リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

産制の百科案内 受胎調節・妊娠中絶・不妊手術(「主婦の友」1955年2月号附録)

妊娠中絶はなぜ必要か (pp.187-8)

 妊娠中絶が危険であること、いろいろな障害があることは、大分一般の人々にも知れわたつてきたようですが、それでも中絶が認められているということは、必要な面もあるからです。
 妊娠中絶が法律で緩和されたために、戦後の窮迫した生活を一時的にでも救つてくれたことは確かです。戦前は産んだものに扶養能力がないままに、生れた子供を殺すといつた、いわゆる嬰児殺しは跡を絶たなかったものです。これが最近は非常に少なくなつてきました。育てられなければ生れる前に中絶してしまうからです。
 終戦後の混血児の問題も、初め予想された数字よりも実際ははるかに少なくて、日本の社会に同化できる程度だつたことは、この妊娠中絶のおかげだつたともいえます。戦勝国のイギリスでさえ、日本よりはるかに多くの混血児を抱えているといわれています。
 妊娠中絶がどうしても必要な理由には、今一つあります。それは受胎調節失敗の場合です。受胎調節の項でもありましたように、失敗例のない受胎調節はありません。受胎調節に失敗したから産まなくてはならないとなると、家庭悲劇はまた増加することでしょう。

妊娠中絶は害がないか (pp.202-5)

パーマネントでもかける気で
 東京都内のある産婦人科医院には、毎日何人かの妊娠中絶希望者が来て、
『こんなにも早く、子供ができるとは思わなかった。』
『今生れたのでは、生活に困る。』
 と事もなげに申出るそうです。
『ちょうど、パーマネントでもかけるような気持で来る人も、案外多いようです。妊娠中絶を一度経験すれば、あの不愉快な思いを、もう一度繰返したいと思う人はありますまい。どう考えても、近頃の風潮は不健康なものです。中絶をすることが新婚夫婦の間にさえ、気軽に考えられているということは沙汰の限りといえましょう。』
 と、その下町の専門医は嘆いています。
 昨年度の妊娠中絶が、ざっと一八〇万人。その数字は、別稿『新婚夫婦の産児調節の実態』でも触れた通りですが、この他、こっそり行った中絶は、死産として届けられた中にも相当含まれているともいわれています。
 すなわち昭和二十三年頃には、全死産の約二〇%が妊娠中絶とみられていたのに、昭和二十七年度には、死産届出数二〇四万のうち、その約五〇%の一〇九万までが、妊娠中絶の結果であると報じられていることでわかります。
 これが全部、指定医の認可を経て、正しい方法でなされたものでしたら、或いは問題はもつと小さいかもしれませんが、不完全な技術と無知の結果、手術後の生活を、想像以上不健康にしている実情をみれば、どんなに危険なことか、肌に粟を生ずる思いがいたします。


手術の失敗と多い後障害
 こういう中絶手術を、五回、六回と繰返している人もかなりおります。八回つづけて医師の手を煩わしたという人もいますし、全国的には、十五回という、嘘のような回数も聞いています。これらは、手術が一応無事に行われて、また妊娠するということにもなりましょう。
『中絶すればすぐまた子供ができる。』ということも、なかば常識と考えられるのはそれです。
 専門医が慎重に行えば、それほどの危険や障害はない、という意見もあり、例外的には妊娠中絶無害論を唱える学者もありますが、医師、医学者や公衆衛生の専門家は、統計の上から、実際に有害であり、危険があった実例の、非常に高率であつたことをつきとめ、口を極めて中絶手術の害毒を警告しています。五度、六度と中絶手術をつづけた人が、しない前のように健康であり得るはずはありません。
『手術が成功しているから、すぐあと妊娠する。それは体が健康な証拠である。』というのは、大間違いです。搔爬の手術がうまくできたから、新しく妊娠するというのは、あたりまえですが、それだけでは、体の健康が回復しているということにはなりません。重症の結核患者でも妊娠することはあるのですから、体全体の健康とは無関係に妊娠は成立するものです。
 四~五年前の統計では、中絶手術五〇〇例中一名の死亡といわれました。今日ではとても信じられないことですが、昭和二十八年度、東北地方で指定医によつて行われた中絶手術二万二〇〇〇人のうち、一八四名が出血多量などの重傷障害を生じ、一〇名の死亡者を出したという、日本産婦人科学会の報告は、決して危険の遠のいたことを示してはおりません。信頼できる指定医の手で、手落ちなく連絡が保たれてこそ、大部分成功はしますが、これが闇の手でなされたら、想像に余りあるというのです。


失敗しやすい手さぐり手術
 医学は年々進歩します。それにつれて、治療法も技術も進んできましたが、この中絶手術だけは、ここ六七十年もの間、ほとんど同じ方法で行われています。この方法は前に述べた通りですが、この長い間同じように繰返されてきた手さぐり手術ということが、危険を招く最大の原因です。
 視覚に頼らないで、触れた感覚だけで手術をするという、大へん原始的な方法が、長い間つづけられたわけです。もちろんいろいろな方法が試みられたのですが、やはり、今まで通りの手さぐり手術に勝るものが現れなかつたのです。
 手さぐり手術ですから、外へ出してしまいたい子宮の中身、つまり、胎児と、将来胎盤になる絨毛膜、それから脱落膜を、すつかり挟み出すことができないという心配があります。
 それから、手術の邪魔をするものがあることも、中絶手術の場合のむずかしいところです。たとえば、至急の形が十人十色で、頸管の長さや子宮腔の方向が人によつてそれぞれ違うことや、極端には奇形の場合もあるというようなことが、全然目で認められないことです。この点に第一の危険が潜んでいます。その他、直接の手術の危険でなく、後になって現れる障害も少なくありません。後障害の場合は、むしろ今のところ、患者側の手術に対する理解不足が最大の原因です。手術がすめば、後の治療は必要でないと考える人が多いことも、中絶手術の危険を招く大きな原因です。
 熟練して、かんのよく働く医師の手で慎重に手術を受け、術後の処置が行届いてこそ、危険が少ないので、この二つの要素を欠いたが最後、手さぐり手術の恐ろしい危険は立ちどころに現れるということになります。

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紹介されている中絶手術の方法(p.192 図解説明の見出し)

①膣の消毒をした後、鉗子で子宮口の前唇を強く引いて固定し、
②子宮消息子で、子宮の深さと位置を測る。
③次に子宮口を経ガールの拡張器で拡大する。
④拡張された子宮口
胎盤鉗子を使つて胎児を挟み出す。
⑥キューレットで残りの組織を搔き出す。

  • なお、繰り返し記号の使い方、漢字は現在の表記に変えた。