リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「人として扱われていない」日本の女性受刑者に対する人権侵害

2023年 11月 14日

ヒューマンライツウォッチの報告書の要約、同じページから報告書もダウンロードできます。
日本:女性が刑務所で深刻な人権侵害の被害に


以下に、報告書の中のリプロダクティブ・ヘルス&ライツに関する部分を引用します。

女性の子育てを阻む障壁
 女性受刑者は、乳幼児の親であったり、入所時点で妊娠中の場合がある。

 2009年~2017年について、女性受刑者の出産件数は184件である[40]。女性は、男性と比べて子どもの主要な養育者になることが多い。日本では、養育に関する男女格差が得にはっきり存在している[41]。

 収監される時点で妊娠中あるいは乳幼児の親である女性は、子育てへの弊害に直面しており、子どもや親である女性に悪影響がある。例えば、女性が唯一の養育者である場合に検察官は刑の執行停止ができると法律が定めているにも拘らず、この権限はほとんど発動されていない。また、刑務所内で子どもを養育する機会が認められないことや、妊娠から出産、産後回復期にかけて身体的虐待を受けることなどがある。また、受刑者の子どもは、両親に「できる限り」養育される権利を往々にして奪われている[42]。


出産時の拘束具使用
 マンデラ・ルールズ規則48は、「拘束具は、女性に対し、分娩中あるいは出産直後には決して用いてはならない」と定める[43]。また、バンコク・ルールズ規則24は、「一部の国では、病院への移送、婦人科検診及び出産の際に、妊婦に手錠などの身体拘束が使用されている。この行為は国際基準に違反している」とする[44]。

 妊娠中の女性受刑者は、出産時には近くの病院に搬送される。2014年以前、病院で陣痛を迎えた受刑者には、陣痛から出産、産後回復期にかけて、少なくとも片腕に手錠をかけられるのが一般的だった。2014年、上川陽子法務大臣(当時)は、すべての刑事施設に対して、妊娠中の女性受刑者に分娩室内で手錠等の拘束具を使用しないようにすることとの通知を矯正局成人矯正課長名で出している[45]。

 この通知にもかかわらず、佐賀県の麓刑務所では2018年になっても、職員が出産中の受刑者に(少なくとも片腕に)手錠をかけていたとする元受刑者の証言がある。別の元受刑者は、2017年に出産中に両手首をベッドに手錠をかけられたという、他の受刑者の体験を語った。

 ベッドの上で両手で手錠を掛けられて出産したと言っていた。もう、私はどっと涙が出た。でも彼女は病院で無事に出産させてもらえただけでよかったと言っていた。[46]
 2019年11月5日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、麓刑務所で出産中の女性受刑者に手錠が使用されていることを示唆する調査結果を法務省に示した。

 2019年11月12日に行われたヒューマン・ライツ・ウォッチ法務省の面会で、法務省側は、すべての女性刑務所で所長が毎年行う自己点検を参照して、この訴えを否定した[47]。面会中、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、女性刑務所、とくに麓刑務所で、こうしたやり方が続いているかを、矯正局に調査するよう要請した[48]。

 法務省側は当初、時間や予算、人手が足りないことを挙げて調査は実施できないと回答した。しかし、2014年の通知をすべての刑事施設に再送することに同意し、同月に実施した。また、法務省側はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、麓刑務所について、女性受刑者の出産時に拘束具を使用したかどうかを確認すると述べた。

 2019年11月25日、法務省ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、分娩室内で手錠が使用されていたとの記録はなかったとの回答があった。しかし、分娩室の入室前後では、妊娠中や出産後の女性受刑者に対して一般的に手錠を使用しているとも述べた。


刑務所で子育てをする権利の否定
 学術研究は、乳幼児期での絆の形成が子どもの発達にきわめて重要であることを明らかにしている。「発達心理学、神経生物学、動物後生学の分野では、ネグレクト、親の一貫性の欠如(parental inconsistency)、愛情の欠如が、長期的な精神保健上の問題や、全体的な潜在能力や幸福度の低下につながることを示すエビデンスがますます増えている」とされる[49]。たとえば、英国では、新生児や乳幼児は母親とともに刑事施設に滞在することが認められており、子と過ごす母親に対して、子どもの養育に関する支援や研修を提供する刑事施設もある[50]。

 2019年時点で、日本では7つの刑事施設に乳幼児が親とともに生活できる設備があり、うち5つは女性刑務所内に置かれている[51]。さらに、法律上女性受刑者は、刑務所長が認めれば、子どもが1歳になるまで刑務所内で子どもを養育できる[52]。この1年という期間は、刑務所長が再び認めれば、6ヵ月間延長することができる。

 マンデラ・ルールズ規則29はこう定める。

 子どもがその親とともに刑事施設に滞在することを認める決定は、当該子どもの最善の利益に基づかなければならない。子どもが親とともに施設内にとどまることを認める場合には、次のものが提供されるものとする。
 (a)子どもが親によって世話をされないときに預けられる、有資格者が配置された施設内部あるいは外部の子どもの養育施設/(b)入所時の健康診査および専門家による発達の継続的モニタリングを含む、子どもに特化したヘルスケア・サービス。[53]
 またバンコク・ルールズ規則52は、「子どもを母親から引き離す時期についての決定は、国内関連法の範囲内で、個別の評価と子どもの最善の利益に基づいて行われるものとする」と定める[54]。

 しかし、実際には、刑務所側が乳幼児の母親に対し、子どもを養育したいと申し出ることができるとの説明をすること自体が少ない。

 2009年から2017年の間に、女性受刑者の出産件数は184件あった。このうち、2011年から2017年の間に刑務所内での養育が認められた事例はわずか3件だった。実際に申し出が認められたこの3件について、女性が乳児と一緒に過ごした期間は、それぞれ12日間、10日間、8日間ときわめて短いものだった。法務省は、刑事被収容者処遇法第66条に基づき刑事施設で乳児の養育を申し出た受刑者の人数も、申出が認められなかった件数も把握していないと答弁している[55]。

 女性受刑者が出産した際、生まれた乳児はまもなく親から引き離され、親族に引き渡されるか、乳児院に入所する。2018年に釈放された元受刑者のM. レイコさんはこう話した。

 (刑務所内で)養育できる部屋を見たことはありませんが、同じ工場で産んだ人は見たことがあります。出産の時については言ってなかったです。その人は出産後一週間ぐらいで戻りました。 遵守事項には1年ぐらい何カ月とか面倒を見れるって書いてあるのに、その人は5分ぐらいで、すぐ持ってかれちゃったって言われたみたいです、病院で [56]。
 B・マサコさんは、10年ほど前に受刑中に出産し、類似の問題に直面したことを語った。「再度収監されるときには子どもの行き先、乳児院は決まっていた」[57]。

 刑務所内で子どもを養育する女性に対する施設側の態度が、昔に比べて寛容ではなくなっているとの指摘がある。50年前、日本最大の女性刑務所である栃木刑務所で一回目の刑期を務めたことがあり、近年も栃木刑務所に服役していた元女性受刑者のK・ケイコさんは振り返る。

 「生活が穏やかだから」という理由で、一日に二人赤ちゃんをお風呂に入れてました。お母さんは仕事に行くんですよ。……(乳児の)部屋は病棟の上の方。綺麗でした。ベビーベッド、上におもちゃがついてて。お母さんが仕事行っている間は(乳児を)見る人がいる。それが半年までできたんですが、今はいれないです。あれが悪いらしいです、(刑務所の)鉄格子が子どものあれに良くないって言って[58]。