リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

第72回国会 衆議院 社会労働委員会 第29号 昭和49年5月23日

優生保護法案を巡るやりとり

111 田中美智子 共産党
 先ほどからも盛んに質問の中に出ておりましたけれども、人間は社会的動物なわけですから、社会的条件というものは全く関係ないのだ、ただ医学面だけで、コンドームがある、リズム法がある、ペッサリーがあるのだ、そういうものでやっていけば失敗率は少ないのだというものの考え自体が、非常にさか立ちしている。むしろさか立ちしているよりも、それは単なる詭弁であって、ねらいは別なところにあるということが言えると思います。
 昨日、東南アジアの話をしました。これは世界的な問題として大きな問題だと思いますけれども、もう一つ自民党の一部議員のメンツによってこの法案が出されているのではないかということが、いま国民の中で非常に大きな話題になっているわけです。これはいろいろなところのあれに出されているわけですけれども、まずこれは日本家族計画連盟の出した新声明という声明ですね。この中を読んでみますと、「而かも世に広く噂されているように、一部の議員たちが、或る宗教団体の勢力下にある票の支持を得るためであるとすれば、その罪は絶大である。」これは新声明に書いてあるのですね。「国家百年の大計にも関係する優生保護法改正問題の如きは、たとえその必要ありとするも、充分の時間をかけて広く国民各層、特に婦人の意見を聞き慎重に措置すべきであろう。」受胎調節の指導をしているところからこういうことを言っているわけです。それから四十八年五月の朝日新聞にもこういうことが書いてあります。自民党の代議士が「私は慎重論だ。審議には入らないと思う。来年の参院選を控えて、その宗教団体の票をアテにしている一部の自民党議員のメンツのために、政府がやむなく提案したものだ。野党はもちろん、自民党内にも反対の空気は強い」これは自民党の社労の議員が新聞に言っていることばです。それからまだあります。これはことしの四月三十日の神奈川新聞ですけれども、「自民党内には改正運動を推進している生長の家系議員を中心に、参院選向けの思惑もあって、修正をしてでも成立を図ろうとする声が出ており、」そして間をちょっと抜かしまして、「このような情勢の中で、自民党内に成立を図る声がにわかに出たのは、参院選が間近に迫っているのが最大の理由。会員二百万人という大きな票田である生長の家の意向にこたえる必要があるというわけだ。」こういうことがことしの四月三十日の新聞に出ております。まだあります。これはことしの五月十七日の毎日新聞です。この中には、「自民党が同法案に熱心なのは、日本列島改造論ならぬ日本民族改造論が根底にあるといわれているが、当面のねらいは参院選。中絶規制に関心を持つ宗教団体」——これは中絶を規制する法律だというふうにこの宗教団体は考えているわけです——「宗教団体、中でも「生長の家」のおぼえを良くしておきたいためだといわれている。特に玉置氏に対しては「法案を通さなければクビだ」とまで「生長の家」ではいい切る」と、こういうことを書いてありますね。そして日本の産婦人科医でつくる日本母性保護医協会の会長森山豊氏は「選挙向けであることは公然の事実。以前に法改正を検討した時は我々の意見聴取もあったが今回は全くない。国民の意見を全然反映していない。人工中絶の問題は、法全体を時間をかけてじっくり考えるべきものだ。また一片の法律で片づけることなく正しい家族計画を真剣に考え、根本的には安心して産み、育てる社会福祉対策が大切なのに今度の法改正にはその精神が欠けると怒る。」と、いうふうに毎日新聞に出ているわけです。これは一流の毎日、朝日、そういうものが報道しているわけですから、庶民はやはりほぼこのとおりであろうというふうに考えているわけです。国民の一部分の世論ではなくて、ジャーナリストをも入れたこうした世論というもの、一流新聞の報道とそれからその方面の専門家たちの言われていること、これについて大臣はどのようにお考えになりますか。

116 翁久次郎 厚生省児童家庭局長
 現在の家族計画の指導の中でも、ただいま御指摘になったようなことは、指導の対象になっております。ただ、今度の改正でこういう条項を入れましたのは、御承知とも思いますけれども、たとえばダウン症候群のような疾病にかかる場合が、若い時代にお産をしたおかあさんと比べて、四十代以後においては十倍近くある。したがって、高年齢で出産をされる場合には、子供さんもさることながら、母体の健全な保護という立場からいって、やはり事前に十分指導することが望ましいということが定説でございます。したがいまして、本法の改正の際に優生保護の立場から、ただいままでやっております指導のほかに、こういった新たに、適正な年齢での妊娠並びに出産をすることが、考えて生んで、そしてよい子を育てるというたてまえからいって、きわめて望ましいということで、この改正条文を入れた。あくまでもこれは強制でもなく、相談に応じ、あるいは診断指導する場合の一つの目安であるということで入れた次第でございます。

134 齋藤邦吉 自民党 厚生大臣
 いつ結婚するか、それはもう本人の自由、これは当然のことでございます。これはお述べになりましたとおり、憲法の精神はそういうふうな精神になっておるわけでございます。ただお産をするときに、若いときにお産をするよりも、年をとってからお変をするとたいへんでございますよということを国民にいろいろ注意をしてあげるということは、これはいいことじゃないでしょうか。そうすらっとお考えください。すらっとお考えいただければ、わかると思うのです。いろいろなことを勘ぐると言うとまたおこられるかもしれませんから勘ぐるということばを使いませんが、すらっと読んでいただけばいいんですよ。何も早く結婚しなさいと国が命令しているわけでもなんでもないのですよ。いつ結婚なさるか、それはもう本人の自由なんでございます。これはもうそのとおりなんですよ。すらっと読んでいただいて、すらっと御理解をいただきたい、こう申し上げます。

135 田中美智子 すらっと読んですらっと御理解してたら、ひどい目にあうから言っているんですよ。よく勘ぐる勘ぐるっておっしゃいますけれども、ずぼしをさされているからそういうふうにおっしゃるんだと思うのです。これは私が勘ぐっているだけでなくて、日本家族計画連盟でもこうした「優生保護法の一部改正に反対する」というものを出しているわけですね。こんな大きな字で出されているわけです。この中にこう書いてあります。「さらに法制審議会が、近く刑法改正にあたり堕胎罪の存続実施を政府に建言しようとしている事実を、本法改正と併せ考えるならば、国民生活をして戦前の警察国家に戻す意図と断ぜざるをえない。」疑っていますというだけでなくて、家族計画連盟は「断ぜざるをえない」といっているんです。私は、まだ、あなたがおっしゃるように勘ぐる言い方をしているんです。私も確信しているんですよ。自分の言っていることを。そうだと思うから、死にもの狂いでこの質問はしていますし、そして国民にこれを訴えているわけです。だから時間を制限してはならない。質問を徹底的にしてこの過程を国民の皆さんに聞いてもらうんだ、各党がそれをやる。その上で国民の意思を十分に聞いて、そうしてこういうものは慎重にやらなければいけないと確信しているわけですけれども、あなたは勘ぐるとおっしゃる。日本家族計画連盟では「断ぜざるをえない」ということを言っているわけですね。こういう大きな問題、世界的な問題になっている、国際的な問題になっている。実際に受胎調節をやっている人たちが、これを、非常に縮めるものだ、中絶を規制するものだということを言っている。そういうふうに受け取っている。そうして賛成をしている方たちは当然、ある宗教団体を中心にした方たちも、これは規制するものであるというふうにとっておるということを見れば、厚生大臣だけが口で幾ら、これは規制するものでもなければ広げるものでもなければ、結果を全く予測もしていないで出しているんだなんて言ったって、すらっと読んですらっとすなおに理解するなんという問題ではないわけですよね。
 これはやはり日本母性保護医協会の会長森山さんの論文ですけれども、これには、いまの人工中絶に対する世論の変化というものをよく政府は考えて、そして法案を考えていかなければならない。世論の動きというものは大きくいま変わっている。それはどういうふうに変わっているかというと、妊娠中絶を制限していたものを緩和するという方向にいままであったけれども、現在の世界の方向というものは撤廃の方向にいっているんだと、こう言っているのですね。こういう方向に行っているのだ。これは非合法の堕胎による母体の障害が初めはおもな理由であったけれども、最近では、産む産まないは婦人の権利という思想の大きな変化によって、撤廃という方向に動いているんだ。そういう時期にこういうものを通してしまえば、近い将来再び法改正を行なわざるを得なくなる。そうして、いたずらに混乱を招くのみであり、これは避けるべきであるという論文を書いていられるわけですね。
  〔委員長退席、大野(明)委員長代理着席〕
 これは産婦人科の医者であり、東大の教授を長くなさり、東芝病院の院長もなさって、いまは母性保護医協会の——もちろん厚生省は御存じですね、顔もすべて御存じの方ですけど、この方がこう言っているのですね。こういうものをそれこそ大臣が私にすなおにすらっと法案を読めと言うなら、大臣こそ、こうした国民の声をすなおにすらっと受け入れるべきです。こういう法案は出すことがもう誤っている。これは全く撤回しなければならない問題だと思います。
 全く時間がなくて、私は時間の要求をしておりますからまだやりますけれども、きょうはもうあと五分しかありませんので五分だけやります。あと次回にまだ質問をいたしますので、きょうは十四条の四ですね。「胎児が重度の精神又は身体の障害」と、こういうふうなところ。これはいまそちらでは修正案を出す、これを削除するというようなことを言ってこられているわけですね。これは私は、削除するということに対して反対しようとは思っていません。もともと、この法案を出すことは絶対反対ですからね。ですから、削除したからといって、それでこの法案の本質が変わるものではない。しかし、ここで一言言っておかなければならないことは、削除したから障害者の差別意識というものがあなた方の頭の中からなくなったということはいえないと思う。障害者に対する年金だって少ないし、何の保障があるか、ほんのわずかずついま出かかっているところですけれども、第一、教育だってまともに受けられない。一体、では障害者がこの日本でどのように生きていくかという福祉的なものがどれだけできているか。これだけおくれている、これはどうしてそういう状態になっているのかということ。こういうものを出す頭があるからですよ。結局、大資本に奉仕して金もうけに役に立つ人間は産みたくなくてもどんどん産ませるけれども、からだが弱かったり障害がある者はできるだけ早く抹殺してしまえという思想です。そういう思想では——ほんとうに人間を愛する思想がなかったら政治なんかできませんよ。自民党の政治は、大企業に奉仕する人間だけが能力があって、そうでない者は能力がないと見ている。それは劣性であるから抹殺せよという思想がここに出ているわけです。だから、これを削除したからといって、あなた方の頭の中からその思想がなくなったとは思いません。しかし、これを出したということであなた方の頭の中が国民に見えた。これに対する反撃を受けたというのでお驚きになってあわてて引っ込んだでしょう。差別をしているということさえ自覚していなかったということは、まさにおそろしいことだと思います。いい勉強になったと思うのです。(「人間を大事にしてもらいたい」と呼ぶ者あり)いまやじを飛ばしていらっしゃるように、もっと人間を大事にする、そういうふうな観点からこれを出していただきたい。きのう申しましたように、日経連や労働省や経企庁などが一緒になってつくった労働力政策の中に優生保護法の改正があるということを見ましても、まさにすべてつながっているというふうにいわざるを得ないと思います。
 それから、時間がありませんので、簡単に返答していただきたいのですけれども、IUDのことです。IUDはなぜ公認しないのでしょうか。

136 松下廉蔵 厚生省薬務局長
 IUDは従来は金属性の材質等のものがございまして、医学的な見地からいたしまして、これはかなりの副作用があるということも報告されておったわけでございます。そういったところから、四十二年に日本母性保護医協会及び産婦人科学会に専門的な御意見を伺いまして、またその後、材質が非常に改良されまして、プラスチック等の、損傷を与えることの可能性の非常に少ないものが開発されてきております。両団体からも医師の厳重な管理のもとにおいては適当ではないかという御意見をいただきましたので、ただいま大臣の諮問機関でございます中央薬事審議会の医療用具特別部会にこれを付議いたしまして、これを許可することの可否及び具体的にその条件等について前向きな御検討をいただいておる段階でございます。
137 田中美智子 いつごろこれは許可になりますでしょうか。
138 松下廉蔵  御検討のぐあいによるのでございますが、私どもといたしましては、そういった御意見をいただいた後でもございますし、できるだけ早く結論を出していただくようにお願いをいたしております。
139 田中美智子 予測としてはどれくらいのときに公認になるか、日にちをきっちり言っていただかなくてもいいのですが、予測として大体何カ月後とか何日後というふうに伺いたいと思います。
140 松下廉蔵 厚生省薬務局長 私どもは、専門的な御検討の段階でございますのではっきり申し上げにくいのでございますけれども、努力目標といたしましてはなるべく本年中か、少なくとも本年度中には具体的な承認の手続ができるような段取りで御審議をお願いいたしております。
141 田中美智
 これが危険が全くないということであれば、家庭の主婦にとっては非常に朗報なわけですから、ことしじゅうに必ず公認していただきたいと思います。
 時間になりましたので、きのうから採決だ採決だ——まだ参考人、公述人の意見も聞かないで、採決だ採決だということを自民党からいわれていますが、私はもっともっと審議したいし、この各党の審議の過程というものを国民にも聞いていただきたい。そういうものを無視して、毎日のように採決する採決するというふうな態度に対して強い抗議をして、きょうの質問を終わりたいと思います。