは何かという定義がない。法務省で検索して探してみたが、やはり「堕胎」の定義は見当たらない。堕胎罪の緩和規定を刑法典外におくのは罪刑法定主義に反するとも言える。特に、「経口中絶薬」が承認された今、上記の条文の「薬物」をどう解釈するのかは明確にする必要がある。


また、この刑法堕胎罪は、後の優生保護法が出てきた際に、「人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう」と定義されたことに則って、後付けで定義されたようなものだ。堕胎とは、優生保護法(現母体保護法)で合法的に行われる人工妊娠中絶以外と解釈されてきた。


しかし、この「胎児及びその附属物」というのも、妊娠のごく初期における「胚」にも該当するのかどうかは、確認すべきところだと思われる。従来の議論では「胎児」の始期を「受精」ではなく「着床」時とする論者も多いが、「着床」には時間がかかるため、着床の始まった時点からなのか、完了時なのかによっても幅があり、なおのこと厳密な議論が必要になる。


なお、妊娠初期は非常に流産の確率が高い。海外で妊娠12週を境に、その前後で法的・医療的な扱いを違えている国が多いのは、命としての安定度とでもいえるものが変わってくるからではないだろうか。