リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

アメリカの中絶反対運動が世界に及ぼす恐るべき影響

The Terrifying Global Reach of the American Anti-Abortion Movement | The New Republic

ジョディ・エンダ

2024年3月18日
残酷な輸出
アメリカの中絶反対運動の恐るべき世界的広がり
 保守派は、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)に対する攻撃を米国内に限定していない。何百万人もの貧しい女性たちに悲惨な結果をもたらしながら、彼らは他国にも自分たちの意思を押し付けることに躍起になっている。


 エディター・オチエングは3人の若者を知っていたので、彼らがナイロビ川近くの孤立した地域の家に手招きしたとき、彼女は考えもしなかった。1人は兄弟のような存在で、残りの2人はケニアの広大なスラム街キベラの隣人だった。

 オチエンは中絶手術をした女性を知らなかった。彼女は友人と一緒にナイロビを探し回り、自宅で秘密裡に仕事をし、医療専門家の数分の一の料金しか請求しない、訓練を受けていない開業医を見つけた。オチエンが覚えているのは、その見知らぬ女性が膣に何かを挿入し、子宮を「貫通」させたときの苦痛である。「本当にとても痛かった。本当に、本当に、本当に痛かった」と彼女は私に言った。その後、彼女はマットレスを切って生理用ナプキンの代わりに使ったという。彼女は16歳だった。

 彼女の体験はトラウマ的なものだったが、中絶のほとんどを禁止しているケニアの多くの女性たちよりは幸運だった。少なくとも彼女は生き延びた。

 オチエンのように、望まない妊娠に直面したケニアの女性の多くは、良い選択肢を持たない。彼女たちは、女性が自分の身体についてほとんど主体性を持たない文化の中で暮らし、住民の3分の2が1日3.20ドル以下で生活するという高いレベルの貧困を経験し、2010年に制定された憲法で成文化された中絶法と、古いまま残っているより厳しい刑法との間の矛盾と闘わなければならない。刑法が中絶を犯罪としているため、合法的に中絶手術を受けられる女性は比較的少なく、医療専門家が生命や健康に危険があると判断した場合か、厳密にはレイプによる妊娠の場合に限られている。この最後の例外は、オチエンの3人の知人が彼女をレイプしてから13年後の2019年までしかなく、ほとんど適用されていない。

 禁止されているにもかかわらず、毎年50万人以上のケニアの女性が中絶している。ごく一部の経済的余裕のある女性は、訓練を受けた専門家を見つけ、密かに、しかし安全に中絶を行うことができる。多くの場合、女性たちは中絶前のアメリカのコートハンガー時代を彷彿とさせる危険な方法に賭けている。膣に編み針を刺したり、危険な化学物質を摂取したりするのだ、とアメリカの中絶権擁護者たちは言う。600近い民間医療提供者を代表するリプロダクティブ・ヘルス・ネットワーク・ケニアのネリー・ムニャシア事務局長によれば、彼らは未熟な医療提供者に頼り、針金で子宮を削ったり、動物用の調合薬を与えたり、濃縮石鹸を摂取するよう指示したりするという。ケニアの首都であり最大の都市であるナイロビの国立病院には、中絶の失敗による合併症に苦しむ女性のための病棟がある、と擁護者たちは言う。(中絶後のケアは合法である)。

 中絶にアクセスできない場合、健康な新生児を殺したり、川に投げ捨てたり、コカコーラで毒殺したりする女性もいる。オチエンは、キベラの排水路や穴蔵から引き出された乳児の死体や中絶された胎児は、女性たちの絶望の表れだと教えてくれた。「安全な中絶をするとき、胎児と一緒に来ないことを彼女たちは知っている。裏通りで中絶するのだから、胎児を運ぶだけです」と彼女は言った。「貧困にあえぐ女性たちには選択肢がない。

 世界中で毎年行われている7300万件の中絶のうち、半数近くの45%が安全でない中絶である。大きな理由のひとつがある: 米国の中絶反対政策である。

 中絶が適切に行われれば、極めて安全であると考えられている。しかし、世界保健機関(WHO)の報告によれば、世界中で毎年行われている中絶のうち、7,300万件の半数から45%が安全でないという。サハラ以南のアフリカでは、中絶の4分の3が安全でないと考えられている。世界全体では、安全でない人工妊娠中絶は、年間39,000人の妊産婦の死亡と数百万人の合併症の原因となっている。「と、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスと権利を支援する研究機関、ガットマッハー研究所の主席研究員エリザベス・サリーは言う。

 大きな理由のひとつがある: アメリカの中絶反対政策だ。

 半世紀にわたり、アメリカは財布の力を使って、貧しい国々にアメリカ保守派の中絶反対の価値観を守らせるか、家族計画や最近ではその他の医療への援助を見送らせてきた。米国内外の研究者やリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)擁護者への20回以上のインタビューやいくつかの研究によれば、長年にわたって採用されてきたいくつかの政策のうち、特に過酷だったのは次の2つである。人工妊娠中絶を減らすと喧伝されたこの政策は、実際には人工妊娠中絶の数を激増させ、何万人もの不必要な妊産婦の死亡につながっている。セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康と正義)を推進する国際的な団体、Fòs Feministaのディレクターであるジゼル・カリーノは、「米国で起こることは、世界の他の地域に大きな影響を与える」と語る。ワシントンが中絶に制限を加えるとき、"私たちは、特に最もケアとサービスを必要とする女性たちが、いかに傷つくかについて多くの証拠を持っている"。

 中絶反対政策がより多くの中絶につながるということは、中絶を実施し、相談に乗り、中絶について人々を教育する組織が、しばしばコンドーム、ピル、IUD、その他の避妊具を提供する組織であることを考えれば、直感に反するように思える。医療提供者が中絶について少しでも言及すれば、避妊具を含むより広範な医療サービスに対する費用を失うことになる。避妊具が少なければ、望まない妊娠が増える。望まない妊娠が増えれば、中絶も増える。中絶を大幅に制限している国で中絶が増えれば、安全でない中絶が増えることになる。そして、安全でない中絶が増えれば、妊産婦の死亡も増える。

 米国は、他国の政治的・文化的内紛のすべてを非難するものではない。しかし、世界最大の医療助成国である米国の行動は重要である。基本的に、この国は世界中の女性に、ある人は緊急治療室に、またある人は墓場に送るような裏通りの中絶を求める以外に選択肢を与えていない。

 今年11月、アメリカ人は、2022年に最高裁が中絶の憲法上の権利を覆し、妊娠を終了させるかどうか、またその時期を決定する権限を各州に与えて以来、最大の選挙に投票することになる。現在、何百万人もの女性が、中絶へのアクセスを厳しく制限したり、中絶を全面的に禁止したりしている州に住んでおり、中絶を受けるために移動を余儀なくされたり、生存不可能な妊娠を妊娠期間満了まで妊娠させられたり、流産が中絶と解釈されることを恐れて病院から追い返されたりと、大きな苦難を生んでいる。このような苦しみは、アメリカでは若い女性にとって比較的新しいものだが、ワシントンが中絶制限を課している国々では当たり前のことである。そこでは当たり前のことだが、ここでは無視されている。候補者たちは、米国の外交政策がいかに女性に害を与えているかについて言及したり、議会や大統領によって引き起こされた苦悩についてキャンペーンを行ったりすることはほとんどない。

 今年、海外の妊娠中絶へのアクセスにこれまでで最も厳しい制限を課すことになるのは、たった一人の候補者である。ドナルド・トランプである。

 米国の中絶関連規制の矢面に立たされている女性は、主に黒人と褐色人種である。彼女たちの多くは、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの一部に住んでいる。彼女たちはまた、前世紀の中頃、米国の政策立案者たちが珍しく心配していた人々でもある。彼女たちの幸福についてではなく、出生率について心配していたのだ。ラトガース大学女性と仕事センターのヤナ・ロジャーズ教授によれば、現在政府が家族計画に資金援助しているのは、人口爆発が減少しつつある天然資源をいかに枯渇させるかという、世紀半ばの懸念にまでさかのぼることができるという。家族計画は、生物学的にも社会的にも劣った人種の成長を制限する方法とみなされていた」と、ロジャーズは2018年の著書『The Global Gag Rule and Women's Reproductive Health(グローバル・ギャグ・ルールと女性のリプロダクティブ・ヘルス)』に書いている。


 ナイロビのカヨーレ地区にあるクリニックで、リプロダクティブ・ヘルスを専門とする医師が患者に対応する。このクリニックは性暴力の被害者にサービスを提供している。
 TONY KARUMBA/AFP/GETTY
 人種差別と環境保護の両方の理由から、民主党共和党も国際的にも国内的にも人口抑制プログラムを支持した、とロジャーズは書いている。1965年、民主党リンドン・B・ジョンソン大統領は行動を呼びかけた。その3年後、米国国際開発庁(USAID)は発展途上国で避妊具の配布を開始した。共和党リチャード・ニクソン大統領と国連大使ジョージ・H・W・ブッシュは、国連人口基金UNFPA)の設立を成功裏に推し進め、同基金は世界最大の避妊具提供機関に成長した。1960年代に下院議員だったブッシュは、同僚たちから "ラバーズ "と呼ばれるほど避妊を強く主張していた。

 しかし間もなく、ワシントンの権力中枢では人工妊娠中絶の政治が人口増加の政治を凌駕した。1973年に最高裁が人工妊娠中絶を合法化すると、宗教的保守派は、できる限り人工妊娠中絶を制限するよう、両陣営の政治家に圧力をかけた。

 議会内の中絶反対派は、女性の権利運動が本格化していた国内では、この判決に対してほとんど何もできなかった。しかし、家族計画の資金を米国に依存している国々に中絶反対政策を課すことで、保守的な活動家やローマ・カトリック教会をなだめることはできた。その年の12月から、議員たちは米国の援助にますます厳しい制限を加えるいくつかの政策のうち、最初のものを採用した。

 それは、たとえ中絶が合法である国であっても、外国政府や非政府組織が米国の資金を「家族計画の方法として」使用したり、「中絶を実施するよう何人に対しても動機付けまたは強制」したりすることを禁止するものである。この法律は超党派の議員によって採択されたもので、その後の中絶関連規則も同様で、米国の資金提供先が外国でできること、できないことを規定している。バイデン修正条項と呼ばれる法律もある。1981年の条項で、外国からの援助が中絶や強制不妊手術に関連する生物医学的研究に使われることを防止している。(現在は中絶の権利の支持者である大統領も、この問題についての見解が変わったことを認めている)。

 しかし、ロナルド・レーガンの大統領時代に強力な勢力として台頭したキリスト教右派の多くにとっては、議会は十分な成果をあげられなかった。1984年、メキシコで開催された人口抑制に関する会議で、レーガン政権は対外援助規制をさらに強化すると発表した。メキシコシティー政策では、米国の家族計画援助を受け入れる外国の団体は、たとえ米国以外の資金であっても、中絶を実施したり、中絶カウンセリングを行ったり、中絶の権利を擁護したりすることはできない。

 中絶のカウンセリングをしたり、"中絶 "という言葉を口にしたりすれば、それは引き金やスイッチのようなものです」と、避妊や中絶へのアクセスを支援する国際組織Ipasのシニア・リーガル・アンド・ポリシー・アドバイザーであるベサニー・ヴァン・カンペン・サラビアは言う。「スイッチを入れれば、米国の資金を失うことになる」。反対派はこの政策を "グローバル・ギャグ・ルール "と呼んだ。

 レーガンが大統領を退任する前、ミシガン大学公衆衛生大学院は、メキシコシティ政策がわずか3年間で38万人の望まない妊娠、31万1000人の出産、6万9000人の中絶、1200人の妊産婦の死亡をもたらしたと推定した。それにもかかわらず、レーガン以降の共和党大統領はすべてこの政策を発動した。民主党はすべてこの政策を撤回した。つまり、ヘルムズ修正案は常に有効であるが、メキシコシティ政策はホワイトハウスをどの政党が支配するかによって、行ったり来たりするのである。

 レーガンを皮切りに、共和党の大統領もUNFPA(現在は国連人口基金UN Population Fundと呼ばれている)へのアメリカからの年会費の支払いを停止した。


 ドナルド・トランプは1999年、NBCの『ミート・ザ・プレス』で、「私は非常に親選択的だ」と宣言した。「中絶という概念は大嫌いだ。大嫌いだ。中絶が象徴するものすべてが嫌いだ。このテーマについて議論している人たちの話を聞くと、ぞっとする。しかし、それでも私は選択を信じている。それは、ジェリー・ファルウェル牧師と彼が新たに設立したモラル・マジョリティがレーガンの勝利に貢献した1980年の選挙以来、右傾化しつつあった共和党の勝利につながる立場ではなかった。トランプが2016年の大統領候補指名を目指したときも、そのようなスタンスではなかった。その代わりに、彼は宗教保守派を積極的に取り込み、まず中絶の権利に反対する最高裁判事を指名すると公約し、次に彼らが「自動的に」ローを覆すと示唆した。さらに、粗野で3度の結婚歴があり、教会の言葉が通じないTV界の有名人であるトランプは、政治右派と強い結びつきを持ち、中絶に不屈の姿勢を持つ福音派クリスチャンのマイク・ペンスを伴走者に選んだ。ペンスは下院議員として、家族計画連盟への資金拠出を停止しなければ政府を閉鎖すると脅し、インディアナ州知事として、当時全米で最も厳しい中絶禁止法に署名した。

 レーガンやブッシュ両政権が行ったように、家族計画資金だけに制約を課すのではなく、トランプは米国のすべての国際医療支援に制約を適用した。2018年、中絶規制は120億ドルの援助に影響を与えた。

 2017年の就任3日後、トランプはバラク・オバマによって取り消されたメキシコシティ政策を復活させた。それだけではない。ペンスの助けもあり、トランプはこの政策の範囲を大幅に拡大し、「グローバル・ヘルス援助における生命の保護」と改名した。レーガンやブッシュ両大統領が行ったように、家族計画援助にのみ制約を課すのではなく、トランプは米国のすべての国際保健医療援助に制約を適用した。5億6000万ドルの援助に影響を与える代わりに、中絶制限は2018会計年度だけで約120億ドルに適用されると、米国政府説明責任局は報告した。その資金の約3分の2は、アメリカ最大かつおそらく最も成功した対外保健プログラムである「エイズ救済のための大統領緊急計画」に使われている。PEPFARとして知られるこの超党派プログラムは、ジョージ・W・ブッシュの最大の遺産のひとつと広く考えられている。

 トランプはそれだけにとどまらなかった: 米国の援助を受けている組織の下請け業者にも制限を拡大したのだ。2019年、マイク・ポンペオ国務長官は、トランプ政権は、中絶関連サービスを提供する下請け業者に対して、たとえその下請け業者が支払うものが中絶とは無関係であったとしても、下請け業者自身の資金を含むいかなる資金も支払うことを禁止すると発表した。「アメリカのお金をもらったら、そのルールに従わなければならないという考え方がある。これは違う」と、この制限に反対する国際人権コンサルティング団体、トーチライト・コレクティブの最高執行責任者であるベルゲン・クーパーは言う。「米国からの資金を受け取らない場合、つまり米国からの資金を受け取る団体と契約する場合、その団体に従わなければならない。

 これほど深刻な影響はない。『米国科学アカデミー紀要』の推計によれば、2017年から2021年の間に、トランプ大統領の規制拡大は「約10万8000人の母子死亡と36万人の新たなHIV感染をもたらした」という。複数の報道によれば、トランプ大統領HIV/AIDS、がん、マラリア結核の検査と治療を損なうほど、制限を著しく拡大した。ケニアでセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスと権利を支援するTrust for Indigenous Culture and Healthのエグゼクティブ・ディレクターであるジェディダ・マイナ氏は、「恐怖はすぐに訪れた」と語った。

 トランプ政権は、中絶関連サービスを提供していない団体から提供している団体に米国の資金が流れ込むのを防ぐために、規則を厳しくしていると推論した。「われわれは、裏口資金提供のスキームや、われわれの政策を回避するエンドランを厳格に禁止する」とポンペオは述べた。「アメリカの税金が中絶の引き受けに使われることはない。ヘルムズ修正条項が、何十年もの間、海外の人工妊娠中絶のためにアメリカの資金を直接支払うことを違法としていたことなど、気にする必要はない。

 ペンスと同じく福音主義キリスト教徒であるポンペオは、厳しい規則が女性を傷つけ、望まない妊娠や中絶につながっているという主張を退けた。「それは間違っている。「すべての人間の生命を守らないことが、なぜか人間の生命を破壊することになるという理論は、その表面からして倒錯している」。

 スーザン・B・アンソニー・プロライフ・アメリカのマージョリー・ダネンフェルザー会長も、トランプ大統領の規制が有害であるという議論を否定した。メキシコシティ政策の強化によって、家族計画への資金援助やその他のグローバルヘルスへの資金援助が1円でも減額されたことはない。"それは単に、命の文化を受け入れる国々で中絶を促進することなく真の支援を提供する外国の非政府組織に、米国の税金が資金提供されることを保証するものである。"

 ポンペオの国務省は報告書を発表し、1300以上の米国からの直接の資金提供先のうち、8団体を除くすべてがこの制限を受け入れていると指摘し、新しい方針を擁護した。米国は多くの組織の予算の大部分を引き受けているのだから、これは当然である。2019年の報告書はまた、「HIV/AIDS、自発的な家族計画/生殖医療、結核、栄養プログラムを含むヘルスケアの提供に若干の影響があった」ことは認めたものの、米国は辞退した8団体の活動を行う他の団体を見つけることができたと述べている。

 2020年選挙のほんの数週間前、トランプは主に抑圧的な国々のグループとともに、「女性の健康の促進と家族の強化に関するジュネーブ・コンセンサス宣言」と呼ばれる拘束力のない指令を共同提案した。トランプ大統領が敗れた後、同政権は国連で「中絶する国際的権利は存在しない」と述べた。

 ジョー・バイデン大統領は、ジェンダー平等とグローバルヘルスを推進する国連の努力を損なうとして、ジュネーブ・コンセンサス宣言から離脱した。この宣言の立役者であるInstitute for Women's Healthのヴァレリー・ヒューバー会長は、2024年の大統領候補者に対し、当選したらこの宣言に署名した国連合に再び参加することを誓約するよう求めている。トランプはこれに同意した最初の人物である。

 ヘルムズ修正条項とメキシコシティ・ポリシーの効果を長年にわたって検証してきた無数の研究には、共通のテーマがある: ルールは裏目に出たのだ。最も広く引用されている研究のひとつは、スタンフォード大学から出たもので、2019年に『ランセット』誌から発表された。ジョージ・W・ブッシュ政権の8年間に、メキシコ・シティ政策に「非常にさらされていた」国々では、人工妊娠中絶がなんと40%も増加したことがわかった。同じ研究では、近代的な避妊具の使用は14%減少し、妊娠は12%増加したと報告している。

 ラトガース大学のロジャーズ教授は、「政策立案者が考慮も予測もしていない、政策がもたらす典型的な意図せざる結果のひとつです」と言う。彼女は、2001年から2008年までの51カ国のデータを分析し、ラテンアメリカの女性が中絶をする確率は、ブッシュ政権時代の方が、その前のクリントン政権時代よりも3倍高いことを発見した。その違いとは何か: ブッシュはメキシコシティ政策を発動し、クリントンは発動しなかった。

 「この規則の目的が妊娠中絶を防ぐことであるならば、それは大失敗である。"何が起こったかというと、人工妊娠中絶はいずれにせよ起こるが、規則はそれを安全でなくしているだけであり、特に、すでに人生で最も困難な状況にある女性にとっては安全でない。"

 ガットマッハー研究所の調査によれば、ヘルムズだけを撤廃し、中絶の安全性を確保するために米国の援助を利用すれば、中絶に関連する妊産婦の死亡を98%削減し、33カ国で年間17,000人の女性の命を救うことができるという。年間1900万件の安全でない中絶を防ぐことができる。

 中絶はもはや、50年前のような超党派の問題ではない。現在、民主党の政治家たちは、共和党の政治家たちが中絶に反対するのと同様に、ほぼ一様に中絶の権利を支持している。中絶規制を支持する共和党の大統領や下院議員は、その致命的な影響について語らない。しかし、研究者たちやリプロダクティブ・ライツ擁護者たちによって、そのような研究結果は言うまでもない。それでも、彼らは軌道修正しようとする試みを阻止してきた。

 米国家族計画連盟のグローバル・アドボカシー担当シニア・ディレクターであるケイトリン・ライアン・ホリガン氏は、「私たちは、米国の政策が深刻かつ広範な害を及ぼしていることを話しています」と言う。ホリガン氏らは、メキシコシティ政策に特に強い憤りを感じている。というのも、メキシコシティ政策が実施された場合、ヘルムズ修正条項の上に重ねられるため、その影響はより強烈なものとなるからだ。「世界的な箝口令に関する研究はすべて、有害であることを示している。「彼らがそれを認めるか、それに基づいて行動するかは別のことだ。

 この記事のために連絡を取った共和党関係者や中絶権反対派は、誰一人としてインタビューに応じなかった。ほとんどの者は、何度メッセージを送っても返答しなかった。その中には、トランプ大統領陣営の広報担当者、ペンス、ブッシュ、何十年もの間、中絶反対派の事実上の筆頭として議会で活躍してきたニュージャージー州クリス・スミス下院議員、上院のプロライフ議員連盟の議長を務めるミシシッピ州のシンディ・ハイド・スミス上院議員も含まれている。

 スーザン・B・アンソニー・プロライフ・アメリカのダンネンフェルザーと、インスティテュート・フォー・ウーマンズ・ヘルスのフーバーという2人の中絶反対派の指導者は、中絶規制を支持し続けることを確認し、私にメールを送ってきた。どちらも、この政策が中絶と妊産婦死亡を増加させるという多くの研究についての私の質問には答えなかった。また、私が求めたような、異なる結論に至った研究結果も示されなかった。

 トランプ政権で女性の健康に関する高官を務め、以前は禁欲教育の擁護者であったフーバーは、「私たちは、米国の税金が米国内外で人工妊娠中絶の提供や促進に使われることは決してあってはならないと考えています」と書いた。ヘルムズ修正条項に関しては、最近の世論調査で、アメリカ人の大多数が、"プロチョイス "を自認する人々を含め、自分たちの税金が世界的な中絶に使われることに反対していることが明らかになった。

 マリスト世論調査カトリック友愛団体「コロンブス騎士団」のために実施したその2023年の世論調査では、回答者の78%が、海外の「中絶サービス」に税金を使うことに反対だと答えた。これは、ハート・リサーチ・アソシエイツがアイパスのために行った2019年の世論調査とは対照的で、回答者の54パーセントがヘルムズを覆すことに賛成し、33パーセントが反対している。同様に、中絶権擁護団体のために2018年と2020年に実施された世論調査では、回答者の60%近くがメキシコシティ政策に反対しており、ある世論調査では70%が完全廃止を望んでいた。

 一方、ニュージャージー州のスミス率いる共和党議員は、2500万人の命を救ったとされるHIV/AIDSプログラム、PEPFARにメキシコシティ政策を押し付けようとしている。

 中絶手術の失敗で命を落とす女性たちは、今に始まったことではない。メキシコシティー政策が有効であろうと無効であろうと、共和党であろうと民主党であろうと、女性たちは命を落とす。しかし、時にはその影響はより深刻であり、トランプ大統領の4年間の任期はそのような時期の一つであった。一部の医療施設では避妊具が不足し、以前は無料で配布していた避妊具を有料化したところもあり、意図せず妊娠する女性が増えたことがコロンビア大学の調査でわかった。安全な中絶や中絶に関連したカウンセリングや紹介を行っていたクリニックは、それを続けて米国からの資金を失うか、あるいはそれをやめて他の政府や組織からの資金を失うかを決めなければならなかった。中絶関連のケアを提供するか、HIVサービスを提供するかの選択を迫られた団体もあった。そして多くの団体は、中絶関連サービスを提供する団体と提携するだけで、自分たちの生命線である米国ドルを失うことを恐れていた。

 女性の健康を擁護する人々は、その影響はトランプ政権が公表したよりもはるかに大きく、外部の調査によって支持されていると言う。「ニューヨーク市立大学公衆衛生・保健政策大学院のテリー・マクガバン上級副学部長(学務・学生担当)は、「箝口令は医療システムを引き裂いた。ほとんどの組織は、医療費助成のゴリアテにノーと言う余裕はなかった。しかし、中には断れるところもあった。擁護者たちによれば、患者の受け入れを減らすことで生き延びたところもあったが、完全に閉鎖したところも少なくなかったという。

 ネリー・ムニャシアは、彼女が運営するリプロダクティブ・ヘルス・ネットワーク・ケニアという組織で、米国の援助を失う痛みを身をもって経験した。このネットワークには、合法的な中絶(中絶が許可されているまれな状況下での)を実施し、中絶後のケア、避妊薬、HIV治療、がん検診、その他の内科的治療を提供するクリニックが含まれている。ムニャシアによれば、同ネットワークは中絶関連の医療に米国の資金を受け入れたことはないが、他のサービスのために年間約100万ドル(予算の約半分)を受け取っていたという。トランプ政権下では、ネットワークはその資金を失い、年間20万人の女性と男性へのサービスを中止せざるを得なくなった。そのうちの3分の1がHIV患者だった。そのほとんどは、舗装されていない道路でしか行けない僻地で包括的な医療を提供する「ワンストップ・ショップ」だった。ムニャシアによれば、閉鎖によってコミュニティ全体が医療を受けられなくなることもしばしばあったという。「人々は医療施設にアクセスするまでに半日歩かなければなりません」と彼女は私に言った。

 最大の組織でさえ、財政的に大きな打撃を受けたと報告している。ロンドンを拠点に37カ国で活動する家族計画団体MSIリプロダクティブ・チョイスは、トランプ大統領就任前は年間予算の約17%を米国から得ていたと、渉外担当ディレクターのベサン・コブリーは語った。彼のルールに同意することを拒否すると、2017年だけで3000万ドルを失った。トランプ大統領が在任していた4年間で、MSIは失った資金によって600万件の意図しない妊娠、180万件の安全でない人工妊娠中絶、2万件の妊産婦の死亡を防ぐことができたと推定している。

 トランプの厳しい規制は網の目を広げたため、あらゆる種類の医療を必要とする人々を危険にさらした。擁護団体によれば、現在までのところ統計はほとんどないが、PEPFARに規制が適用されたため、女性や男性の間でHIV感染率が上昇したという逸話的証拠があるという。

 生理用ナプキンさえも俎上にのぼった。ケニアの「HIVエイズに関する法的・倫理的問題ネットワーク」は、90万ドルの米国助成金の約半分を失ったため、生理用ナプキンを無料で提供できなくなったと、同ネットワークの元職員で、現在は「アフリカ戦略的訴訟イニシアティブ」の法務部長を務めるネリマ・ヴェレは言う。そのため、若い女性や少女が年上の男性とセックスをし、その男性からお金をもらって生理用品を買うという、俗に「ナプキン目当てのセックス」と呼ばれる「現象」が悪化した、とウェア氏は言う。女性や少女たちは「安全なセックスについて交渉することができなかった」と彼女は説明する。

 他の国々でも、HIV/AIDS感染者は特に大きな打撃を受けたと、世界中のLGBTQIの権利を擁護する連合体であるCouncil for Global Equalityの上級政策フェロー、ベアーン・ルース=スナイダーは言う。「多くのコミュニティでは、安全な診療所がひとつあり、その診療所では、あなたを追い出したり、ひどい思いをさせたりすることはない。「そのクリニックは、中絶医療を提供する場所でもあり、制限の多い環境では、少なくともカウンセリング、紹介、情報を提供する場所でもある。

 スワジランドとして知られていたエスワティニでは、地元の非営利団体が大金を失ったため、HIV感染を予防するためにPEPFARが資金援助していた男性の医療割礼の実施を中止せざるを得なくなったと、エイズ研究財団(amfAR)の公共政策研究ディレクター、ジェニファー・シャーウッドは述べた。いくつかの研究によれば、異性愛者の男性にとって、割礼はHIVのリスクを最大60%減少させる。「人口の大部分がHIVとともに生きている。HIVを予防するためには、あらゆる手段が必要なのです」とシャーウッドは私に語った。エスワティニの家族生活協会は、女性に割礼のサービスを提供し、パートナーの男性が割礼の予約に同伴すると、割礼を勧めた。同協会が割礼の提供をやめると、別のグループがその穴を埋めようとした。しかし、「彼らはゼロからのスタートで、男性にこのサービスを受けるよう説得しようとしていた」とシャーウッドは言う。「そして本当にうまくいかなかった」

 就任宣誓から8日後、バイデンはトランプ版メキシコシティ政策を撤回した。「バイデンは、大統領就任の8日後、トランプ大統領版のメキシコシティ政策を撤回した。「女性と女児のセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスと権利を、米国だけでなく世界的に支援することが、私の政権の方針である」と宣言した。

 しかし、現場での進展は遅い。「施設を閉鎖しても、緘口令が解除されても、魔法のように再び現れるわけではありません」と、ケニアのTrust for Indigenous Culture and Healthの代表であるマイナは言う。「彼らは永久にいなくなる ムニャシアによれば、彼女のネットワークは、遠隔地の村々に届くよう、いくつかの移動医療施設を再開させたが、医療制度は依然として行き詰まっているという。「毎日、サービスを受けられず、出産しようとして亡くなった女性の話を聞きます」と彼女は言う。

 トランプ大統領の退任後、米国から資金援助を受けている海外の保健機関は、削減を余儀なくされていた家族計画サービスを再開しようと奮闘した。しかし、ワシントンからの連絡が不明確だったこともあり、問題は長引き、2021年のほとんどの期間、合法的な中絶にアクセスできない女性がいたとFòs Feministaは報告している。今日に至るまで、中絶の汚名は残ったままであり、次期共和党大統領が規制を復活させる可能性が高いことを十分すぎるほど知っている内科的中絶を提供する医療従事者を冷え込ませている、と擁護者たちは私に語った。その大統領がトランプ氏である可能性があることは、彼らにはわからないことではない。

 「共和党の大統領が誕生したら、私たちはお手上げです」と、リプロダクティブ・ヘルス、健康と権利、正義を専門とする人権研究者、エリサ・スラッテリーは言う。スラッタリーは、保守派のヘリテージ財団が起草した次期共和党政権のためのロードマップ「プロジェクト2025」を指摘し、「メキシコシティ政策」をすべての対外援助に拡大することを提言している。

 リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康と権利)を支援するアドボカシー・研究団体、ポピュレーション・アクション・インターナショナルのシニアフェロー、クレイグ・ラッシャーによれば、この13年間、米国議会は国際家族計画への拠出額を増やすことができなかった。「私たちは、クリスマスの朝、ストッキングの中に石炭が入っているのを見つけた兄弟のような気分です」と彼は私に言った。バイデンは、2024年度に家族計画支援とUNFPAのために7000万ドルの増額を提案した。しかし彼の政権は、家族計画予算を4分の1近く削減し、トランプ大統領メキシコシティでの制限を成文化し、UNFPAへの支払いを阻止するという下院共和党の提案に真っ向からぶつかった。その可能性を考えると、14年目の停滞は「今のところ勝利と言えるかもしれない」とラッシャーは言う。(この原稿を書いている時点では、議会は今年度の予算を決定していない)。

 中絶権擁護者たちは、家族計画への支出は命を救い、安全でない処置の後の高額な堕胎後治療を減らすと主張している。ガットマッハー研究所は1月に、現在、米国の援助によって年間約1万4000人の妊産婦の死亡が防止されていると報告している。もし米国がその投資を3倍近くに増やせば、さらに年間35,000人の命を救うことができるとグットマッカーは考えている。

 現在の政治環境では、そのような予算増は夢物語である。ヘルムズ修正条項を撤廃し、将来の大統領がメキシコシティ政策を再び実施するのを阻止するよう議会を説得することだ。ヘルムズ修正条項が採択されてから47年後の2020年まで、議会はヘルムズ修正条項の廃止を試みようともしなかった。当時民主党が主導していた下院は、対外援助法案から修正条項を削除したが、共和党が支配する上院との交渉中に再び修正条項が入り込んだ。昨年、両院の民主党はこの法案を再提出した。唯一の共和党議員であるリサ・マコウスキー上院議員アラスカ州)は、民主党と共同で、将来の大統領がメキシコシティ政策を制定することを禁止する法案を提出した。マコウスキー議員は本記事へのコメントを拒否し、バイデン議員のスポークスマンは、バイデン議員がこの2つの法案を支持しているかどうかについては明言を避けた。

 バーバラ・リー下院議員は、議会における女性の権利擁護の第一人者の一人であり、メキシコ・シティ政策の永久廃止に何年も取り組んできた。この政策は「世界中で多くの女性を殺しており、私たちはその当事者になるべきではありません」とカリフォルニア州選出の民主党議員は私に語った。「あなたが見ているのは、共和党アメリカの対外援助を武器に、抑圧の道具として、また女性の権利を後退させる道具として使っている姿です」。

 下院は共和党、上院は民主党が支配しており、選挙が迫っているため、どちらの法案も成立する可能性は事実上ない。

 エディター・オチエンはレイプと妊娠を両親に告げず、病院にも行かなかった。中絶の汚名はあまりにも大きく、歌でさえ中絶は犯罪だと歌っていたと彼女は私に語った。高校生だったオチエンは、安全な中絶に必要な2万ケニアシリング(2006年当時でおよそ280ドル)、あるいは安全でない中絶に必要な3,000シリング(当時で43ドル以下)を支払う余裕がなかった。彼女は親しい友人からお金を借り、その友人は彼女の大学資金からそのお金を引き出した。

 現在35歳のオチエンは、もはや秘密主義者ではない。彼女は社会正義の提唱者であり、貧困、暴力、不平等の犠牲になっている女性や少女の生活を改善しようと努めるフェミニストのリーダーだ。2016年、彼女はフェミニスト・フォー・ピース、ライツ・アンド・ジャスティス・センターを設立した。ケニアの人々の中絶に対する考え方を変え、2人の娘を含む他の人々が彼女が経験したトラウマを経験するのを防ぐために、彼女は個人的なストーリーを共有している。

 そうしなければ、"暴力が毎日繰り返され、私たち全員が傷つきやすくなる "と彼女は信じている。だから彼女は自分の人生を "公立学校 "に変えた。「中絶を望む女性たちから毎週のように電話がかかってくる。彼女は女性たちに、エディターが送ってきたと言えば費用が補助されると言う。

 彼女の活動は敵を引き寄せてきた。その多くは、自分の妻やパートナーに彼女と付き合わないよう指示する男性たちだが、オチエンは揺るぎない信念を持ち続けている。今日に至るまで、安全でない中絶で亡くなった女性を「たくさん」知っていると彼女は言う。しかし、家父長制的な文化、厳しい禁止事項、処罰に対する非常に現実的な恐怖のため、家族は死因を隠したり、愛する人を弔うことに緊張したり、あるいは拒否したりすることが多いと彼女は言う。

 もしワシントンが、アメリカの保守派をなだめつつも、国境外の女性の健康と命を危険にさらすような制限的な政策をやめれば、状況は変わるかもしれない、とオチエン氏や他の中絶権利擁護者たちは言う。その影響は、中絶の権利が広く認められている国々で最も顕著に現れるだろう。ケニアのような場所であっても、安全でない中絶や妊産婦の死亡数を減らし、抑圧的な文化を変え始める可能性がある、と現地の女性たちは言う。「米国が何らかの決定を下すとき、現実には、それは現場にいる女性や、とてもとても貧しい女性に直接影響するのです」とオチエン氏は言う。「変化をもたらすために、多くの女性が死ぬのを待つことはできない。

 この記事はThe Fuller Projectとの共同制作である。

ジョディ・エンダ
 ジョディ・エンダはフラー・プロジェクトのワシントン支局長兼シニア特派員である。フラー・プロジェクトは世界中の女性問題を報道する非営利のニュースルームである。

トロント大学で盗撮をした若い日本人男性を生んだのは、日本の過剰な性産業

Xで此花わかさんがこんな発言をしていました

トロント大学で盗撮をした若い日本人男性を生んだのは、日本の過剰な性産業だと思う。日本はchikanとhentaiを国際語にしてエンタメコンテンツ化し、海外に輸出し続けた。それが私達の子供世代にどのような被害をもたらしているか。以前コラムを書きました。

このコラム、必読です!

2023.08.17 此花わかさんのFRaUのコラム
DJ SODAさんの性被害を生んだ「痴漢大国」日本。「chikan」「hentai」が国際語になっていた

2017:岡野八代 ケアの倫理

10年以上もかけて研究されてきたのですね……


オンラインで偶然見つけました。
継続する第二波フェミニズム理論 リベラリズムとの対抗へ


大学の研究者情報岡野 八代(グローバル・スタディーズ研究科) | 同志社大学 研究者データベース
より
比較的簡単に手に入りそうな媒体に載っている読んでみたい論文をメモしておきます。

ケアと正義--あるいは〈法と女性〉を語る居心地の悪さについて
岡野八代
世界, 968 137 - 148, 2023年04月, 研究論文(学術雑誌)


ケア/ジェンダー/ 民主主義
岡野八代
世界, 952 92 - 106, 2022年01月


ケアの倫理は、現代の政治的規範たりうるのか?
岡野八代
思想, 1152 6 - 28, 2020年03月, 研究論文(学術雑誌)


フェミニズムリベラリズムの不幸な再婚? : 日本軍性奴隷制問題をめぐる反動に抗して (特集 保守とリベラル : ねじれる対立軸)
岡野 八代
現代思想, 青土社, 46(2) 90 - 107, 2018年02月

2024/03/12 第28回厚生政策セミナー 「時間と少子化」

主催:国立社会保障・人口問題研究所

01 開会挨拶 趣旨説明 岩澤美帆 少子社会における「時間」をめぐる困難を考える - YouTube
02 報告1 Man Yee Kan 出産子育て期の男女の生活時間 - YouTube
03 報告2 福田節也 お金か?時間か?子育てコストと少子化 - YouTube
04 報告3 大石亜希子 24時間週7日経済におけるワークライフバランス - YouTube
05 報告4 濱口桂一郎 子育て世代の労働時間と労働法政策 - YouTube
06 報告5 西岡隆 こども未来戦略方針に基づく政府の新たな取組み - YouTube
07 パネルディスカッション~閉会 - YouTube

講演者 
岩澤 美帆 【国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部長】
Man-Yee Kan(マンイー・カン) 【オックスフォード大学社会学部教授】
福田 節也 【国立社会保障・人口問題研究所 企画部室長】
大石 亜希子 【千葉大学大学院社会科学研究院教授】
濱口 桂一郎 【独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)研究所長】
西岡 隆 【こども家庭庁 長官官房参事官】
林 玲子 【国立社会保障・人口問題研究所 副所長】
坂本 大輔 【国立社会保障・人口問題研究所 政策研究調整官】
田辺国昭【国立社会保障・人口問題研究所 所長】 

●動画のチャプターとタイトル
01_開会挨拶  田辺国昭【国立社会保障・人口問題研究所 所長】
 _趣旨説明  少子社会における「時間」をめぐる困難を考える
  岩澤 美帆 【国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部長】

02_報告1   出産・子育て期の男女の生活時間:東アジアと西欧諸国の比較
Man-Yee Kan(マンイー・カン)【オックスフォード大学社会学部 教授】

03_報告2  お金か?時間か?:子育てコストと少子化
       福田 節也 【国立社会保障・人口問題研究所 企画部室長】
04_報告3   24時間週7日経済におけるワークライフバランス
       大石 亜希子 【千葉大学大学院社会科学研究院教授】

05_報告4  子育て世代の労働時間と労働法政策
       濱口 桂一郎 【独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)研究所長】

06_報告5  こども未来戦略方針に基づく政府の新たな取組み
       西岡 隆 こども家庭庁 長官官房参事官

07_パネルディスカッション
       林 玲子【国立社会保障・人口問題研究所 副所長】

_閉会挨拶
       坂本 大輔 【国立社会保障・人口問題研究所 政策研究調整官】

澤美帆
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Rush Hour of Life(子どもを産む期間の短縮 25~35歳)
<岩沢美穂さんのスライド
RHOL(Rush Hour of Life)

02 報告1 Man Yee Kan 出産子育て期の男女の生活時間 - YouTube

法務省:2023年(令和5年)7月13日から不同意性交等罪に変わりました

強姦罪(1907)⇒強制性交等罪(2017)⇒不同意性交等罪(2023)


法務省:性犯罪の規定が2023年(令和5年)7月13日から変わります

【1】 強制性交等罪は「不同意性交等罪」になります!
「暴行」・「脅迫」・「障害」・「アルコール」・「薬物」・「フリーズ」・「虐待」・「立場による影響力」などが原因となって、同意しない意思を形成したり、表明したり、全うすることが難しい状態で、性交等やわいせつな行為をすると、「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」として処罰されます。


【2】 性交同意年齢が「16歳未満」に引き上げられます!
16歳未満の子どもに対して、性交等やわいせつな行為をすると、「不同意性交等罪」や「不同
意わいせつ罪」として処罰されます(※)。
(※)相手が13歳以上16歳未満の場合は、行為者が5歳以上年長のとき。


【3】 わいせつ目的での16歳未満の者への面会要求などは犯罪です!
16歳未満の子どもに対して、次の行為をすると、処罰されます。
① わいせつ目的で、うそをついたり金銭を渡すと言うなどして、会うことを要求する
② その要求の結果、わいせつ目的で会う
③ 性的な画像を撮影して送信することを要求する


【4】 性的な画像の盗撮は「撮影罪」です!
次の行為をすると、「撮影罪」・「提供罪」として処罰されます。
① 正当な理由なく、人の性的な部位・下着などをひそかに撮影する
② 正当な理由なく、16歳未満の子どもの性的な部位・下着などを撮影する
③ ①・②で撮影した画像を人に提供する


【5】 性犯罪の公訴時効期間が延長されました!
時効期間は、被害に遭った時(18歳未満の場合は18歳になった時)から、
① 不同意性交等致傷罪など・・・20年
② 不同意性交等罪など・・・15年
③ 不同意わいせつ罪など・・・12年 になりました。


警察庁 コラム3 性犯罪に対処するための刑法の一部改正|平成30年版犯罪被害者白書(概要) - 警察庁

 平成29年(2017年)6月、刑法の一部を改正する法律が成立し、同年7月から施行された。

 刑法(以下このコラムにおいて、改正前の刑法を「旧法」、改正後の刑法を「新法」という。)における性犯罪の罰則については、明治40年の制定以来、基本的に維持されてきたところ、今回の改正は、近年における性犯罪の実情等に鑑み、事案の実態に即した対処ができるようにするため、110年ぶりに性犯罪の罰則等が大きく改正されたものであり、その概要については、次のとおりである。

1 強姦罪等の非親告罪
 旧法においては、強姦罪、強制わいせつ罪等の性犯罪については、親告罪とされ、被害者の告訴がなければ起訴することができなかった。その趣旨は、加害者が起訴され、裁判になることによって被害者のプライバシー等が害されるおそれがあることから、被害者の告訴がなければ起訴することができないこととすることにより被害者の意思を尊重するためであると考えられていた。

 しかし、被害者等からのヒアリングによれば、「被害者にとって告訴するかどうかの選択を迫られているように感じられることがある」など、かえって親告罪であることが被害者に精神的な負担を生じさせている場合が少なくないと考えられた。

 そこで、このような被害者の精神的負担を軽減するため、性犯罪について親告罪とする規定が削除され、告訴がなくても起訴することができるように改められた。

2 強姦罪の構成要件及び法定刑の見直し等
○ 旧法では、「姦淫」、すなわち「性交」のみが強姦罪の処罰対象とされ、被害者も女性に限られていた。

 しかし、「性交」ではない「肛門性交」及び「口腔性交」についても、被害者にとっては、濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものであって、「性交」と同等の悪質性・重大性があるものと考えられた。

 また、被害を受けた者が被る身体的・精神的な苦痛は、性差によって異なるものではないと考えられた。

 そこで、これらの行為について、「性交」と同様に重い類型の犯罪として処罰するとともに、被害者の性別は問わないこととされ、これに伴い、強姦罪の罪名が「強制性交等罪」に改められた。

○ 旧法では、強姦罪の法定刑の下限が強盗罪より低いこと等から、強姦罪の法定刑の引上げを求める指摘が多くなされていた。

 そこで、このような状況や実際の事件の量刑傾向を踏まえ、新法では、強制性交等罪の法定刑の下限が懲役3年から5年に、同罪に係る致死傷の罪の法定刑の下限が懲役5年から6年に、それぞれ引き上げられた。


3 監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪の新設
 18歳未満の者は、一般に、精神的に未熟である上、生活全般にわたって自己を監督・保護している監護者に経済的にも精神的にも依存している。そして、監護者が、このような依存・被依存ないし保護・被保護の関係により生ずる「監護者であることによる影響力」があることに乗じて18歳未満の者と性的行為をすることは、強制わいせつ罪又は強制性交等罪と同様に、これらの者の性的自由ないし性的自己決定権を侵害するものであると考えられた。

 そこで、このような事案の実態に即した対処を可能とするため、新法では、強制わいせつ罪や強制性交等罪とは別に、これらを補充する規定として、暴行や脅迫がなされなかった場合や、抵抗できない状態にあったとはいえない場合であっても、強制わいせつ罪又は強制性交等罪と同じ法定刑で処罰することができる監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪が新設された。

三浦まり『さらば、男性政治』より抜き書き

岩波新書 2023年刊行

政治分野における女性への暴力の背景にあるのはミソジニーである……それは家父長制的価値規範に叛く女性を排除する、あるいは沈黙させることを目的とするものだ。……ジェンダー平等が少しでも進展を見せると、バックラッシュが必然的に引き起こされる。

日本では1990年代に女性議員が増え、ジェンダー平等に関する立法も進んだ。男女共同参画社会基本法(1999年)やDV防止法(2001年)はその最たる成果である。1996年には法制審議会が選択的夫婦別姓を可能にする法改正を答申した。

中野晃一が指摘するように、日本政治の「右傾化」が進行し、国家主義新自由主義を中核とする新右派連合の存在感が増していく。フェミニズムへのバックラッシュは、歴史修正主義バックラッシュの一環として激しい高まりを見せるのである。選択的夫婦別姓への反対はもちろんのこと、性的自己決定権に基づく性教育への反対、教科書における「慰安婦」問題の記述削除、女性・女系天皇への反対、男女共同参画条例の阻止や内容の書き換え、「ジェンダーフリー」バッシングなどとして表出した。

第二次男女共同参画基本計画には、ジェンダーフリーは「国民が求める男女共同参画社会とは異なる」と書き込まれ、ジェンダーの用語も「社会的性別」とされ、それまでの「社会的・文化的に形成された性ベル」とは異なる定義が使われた。……2006年には内閣府地方公共団体に対してジェンダーフリーという養母は使用しないことが適切であるとする通達を出すに至っている。
 第二次男女共同参画基本計画では、リプロダクティブ・ヘルス/ライツへの言及も後退し、逆に日本は中絶の自由を認めるものではないことが明記されている。
 この時期からバックラッシュが起きた背景に宗教右派の影響があったことが、2022年7月の安倍元首相の銃撃事件を契機にようやく明るみになりつつある。(旧)統一教会神道政治連盟日本会議などが男女共同参画条例の制定を妨害したり、「親学」の推進や家庭教育を強める運動を転嫁ウするなど、自民党および一部の地方行政に深く浸透している。

1990年代後半から2000年代前半に吹き荒れたバックラッシュの嵐はその後のジェンダー平等政策を停滞させるに余りあるものであった。右派が狙った男女共同参画社会基本法の廃止こそ実現はしなかったものの、ジェンダーという言葉は長い間封印され、「男女共同参画」という官製用語しか使えない状況が続いた。2012年に発足した第二次安倍政権は新たに「女性活躍」という言葉を作りだし、内閣官房に「すべての女性が輝く社会づくり本部」を設置し、内閣府男女共同参画会議の重要性を引き下げるような動きも登場した。ジェンダー平等が「男女共同参画」に意訳され、女性のエンパワーメントが「女性活躍」と矮小化された日本では、国際的な規範は換骨奪胎され、ガラパゴス化していったのである。

ところが近年ではSDGsの浸透により、「ジェンダー平等」という言葉が一気に市民権を得る事態となっている。SDGsのターゲット5は「ジェンダー平等」と訳され、日本社会に浸透していった。ジェンダーという言葉はメディアでも溢れ、地方自治体の男女共同参画計画にもジェンダー平等計画という名称が使われ始めている。

……「ジェンダー」の言葉狩りはもはや不可能な状況である。2021年には流行語大賞のトップテンに「ジェンダー平等」が選ばれるまでになった。

このこと自体は歓迎すべき時代潮流であるが、遠からず形を変えたバックラッシュがやってくる、あるいはすでに起きていると見るべきであろう。

1990年代後半以降の日本のバックラッシュは日本政治の(より厳密には自民党の)右傾化と共振して起きており、歴史修正主義をめぐる論点が前景化した。
 第二次安倍政権(2012-20年)になると、、右派は「歴史戦」は国内では勝利を収めた都市、海外での「慰安婦」像建設反対運動を展開するようになったことが山口智美らの研究で明らかになっている。科学研究費(科研費)を用いた「慰安婦」問題研究に国会議員の杉田水脈が介入する事態も起きた。それに対し2019年には牟田和恵、岡野八代、井田久美子、小久保さくらが原告となり名誉棄損の裁判が起こされた。依然として「慰安婦問題は「歴史戦」の中核を占めているが、女性の普遍的な人権問題であることからグローバルな「記憶のポリティクス」が展開しつつある。

その意味で、第二次安倍政権が進めた女性活躍は一般に理解されるような経済政策ではなく、日本の国際的な威信の向上という政治プロジェクトとして捉えることで、その性格がより正確に理解できると筆者自身は考えている。

フェミニズムへのバックラッシュと並び)日本のバックラッシュを構成するもう一つの柱は、家族への国家介入である。右派は「国家家族主義」と呼ぶべきイデオロギーを保持しており、選択的夫婦別姓への強固な反対に見られるように、譲れない核心的な価値観として異性愛規範、法律婚規範、嫡出性規範、永続性規範(離婚は限定的にしか認めない)を原理とする近代家族観を持っている。

2022年には262人の国会議員が参加する神道政治連盟国会議員懇談会において、性別少数者のライフスタイルは「家族と社会を崩壊させる社会問題」だとする察しが配布され、冊子の内容を否定し差別をなくす姿勢を示すことを求める5・1万人の抗議署名が自民党と同懇談会に送られた。自民党が(旧)統一教会との関係を清算しきれないように、宗教右派と政治家は抜き差しならない関係にあり、これらの影響力が保持される限り、選択的夫婦別姓同性婚、LGBT差別解消法は一歩も進まない状況にある。

 女性の身体もまた標的にされる。少子化・人口減少に対する危機感が、女性の身体を統制し、産ませる圧力へと転じているからである。高校生に向けた妊活の推進、官製の婚活政策といった国家主義的なものから、フェムテック(生理や更年期などの女性の課題を解決する技術)推進の新自由主義的なものまで、活用できる資源を総動員している。こうした露骨な出産奨励は、第2章でみたように女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツを置き去りにしたものである。筆者は第二次安倍政権の女性就労支援と出産奨励政策の組み合わせを「新自由主義的母性」と呼んだが、国家家族主義と新自由主義の度合いは政権のカラーによって変わるものの、基本路線は継承されていると見ていいだろう。

以上は第5章ミソジニーとどう戦うか。続いて第2章「20年の停滞がもたらしたもの――ジェンダー平等後進国が作り出した生きづらさ――」に戻ってみます。


まずはジェンダー秩序の説明から。

私たちの社会は様々な点でジェンダー化されている。ジェンダーというのは社会的・文化的に構築された性別のことである。ルール、規範、実践を含む「制度」が男女の区分を作りだし、その区分は男女の地位、役割、行動規範、セクシュアリティについて、一定の秩序を作り出している。一般的に、男性は女性よりも高い地位が与えられ、公的領域において生産活動に従事するものとされる。他方、女性は私的領域に属するとされ、もっぱら再生産とケア労働(出産・育児・介護や家事)を担うことを期待される。「男性らしさ」「女性らしさ」といった規範は性別役割分業と密接に絡みながら、人々の振る舞いに影響を与える。セクシュアリティについては異性愛が標準的だとされ、それ以外は劣位に置かれることになる。
 こうしたジェンダー秩序は、そのほかの属性にまつわる社会制度(人種、民族、宗教、健康状態、階級など)としばしば交差あるいは複合的に重なり合うことで、その社会における身分、地位、経済的な序列をかたち作っている。

ジェンダー平等な社会というのは地位の面で男女が対等で会えることを意味するが、同時に、性別役割分業や性規範においても固定的な理解が解消し、「女性だから」「男性だから」といった抑圧から女性も男性も解放される状態を指す。

そしてこの章では

ジェンダー平等を実現するための法制度をいくつかの角度から国際比較し、日本がジェンダー平等後進国であることを見ていく。


最初に「女性の生涯を通じて、法的な差別が就業や起業をどの程度阻害しているかを可視化する」世界銀行の「女性・ビジネス・法律」レポート(以下、世銀レポート)を取り上げている。このレポートは、「移動の自由、職場、賃金、婚姻、出産・子育て、起業、資産管理、年金の八つの領域目において各国の法的基盤を比較したもの」で、領域ごとに4~5つ、計35の外登法規制の存否を基準にスコア化したもので、全ての法規制が存在すると100点満点が与えられる。三浦によれば、2022年までに100点を取っていたのはベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、アイスランドラトビアルクセンブルクスウェーデンアイルランドポルトガルギリシャ、スペインの12ヵ国となっているが、2024年版にはドイツとオランダも加わり14カ国になっていた。

最新の2024年版を確認してみた。2024.3.4付のプレスリリースはこちら。

三浦によれば、「2022年版では日本のスコアが修正され、総合で81.9から78.8に引き下げられてしまった」とあるが、オンラインで私が確認した2024年の総合スコアも78.8であった。三浦によれば、日本は「女性のみに再婚禁止期間(民法733条)を設けている」ために婚姻で満点を取れていないが、「この廃止を盛り込んだ改正民放が2022年の臨時国会で成立した」のでスコアは改善されると予測していたので、何らかの項目で日本は再び「引き下げ」られたようだ。

 なお、2024年の最新の『女性、ビジネス、法(WBL)』報告書は、女性がグローバルな労働力に参入し、自分自身、家族、そして地域社会の繁栄に貢献する上で直面する障害について、包括的な全体像を示している。本報告書では分析範囲を拡大し、女性の選択肢を広げたり制限したりする上で重要となる2つの指標、すなわち「暴力からの安全」と「育児サービスへのアクセス」を追加した。これらの指標を含めると、女性が享受している法的保護は平均して男性の64%に過ぎないという。

 さらに、単に法律の有無を問うてきた従来のアプローチを超えて、今年から改定された『WBL 2.0』では、法律の有無と、法が実際にどのように機能しているかという実施上のギャップを測定する新しいアプローチを提示した。女性の権利の状況について、法的枠組み、支援的枠組み、専門家の意見を分析することで、現実の姿をできるだけ反映させるようにしたのである。これにより、従来の枠組みでは100点満点を取れていた国も、現実面ではまだまだ改善の余地があることが見えてくる。


閑話休題。三浦の本に戻ろう。
1980年の時点で、日本のWBL(従来の1.0版)スコアは68.8であり、フランス(62.5)やドイツ(68.1)を上回っていた。ところが「フランスは1990年代に変化し始め、ドイツは2000年代に飛躍的に改善して」おり、今や両国とも100点満点だが日本は78.8にとどまっている。

このように変化のタイミングがスピードが異なるのはそれぞれの国の政治事情を反映してのことである。……日本の特徴は変化のスピードが遅い、2010年以降は変化していないということになる……日本の男性政治がもたらしたひとつの帰結であるといえよう。

1990年代の日本人は、世界第二の経済大国であるとか、女性の時代がやってきたといった自己イメージを持っていたと思われる。実際当時は、女性の経済的自立を支える立法が世界から著しく遅れていたとまではいえないだろう。バブル経済までは日本は先進国にキャッチアップすることを目指してきたが、バブル経済の発生とともに、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」との自己意識を強め、先進国から学ぶ姿勢が後退したように思える。しかし、ジェンダー平等の観点からは、ほかの先進国はまさしくその頃より自己改革を進めるようになった。逆に日本は世界から学ぶことは何もないと背を向け、経済の構造改革は進めても、人権面での改革は怠るようになった。

世銀レポートのスコアは女性の経済的自立を支える法的基盤の一側面を捉えたものでしかないが、それでも当スコアと女性の就業率には高い相関関係があり、一人当たりのGDP、経済水準、時間固定効果を統制しても、統計的に優位な水準であると世銀レポートでは指摘している。

世銀によれば、日本は子育てでは先進的な法制度を有する国に分類される。

というのは、産休の保障や出産手当が健康保険から支給されていることを評価しているのだが、「産まない権利」についてはとことん否定している日本の法制度のありかたは、実のところ日本の女性の経済的自立を損ねる要因になっているように思われる。なぜ世銀はそこを見ないのか、理解できない。


続いて三浦はOECDが開発した「社会制度とジェンダー指数(SIGI)」を紹介している。

SIGIは社会規範を映し出す態度(世論調査)や慣行を含む27の変数を16の指標にまとめあげたものである。差別撤廃の法律の有無だけでは、それがどの程度執行されているのかわからず、また規範や慣行が変わらなければジェンダー平等が達成されないことから、意識と慣行を含めている点に特徴がある。

SIGIでも日本は「女性差別が極めて少ない国」とされる最も先進的な第一グループ33ヵ国には入っておらず、「女性差別が少ない国」とされる第二グループの42ヵ国に入っている。最も性差別が少ないのがスイスの8%、次にデンマークの10%、さらにスウェーデン、フランス、ポルトガル、ベルギーが11%で続く。

 日本は24%(54位)の性差別的な社会制度が残存すると指摘されている。

OECDの政策提言の中でILO条約(国際労働条約)の批准が推奨されていること、ジェンダー平等に関するものとして日本が批准しているのは100号(同一報酬)、156号(家族的責任の保護)のみであり、111号(差別待遇〔雇用及び職業〕)、183号(母性保護)、189号(家事労働者)は未批准であることを指摘している。


続いて、女性差別撤廃条約の監視機関(女性差別撤廃委員会)からの主な指摘事項と日本の対応を紹介しているが、このうち「婚姻適齢を男女で平等にする」は2022年4月の民法改正で成人年齢を18歳に引き下げた際に、婚姻年齢は男女共に18歳になっており、刑法を改正し強姦の定義を拡張するについても、2022年7月の不同意性交等罪への変更によって実現している。


ただ、残念ながら三浦さんも刑法堕胎罪と母体保護法の見直しを指摘されている点には目を向けていない。
刑法堕胎罪について国連女性差別委員会が苦言を呈しているのは以下です - リプロな日記


産む産まないを自分で決められる権利がなければ、女性は人権を十分に享受できない。女性差別の際たるものが、リプロの権利の侵害ではないかと私は思う。

妊娠中絶の権利が今年の欧州選挙選でこれまでにない形で取り上げられている

The Conversation, Published: March 13, 2024 2.57pm GMT

Abortion rights are featuring in this year’s European election campaign in a way we’ve not seen before

仮訳します。

 中絶の権利を憲法に明記するというフランスで最近下された画期的な決定は、1975年にフランスで初めて中絶を合法化した法律を保護するものである。この法律(いわゆるヴェール法)は、フランスで最も称賛され尊敬を集める政治家の一人であり、女性の権利運動の象徴であったシモーヌ・ヴェイユによって提唱された。

 1974年、ヴァレリー・ジスカール・デスタン仏大統領から政府の保健大臣を務めるよう要請された判事であったヴェイユは、重要な演説を行った。彼女は、当時ほぼ男性のみで構成されていた国民議会で、中絶の非犯罪化に関する公衆衛生の事例を提示したのである。

 演説は、特に政治的右派による激しい反対と敵意にさらされた。それでもヴェイユ下院議員の過半数を説得し、彼女の提案に賛成票を投じることに成功した。上院で承認されると、法律は1975年に発効した。これによりヴェイユは、女性の地位向上と解放の象徴となった。

 国内レベルでの政治的成功に続き、ヴェイユは1979年、初の欧州議会直接選挙に立候補した。当選後、同議会は彼女を議長に選出し、彼女は欧州機関のトップを務める初の女性となった。


選挙を前にして
 ヴェイユが初めて欧州議会に出席してから40年以上が経過した今、政党は6月に行われる最新の欧州議会選挙に向けて準備を進めている。そして、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)の問題が再び議題となっている。

 2022年、欧州議会は女性の権利とセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス権の後退を強く非難する決議を出す必要性を感じた。

 これは、50年にわたって中絶の権利を憲法で保障してきた「ロー対ウェイド事件」を米国最高裁が覆す決定を下したことに対応するものだった。しかし、これはEU加盟国の動向への対応でもあった。

 決議案は、特にポーランドで近年施行された事実上の中絶禁止に焦点を当てたが、中絶が違法であるマルタ、アクセスが制限されているスロバキア、手続きが「利用できない」ハンガリー、権利が脅かされているイタリアにも言及した。

 重要なのは、この決議が中絶の権利をEU基本権憲章に盛り込むことを求めていることだ。つまり、EU内のすべての女性がこの種のリプロダクティブ・ヘルスケアにアクセスする権利を持つことになり、自国での制限からある程度保護されることになる。

 この呼びかけは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領も、フランスにおける中絶の新たな憲法上の権利を記念する式典の中で繰り返した。

 しかし、この議会決議は、欧州議会の政治グループ間、時にはグループ内の内部分裂を覆い隠している。これらの政治グループが選挙キャンペーンや選挙マニフェストを打ち出す中、中絶問題がヨーロッパ全土で見られるより広範な政治的二極化の一部となっていることは明らかだ。

 今度の選挙で大きく躍進すると予想されている極右政党の多くは、中絶の権利の制限を求めている。欧州保守改革派は、イタリアのブラザーズやスペインのヴォックスなどの政党が集まった右翼団体で、「受胎から自然な最期まで、生命を守りたい」と述べている。

 「アイデンティティと民主主義」グループ内の政党は、この問題に関して共通の立場をとっていないが、いくつかの政党は制限的なアプローチを採用している。例えば、ドイツのための選択肢は最近、ドイツで医師が中絶手術に関する情報を提供することを妨げる法律を禁止する提案に反対票を投じた。

 議会で最大の政治グループである中道右派の欧州人民党は、この問題に関して意見が分かれたままだが、同党の欧州議会議員の大半は、中絶は各国の権限に属する問題であり続けるべきだという意見で一致している。

 一方、政治スペクトルの反対側のグループは、欧州選挙のマニフェストで、リプロダクティブ・ヘルスと権利を守り、拡大する必要性について明確に言及している。その中には、左派、緑の党社会民主党が含まれる。

 同様に、リベラル派のグループであるリニュー・ヨーロッパは、中絶の権利に関してEU全体でより大きな協調を推進している。また、最近発足したシモーヌ・ヴェイユ協定は、ジェンダー平等に関する汎欧州的な取り組みの強化を求めるものである。


新しい議会の任期
 ヴェイユは、欧州議会が欧州共同体の民主的発展における重要な機関であると考えていた。彼女は、欧州議会への投票権が欧州市民に与えられたことを画期的な出来事であり、欧州統合と意思決定への議会の関与を高める足がかりになると考えた。彼女のリーダーシップの下、欧州議会は認知度を高め、真の政治的アクターへと変貌を遂げた。


 ヴェイユは3年間議長を務め、1993年まで欧州議会議員を務めた。欧州議会議員としての3任期中、彼女は女性の権利に関する問題を支援し続けた。

 2018年、パンテオン(フランスで最も著名な市民のためだけに用意されたパリの霊廟)に埋葬される栄誉に浴したシモーヌ・ヴェイユがかつて主張したことが、熱い戦いが繰り広げられる欧州議会選挙を前に再び表面化している。

 新たに選出された720人の欧州議会議員が次期議会に臨むとき、妊娠中絶や女性の権利をめぐる議論や討論が続くに違いない。選挙の結果次第では、また違った論調になり、より高い位置を占めることになるかもしれない。

「施術の一環」来院の女性に性的行為か 整骨院院長を逮捕

産経新聞 2024/3/13 16:07

「施術の一環」来院の女性に性的行為か 整骨院院長を逮捕 - 産経ニュース

 熊本県内の整骨院で来院した20代の女性会社員に性的な行為をしたとして、熊本県警熊本北合志署は13日、不同意性交の疑いで、この整骨院の院長、槌山(つちやま)誠容疑者(40)=同県合志市須屋=を逮捕した。

 逮捕容疑は1月11日午後9時ごろから12日午前1時ごろまでの間、女性に性的な行為をしたとしている。「施術の一環だった」と容疑を否認している。

 同署によると、女性が「性的被害を受けた」と1月17日に同署に届け出て発覚。当時、室内は2人きりだったという。同署が詳しい状況を調べている。

[国際女性デー 未来を開く]<4>中絶の陰に男女の力関係…産婦人科医 佐久間航さん

読売新聞 2024年3月14日 (木)配信

[国際女性デー 未来を開く]<4>中絶の陰に男女の力関係…産婦人科医 佐久間航さん : 読売新聞

 大阪・ミナミにある「さくま診療所」では婦人科の患者に加え、さまざまな事情から中絶手術を受ける女性たちが訪れる。院長の佐久間航さん(49)は「中絶件数は月200件ほど。コロナ禍で減った印象だったが、行動制限がなくなり、若年層を中心に再び増えている」と話す。

 地元出身で、祖父も父も外科医だった。子どもの頃、親と一緒に自宅近くの飲食店でよく夕飯を食べた。女将が営み、常連の多くは働く未婚女性たち。月経痛や更年期の悩みなどの話題を耳にして育ち、婦人科の道に進んだ。

 大学病院勤務などを経て、2006年に地元に戻り、診療所を開いた。

 中絶のために来院する女性で最も多いのは20代だ。出産したくても男性に反対されたり、経済的に厳しかったりする人が目立つ。また、いまだに多くが「膣外射精」を避妊手段と考えるなど、知識の乏しさは否めない。同時に、佐久間さんが深刻に感じているのが「男女の力関係」だ。

 法律上、未婚女性の中絶に相手男性の同意は必須ではないが、付き添いがあるのは1割ほど。「費用の話で『相手が出す』と聞き、ようやく男性の影を感じる程度だ」。一緒に来ても男性が一方的に話を進め、女性が顔色をうかがうような場面も目立つ。中年の既婚女性の中には、夫が避妊を拒み、中絶を10回以上、繰り返す人もいる。

 「予期せず妊娠した女性たちは混乱と不安の中にいる。そうした女性たちの負担を、できる限り減らしたい」。納得のいく処置をうけられるよう、患者に寄り添う。妊娠の経緯を尋ねる際も、本人がつらい思いをしないよう注意を払う。「ただ、暴力などが疑われる場合は放置できず、やりとりのあんばいが難しい」と漏らす。

 今の法律で中絶は、やむを得ない事情がある時のみ認められているが、タブー視する傾向は根強く、自責の念にとらわれる女性も多い。「子どもを産むか産まないかを選ぶ自由は、女性に与えられた権利。決断を尊重したい」と佐久間さんは言う。

 1994年の国際人口・開発会議で「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」が、女性の重要な人権の一つとして提唱されて30年になる。

 近年では、性行為の前に双方の気持ちを確認する「性的同意」が注目されるようになった。昨秋には、処方箋がなくても薬局で緊急避妊薬(アフターピル)を購入できる取り組みが試験的に始まった。

 佐久間さんは「新たな流れは女性たちにとって有意義だが、男女ともに正しい知識を持ち、何でも話せる『対等な関係』が前提になくてはならない」と強調する。

 最近は、社会から孤立しがちな女性の存在が気がかりだという。貧困や家庭の事情から居場所を失い、性風俗で働く女性や繁華街でたむろする少女も多い。3年前、診療所の入るビルに、助産師らが若年女性の相談に応じる施設ができた。要請を受けて診療するなど、民間団体との連携も増えている。

 「社会全体で見れば女性活躍は進んでいるが、一方で人知れず苦しんでいる女性もいる。どんな女性も安心できる社会を目指したい」と語った。

 さくま・こう 1975年生まれ。さくま診療所院長。生理や中絶について、インターネット上で無料相談に応じるほか、2022年からは地元のNPO法人と共に孤立する若者の支援にも取り組む。

支援必要な「特定妊婦」8000人
 全国の人工中絶件数は、1955年の約117万件をピークに減少傾向だ。2022年度は12万2725件で、前年度比で2・7%減った。ただ、20歳未満では9569件と、前年度比で5・2%増えた。

 孤立や貧困などの事情を抱え、予期せぬ妊娠を誰にも相談できないまま出産したり、出産後に虐待してしまったりするケースもある。09年施行の改正児童福祉法では、特に支援が必要な妊婦(特定妊婦)について明記した。

 こども家庭庁によると、20年度に自治体が特定妊婦として認定したのは8327人で、09年度に比べ約8倍だった。同庁は24年度から、特定妊婦の生活支援のための拠点を全国で整備するなど、対策を強化する。

H&M広告削除が映す「子どもの人権」への姿勢 感覚麻痺の日本では

朝日新聞 有料記事メディア・公共 写真研究者・小林美香=寄稿2024年3月4日 13時00分

批判を受け削除されたH&Mの広告。問題を指摘した、子どもの性的対象化や児童ポルノの問題を扱うオーストラリアの作家、メリンダ・タンカード・リーストさん(@MelTankardReist)のXへの投稿から


写真研究者・小林美香さん寄稿
 アパレルブランドH&Mが、1月にオーストラリアで展開したキャンペーン広告への「女児の性的対象化につながる」という批判を受けて削除し謝罪した。この件がSNS上で話題になる中で浮かび上がってきたのは、広告を構成する写真と文言の関係、及び広告が受容される地域・文化的背景の違いである。

 批判された広告は、Facebookのスポンサー広告として公開されたもので、「H&M」のロゴの下にキャッチコピーのテキスト「Make those heads turn in H&M’s Back to School fashion(H&Mの新学期ファッションを着て、注目を集めよう)」が記され、写真には鮮やかなピンク色の背景にそろいの濃いグレーのワンピースを着た女児2人が向き合って立ち、振り向くようにして視線を正面に向けて写っている。

 2人は前髪こそ少し異なるが、身長や顔立ちも似ているため、あたかも双子のような風情を醸し出している。写真にはワンピースの値段とロゴが配置され、「新学期開始に備えて、学齢期の子ども服購入に関心がありそうな保護者層」を主要なターゲットオーディエンスとして訴求する意図がうかがえる。

 ターゲットオーディエンスがFacebookの投稿の中で「Make those heads turn(辞書では『注目を集めよう』という定義が記されているが、実際会話で用いられる際には『性的な魅力で異性を振り向かせよう』というニュアンスを帯びたフレーズとして理解される)」という文言とともにタイムラインに流れてきた広告を目にした時、女児が「性的な意図も含む視線を向けられること(セクシズム)」や「外見で注目を集めて評価されること(ルッキズム)」を進んで受け入れるように誘導するメッセージとして読み取られた。そのことが、「女児の性的対象化につながるのでは」という反応につながり、子ども服を宣伝する上では不適切な文言を使用したと指摘されるに至った。

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