リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ランセットのコレスポンデンス:胎児奇形と薬による妊娠中絶の失敗

The LANCET Vol.352, July 25, 1998, p.323

Fetal malformation and failed medical termination of pregnancy

以下、仮訳する。

 Claudette Gonzalezと同僚(5月30日、p1624)1は、妊娠初期3ヶ月間に200-1600gのミソプロストールに曝露された42人の乳児における違法な中絶失敗後の先天異常について述べている。この報告は、ミソプロストールが中絶のための唯一の薬剤として誤用されるリスクと、ブラジルの中絶に関する制限的な法律の社会的影響の両方を強調している。
 ミソプロストールは、ミフェプリストンとの併用で、フランスでは妊娠初期(妊娠49日まで)の合法的な中絶に使用するために登録されている。英国とスウェーデンでは、プロスタグランジンPgE1アナログ製剤であるゲメプロストは、妊娠63日までの妊娠初期の中絶にミフェプリストンと併用することが登録されており、有効性は約95%であることが示されている。Exelgyn(ミフェジン[ミフェプリストン]を米国外でさらに開発・販売するためにES社が設立したフランスの会社)のデータシートには、失敗した場合には別の方法による妊娠の終了が不可欠であることが示されている。とはいえ、女性の気が変わったり、臨床医がフォローアップや診断を怠ったりすると、妊娠が継続する例もある。
 われわれは、早期の医学的妊娠中絶に失敗した後に妊娠が継続した71例を検討した。これらの症例は1987年から1998年のもので、この間にイギリス、フランス、スウェーデンで約405,000件の妊娠早期に内科的中絶が行われたと推定される。これらの症例のうち21例ではミフェプリストンが単独で使用され、残りの症例ではミフェプリストンとプロスタグランジンアナログが併用された:ミソプロストール400g経口投与(22例)、スルプロストン0-25-0-5mg筋肉内投与(4例)、ゲメプロスト1mg経腟投与(10例)、特定できないプロスタグランジン(14例)である。71例中8例で胎児または乳児の奇形が報告された。表に異常が報告された症例で使用された薬物レジメン、妊娠年齢、転帰の詳細をまとめた。ミフェプリストンとミソプロストールの併用例では奇形の報告例はなかった。
 われわれの知見は、ミフェプリストンとプロスタグランジンを併用した合法的、早期、医学的な妊娠中絶の安全性を示しているが、同時に、この方法が失敗した後に妊娠を正期産まで継続することに伴うリスクに関する情報も提供している。われわれは、推奨された方法を厳格に遵守する必要性を強調し、薬による処置が失敗してから中絶について考えを変えた女性には、胎児に起こりうるリスクと、後に流産や妊娠不能につながる可能性のある自然発生的な異常の割合が高いことを説明するためのカウンセリングを行うべきである。

Regine Sitruk-Ware, *Angela Davey, Edouard Sakiz
Exelgyn SA, 6 Rue Christophe Colomb, 75008 Paris, France

References
1 Gonzalez CH, Marques-Dias MJ, Kim CA, et al. Congenital abnormalities in Brazilian children associated with misoprostol misuse
in first trimester of pregnancy. Lancet 1998; 351: 1624–27.
2 Peyron R, Aubeny E, Targosz V, et al. Early termination of pregnancy with mifepristone (RU486) and the orally active prostaglandin misoprostol. N Engl J Med 1993; 328: 1509–13.
3 UK multicentre study group. The efficacy and tolerance of mifepristone and prostaglandin in termination of pregnancy of less than 63 days gestation; UK multicentre study—final results. Contraception 1997; 55: 1–5.
4 Blanch G, Quenby S, Ballantyne ES, et al. Embryonic abnormalities at medical termination of pregnancy with mifepristone and misoprostol during first trimester: observational study. BMJ 1998; 316: 1712–13.


表に8つの事例がまとめられている。全例ミフェプリストンを使用(容量は200=600mg)で、1例目のみプロスタグランジンの使用無し、2例目~8例目はゲメプロスト使用。

このレビューは1998年の医学雑誌ランセットに掲載された短報だった。1987年から1998年までにイギリス、フランス、スウェーデンミフェプリストンを使用して行われた妊娠初期の中絶40万件超のうち、中絶に失敗した71例について報告している。当時はまだミフェプリストンと併用する子宮収縮剤は模索中だったらしく、ミソプロストール併用22例、ゲメプロスト併用10例の他、様々なプロスタグランジンが使われている。71例中胎児または乳児に奇形が報告されたのは8例で、ミフェプリストンのみを用いた1例を除いて、7例はすべてミフェプリストンにゲメプロストを併用したケースだった。ゲメプロストは10例中7例に奇形が生じていたことになる。一方、ミソプロストールを併用したケースでは、奇形の報告はなかった。