毎日新聞 2024/3/12 21:37(最終更新 3/12 21:46)
強制不妊訴訟、聴覚障害の夫婦が勝訴 実名公表し「最高にうれしい」 | 毎日新聞
旧優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を強制されたとして、名古屋市の聴覚障害のある70代夫婦が国に計2970万円の損害賠償を求めた訴訟で、名古屋地裁は12日、原告側勝訴の判決を言い渡した。夫婦は「最高にうれしい」と抱き合って涙を流した。
午後3時、名古屋地裁の1号法廷。原告の尾上敬子さん(74)と夫の一孝さん(77)は手話通訳人をまっすぐ見つめ、うなずきながら判決を聞いた。
2022年9月に提訴した夫婦は、中傷を恐れて仮名で闘ってきた。法廷には、傍聴席から見えないよう、ついたてが設置されたが、4回目の口頭弁論からは取り除かれた。そして、判決が言い渡されたこの日は、実名を公表して臨んだ。
判決後の記者会見で理由を問われた一孝さんは「本当なのかと疑っている人もいて、このままでは良くない、正々堂々と闘いたかった」と説明。敬子さんは「同じ被害を受けた人が、打ち明けられるように」と語った。
裁判では、手術を受けたカルテなどが残っていなかったことから、国は敬子さんの手術について「不知(知らない)」と主張。敬子さんは、当時を振り返り「腹が立った」と憤りをあらわにした。
夫婦にとって苦しい日々だったが、それでも歩みを止めなかったのは「亡くなった(ほかの)原告の思いを引き継いで、差別のない社会を作りたい」との思いがあったから。
「苦しかった思いも全て晴れた。支援者から心からお祝いしてもらったことが何よりうれしい」。敬子さんは手話でそう話すと、自然と笑みがこぼれた。【田中理知】