リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

妊娠・出産・中絶の価値観について

調査対象者は少ないけれども興味深い結果が出ている

妊娠・出産・中絶の価値観について 鈴木美結卒論

指導教官 京都先端科学大学(KUAS)上松幸一准教授(人文学部心理学科)

方法
調査対象者:17 歳から 27 歳までの高校生・大学生、および成人の計 13 名(男性:8 名、女性 5 名、平均年齢:21.0 歳、SD3.15)が本実験に参加した。
調査方法:高校生・大学生、および成人を対象に、30 分程度の時間で個別にインタビューを行い、用意された質問に対して個人が思うことを自由回答してもらった。
分析方法:調査の際のインタビュー内容は録音し、逐語録に起こした。またデータは匿名化処理を行った後、User Local 社の A I テキストマイニングを用いて内容分析を行い、分析結果をもとに男性と女性の間に意識的価値観の違いがあるかを検討した。

詳細は省略する。

考 察
 本研究では、男性と女性との間に妊娠・出産などの性に関する価値観にどのような違いがあるのか検討した。

1・未成年の妊娠・出産について
 まず、「未成年者の妊娠・出産についてどう思うか」の質問に対して男性は、妊娠が発覚したあとの世間の見方や今後の将来、お金に対する言及が中心となっている。「不安の種」や「危機管理」という言葉からも理解できるように、未成年・若年の妊娠を「リスク」ととらえ、適切に管理すべきこととして理解する傾向が高いこと示唆していると言えるだろう。また当事者意識というよりは、社会の目に晒された時の不安や将来への不安や戸惑いが隠れていることが想像される(図 1、2)。
 一方で女性の場合は、「性行為」そのものに対する否定的な意見が多く見られた。これは、自身の周りで妊娠した人や、きょうだいの面倒を見る機会が多いなど、周囲の妊娠や出産、育児などを身近に経験したことがあることが考えることができる。そのため妊娠や出産した後の女性の体、そして精神的な負担を目にし、将来の自分のこととして意識する傾向が高いと考えられる。また、図4、5 で見られるように、「軽はずみ」、「世間体」、「性行為」の三つのスコアが高かった。中でも「軽はずみ」の単語のスコアは 2.44 と他の単語のスコアより顕著に高く、女性の場合、未成年が妊娠・出産することが、「安易に性的関係を持つことが、軽率な行動である」という認識をされている可能性が示唆される。そして、上記の三つの単語の周辺に「責任」、「自己責任」、「経済的」、「責任感」、「向き合う」の 5 つの単語が近くに付随していたことからも、金銭面の他に、妊娠して子供が安全に産まれるまでの間、切迫流産などのように、可能性として起こりうる問題があることがわかる。そのためその問題に直面しなければならないことへの覚悟の必要性と責任の大きさを自覚しているのかもしれない。
 以上のことからも、男性は妊娠が発覚した後の世間の見方や今後の将来、お金といった社会的側面に言及する傾向があるのに対して、女子は、「行為」そのものにする否定的感情を示す傾向が高いことがわかった。女性は、同性と女性特有の問題について話す機会も多く、話の中から自分が持っている情報と相手が持っている情報を交換・共有していることがわかる。話す機会が多ければ「性」について考える機会も多く、より深く理解することで、男性よりも「性」を、将来的に対峙しなければならない問題として見ていると考えられる。
 しかしながら男女共に共通することとして、性行為そのものや、妊娠した後のことに言及した単語は多く、図 1、および図 4 を見ると、「及ぶ」の近くでは「若年」「妊娠」「軽はずみ」「不安の種」などの単語が見られ、その配置も中心の近くになっている。このことから未成年者が性行為を行うことは、軽率な行動であること感じていることが理解できる。また、「軽はずみな行動」としての認識に至るには、「性行為」に関する知識や情報が不十分であり、熟慮した上での性行為であるべきという感覚を持っているのかもしれない。性行為の後に、性感染症や望まない妊娠につながる可能性もあるため、自身や子どもに大きな負担になることを意識しやすくなると考えられる。
2・中絶に関して
 中絶に関して、男性はその行為が“一種の殺人”といったイメージを想起しやすく、また「中絶は親としての責任の放棄である」という認識を持っている可能性があると考えられた。「粗末」「命」の二つの単語の周囲に「エゴ」や「放棄」、「思い込み」といった単語があることからも、中絶は大人の都合であるということが強調されている(図 7)。一方で女性は、図 9、10 をみると、「産む」が 1.42 とスコアが高く、「中絶」と「出産」という、相反する言葉が意識化されやすい。このことからは、胎児の命を絶つということの前に、新しい命が宿っているということへの意識の強さが見て取れる。これは子どもをその身に宿すのが女性であるということによる認識の違いなのかもしれない。また、女性との認識の差が出てしまうことについて男性は、「関係者としての経験」はできるものの、「出産の当事者体験」自体が機能上不可能なこともあり、これらの問題について、実感がわきづらいのかもしれない。女性から見れば切実な問題であっても、男性にとってはどこか軽く捉えてしまう可能性がある。 「中絶」の周辺を見ると「粗末」「殺人」「負担」「責める」と、中絶そのものに対しては否定的だが、一方で女性に特有なこととして、図 9、10 からも、妊娠に至った経過として、レイプや親や兄弟からの性的虐待など性犯罪被害の可能性についても言及している。
 そのため、中絶に関して必ずしも否定的というわけではない。また、中絶を選択した場合、中絶手術を行った後にかかる精神的・身体的負担などについて意識されていることも読み取れる。これらの指摘は昨今、家庭での性的虐待や教員による生徒への暴力などが社会問題となっており、メディアで頻繁に取り上げられている影響もあるかもしれない。よって性犯罪に関する情報に触れる機会も多く、自分の身近な問題として捉えやすいのではないかと考えられた。
3・まとめ
 本研究では、17 歳から 27 歳までの高校生から大学生および成人までの男女に対して、未成年の妊娠・出産・中絶についての認識について調査を行った。未成年における妊娠・出産・中絶についてのイメージは、命を粗末にすること、および新たな命を奪ってしまうことへの責任の乏しさ、そして精神的な負担に関することが中心であり、否定的な意見が多いと考えられた。妊娠が発覚したときや出産・中絶を選択した時の経済的負担、周囲からのプレッシャーや身体的負担や心理的負担のリスクの他にも、未成年の妊娠は、世間からの否定的な評価を受けるのではないかといった考えを持っている。まさに社会的葛藤が強い問題であるということが理解できた。しかしながら、犯罪などに巻き込まれた結果としての妊娠・出産の場合に関してはそれほど強い否定感情はなく、むしろ、被害を受けたこと、またその後の中絶や出産などに対する精神的・身体的負担への配慮などが見て取れた。この感覚は特に女性に強く見られるものであった。この点に関しては、男女による意識の違いが明確化したと言えるだろう。
 また一方で未成年者が望まない妊娠をしないためには、正しい「性」の知識を身につけることも重要と考えられた。正しい知識を得るためには、ネットや本などから収集できる情報も必要である。だが、学校において、現在の性教育より深い内容の「性」を扱った教育を行うことや、パートナーや親、友達との会話の中から意見交換し、自分なりの考えを醸造することも重要と思われた。
 しかし、「性」に対してオープンに語られようとする際に、「性」ついて興味、関心を持つことが、「恥ずかしいこと」として捉えられ、周囲からも揶揄される時もあるかもしれない。ただ、正しい知識を獲得することで、エイズや H I V などの性感染症の予防や、性犯罪の危険意識を持つことができ、自分の身を守るための武器になる。そのためにも、まずは小さなことからでも周囲と、「性」について語る機会を持つことが必要と考えられる。