リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

アボーション・ケア・ガイドライン: エグゼクティブサマリー(訳 RHRリテラシー研究所)

WHO, Abortion care guideline: executive summary(2022)

Abortion care guideline: executive summary. Geneva: World Health Organization; 2022.)

 「この翻訳は、世界保健機関(WHO)によって作成されたものではありません。WHO(世界保健機関)。WHOは、この翻訳の内容や正確さについて責任を負いません。英語原版を拘束力のある正本とします」。

 以下、訳を示します。

 性と生殖に関する健康(sexual and reproductive health:略SRH)は、個人、カップル、家族にとって、また地域社会や国家の社会的・経済的発展の基礎となるものです。世界保健機関(WHO)の憲法に規定されているように、WHOの目的は「すべての人々による最高水準の健康の達成」であり、この目的を達成するために、WHOの機能には、保健分野における各国への技術的支援の提供が含まれています。SRH情報とサービスへの普遍的な(ユニバーサル)アクセスは、個人とコミュニティの健康、そして人権の実現にとって中心的な課題です。COVID-19の大流行や過去の疾病の大流行から学んだ教訓――SRHサービスが著しく阻害され、個人の無力感や予防可能な健康リスクにさらされる結果になったこと――に基づいて、WHOの最近の技術的出版物では必須保健サービスのリストに包括的な中絶ケアも含めるようになりました1。
 包括的中絶ケアには情報の提供、中絶管理(人工妊娠中絶、死産/自然流産に関するケア、中絶後のケアなど)が含まれています。保健システムにおける包括的な中絶ケアへのアクセスを強化することは、健康と福祉(SDG3)および男女平等(SDG5)などの持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための基本です。国際開発目標の達成に向けた進展を加速させようとするWHOの「グローバル・リプロダクティブ・ヘルス戦略」は、危険な中絶2の撲滅を優先的な任務として位置づけています。健康のための質の高い中絶ケアの重要性は、「女性、子ども、青少年の健康に関する国連世界戦略」でも同様に強調されており、個人の繁栄とコミュニティの変革を支援する効果的な方法の一つとして、中絶と中絶後のケアに向けたエビデンスに基づく介入が盛り込まれています。
 中絶ケアの質は、この中絶ケアガイドラインの基礎になります。質の高いケア(用語集を参照)には複数の要素が含まれます。それは、効果的、効率的、アクセス可能、受容可能/患者中心、公平、安全であるケアと定義されています。効果的なケアには、個人と地域社会の健康を改善し、彼らのニーズに応える、エビデンスに基づくケアの提供が含まれています。効率的なケアとは、資源の利用を最適化し、無駄を最小限に抑えることです。質の高い中絶ケアはまた、アクセスしやすく(タイムリーに、手頃な価格で、地理的に到達可能で、医療ニーズに適したスキルと資源を備えた環境で提供される)、受容可能なもの(個々のサービス利用者の好みや価値観、地域社会の文化を取り入れたもの)でなければなりません。中絶医療へのアクセスが公平であること、そしてケアの質が、ケアを求める人の性別、人種、宗教、民族、社会経済的地位、教育、障害を抱えている場合、あるいは国内の地理的位置に基づくといった個人の特性によって異なることがないことが必須です。最後に、質の高い中絶ケアとは、それが安全に提供され、サービス利用者に対するあらゆるリスクや害を最小限に抑えることを意味します。
 中絶は安全かつ複雑ではない医療行為で、様々な環境において内科的(服薬による)手法や外科的手法によって有効に管理することができます。内科的中絶も外科的中絶も、中絶方法が安全であれば――つまり、WHOが推奨する方法で、妊娠年齢に適した方法で、必要なスキルを持つ人が実施する場合には――合併症が起こることは稀です。世界的に見ても、中絶はごく当たり前の処置で、意図しない妊娠の10件中6件、全妊娠の10件中3件が人工妊娠中絶に終わっています。しかし、世界的な推定によると、全中絶の45%が安全でないとされています。安全でない中絶は、発展途上国(安全でない中絶の97%を占めている)や社会的弱者や疎外された人々の集団に特に集中しています。法的規制やその他の障壁のために、多くの女性にとって質の高い中絶ケアを受けることが困難または不可能になっており、安全でない方法を用いて自ら中絶を行ったり、未熟な提供者に中絶を求めたりする可能性があります。中絶の法的な位置づけによって女性にとっての中絶の必要性に影響はありませんが、安全な中絶へのアクセスには劇的な影響を及ぼします。全妊婦死亡の4.7%から13.2%が安全でない中絶に起因しており、これは安全な中絶を提供できないことが原因で毎年13 865人から38 940人が死亡していることを意味します。
内科的中絶は、世界的に質の高い中絶医療へのアクセスに革命をもたらしました。中絶薬は、医療施設で安全かつ効果的に投与できるほか、正確な情報と品質の保証された薬があれば、施設外(自宅など)でも自分で服用することができます。妊娠12週以降に自宅で安全に中絶を行う場合には、プロセスのどこかの段階で訓練を受けた保健ワーカーからのサポートが必要になったり、要請したりする場合があります。最小限の医療的下でのサービス提供は、安全性や有効性を損なうことなく、中絶プロセスへのアクセス、プライバシー、利便性、受容性を大幅に向上させることができます。
中絶を必要とするすべての人が包括的な中絶ケアを受けられるようにするためには、法律、医療制度、地域社会の各レベルでさまざまな取り組みが必要になります。個人がおかれた環境は、ケアへのアクセスを保障し、健康上の成果を左右する鍵を握っています。環境を整えることは、質の高い包括的な中絶ケアの基礎になります。中絶医療を可能にする環境の礎は以下の3つです。

1. 人権を尊重した法と政策の支援的な枠組みなど
2. 情報が準備されておりアクセスできること
3. 支援的で普遍的にアクセス可能である安価で十分に機能している医療制度。

 中絶はほぼすべての国で合法とされていますが、個人が中絶にアクセスできるかどうかを決める具体的な状況には違いがあります。さらに、中絶が合法的に利用できるほぼすべての国で、中絶は他の医療とは異なる形で規制されています。他の医療サービスとは違って、中絶は医療法の規制に加えて刑法によって様々な程度で規制されていることがよくあります。そうした規制は妊娠している個人の権利に影響を与え、質の高いケアの提供を抑制する効果(報復や罰則を恐れての行動抑制など)をもつ可能性があります。だからこそ、分かりやすく使いやすい権利をベースにした法と政策を備えておくことが、実効性のある環境を確保するための一端を担っているのです。


ガイドラインの目的、範囲、概念構造
 ガイドラインとは、WHOが保健分野における技術的リーダーシップを発揮するための基本的な手段となるものです。WHO のガイドラインは、厳格な品質保証プロセスを経て、個人または集団に最善の健康が達成されることを目的として、臨床上の実践もしくは公衆衛生政策に対して数々の勧告を発しています。この目的を果たすために、WHOは健康と人権に向けた包括的なアプローチの一環として、根本的に健康を決定する諸要因に目を向けることによって、国レベルおよび地域レベルのヘルスケアに関するプログラムや政策に人権を統合するよう努めてきました。
 本ガイドラインでは、中絶に関するWHOの勧告とベストプラクティスの宣言の一式を提示することを目的としています。法律、規制、政策、サービス提供の状況は国によって違いますが、この文書に記載されている勧告とベストプラクティスが狙っているのは、質の高い中絶ケアのために、エビデンスに基づいた意思決定を可能にすることです。
ガイドラインは、以下に示すWHOの過去のガイドラインの勧告の内容を更新し、置き換わるものです。

  • 安全な中絶:保健システムのための技術・政策ガイダンス第2版(2012)
  • 安全な中絶ケアと中絶後の避妊の提供における保健師の役割(以前は「タスクシェアリング」ガイダンスとして知られていた)(2015)、および
  • 中絶の医学管理(2018)

 本ガイダンスには、ここで初めて統合された新しい勧告と、既存の勧告のうち変更がないもの、新しい勧告と更新された勧告の両方に対して同一の厳密な方法を用いて再評価した後に更新されたものが含まれています(詳細は以下の「ガイドライン作成方法」のセクションを参照)。
 本ガイドラインでは、中絶医療の提供に不可欠な法と政策、臨床サービス、サービス提供の3つの領域にわたる勧告が示されています。韓国には、質の高い中絶ケアを完全に実施できるようにするために定めるべきまたは定めるべきではない法や政策の以下の7つの領域をカバーしています:中絶の犯罪化、中絶の許可事由に基づくアプローチ、中絶可能な妊娠週数の制限、希望した中絶を受けられるまでの強制的な待機期間、第三者による中絶の承認、中絶サービスを提供できる医療者の制限、提供者の良心的拒否や拒絶3。臨床サービスの勧告は、中絶方法、関連する臨床ケア――情報提供、カウンセリング、疼痛管理から、中絶方法や薬の投与法(様々な臨床適応に合わせたものなど)まで――ならびにあらゆる避妊方法を含む中絶後のケアの提供を扱っています4。サービス提供に関する勧告では、どのカテゴリーの医療従事者が関連臨床サービスを提供できるかに関連するものが含まれます。また、妊娠初期の内科的中絶や避妊薬の自己注射など、女性自身で管理できる方法に関連した自己管理の勧告も提示されています。妊娠初期の内科的中絶を促進するための遠隔医療に関する勧告も、中絶ケアのための他のサービス提供アプローチに関するベストプラクティスの声明とともに策定されました。全体として、この文書で示されたガイダンスは、中絶ケアに関するあらゆる側面にわたる最近の変化を反映しています。最終章では、研究が不足している領域と優先事項、新たな関心領域が示されています。

 本文書のガイダンスの構成にも示されているように、女性や少女、その他の妊娠中の人が、中絶前、中絶、中絶後のケアという中絶ケアの経路を進むにつれ、保健サービスの提供は公平で差別なく個人のニーズを満たすように医療保険制度内に統合されていなければなりません。このガイドラインにおける中絶ケアの概念的枠組み(図1参照)は、中絶に関わるすべての個人のニーズに気づき、それを認め、中絶を求める人々を医療サービスの受益者であると同時に積極的な参加者としてとらえ、当人の価値観と好みを中心に据えています。個人の健康に対する嗜好は様々であり、中絶ケアを求めるすべての人のニーズを満たすような中絶ケアのモデルは存在しません。しかし、尊厳、自律性、平等、機密性、コミュニケーション、社会的支援、支持的ケア、信頼といった核となる価値は、中絶ケアの基礎となるものであり、このガイダンス全体にも反映されています。医療システム全体に質の高い中絶ケアへのアクセスを組み込んでいくための重要な作業はまだ必要とされており、医療を求める人々にサービスを提供するすべての場面で人権と男女平等に焦点を合わせていかなければなりません。


対象者と内包性
 本ガイダンスは、国や地域の政策立案者、性と生殖に関する健康(SRH)プログラムの実施者と管理者、非政府組織やその他の市民社会組織、専門職協会のメンバー、そして保健従事者や性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の分野のその他の関係者に、根拠に基づいた質の高い中絶医療が世界中で利用可能となるように支援するために、助言を提供しようとしています。
すべての人は、SRHサービスを利用する上で無差別的かつ平等な権利を有しています。差別のない権利は、世界人権宣言やその他の普遍的人権条約、地域的人権文書に記載されています。経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR)が保障する非差別の権利には、性的指向性自認及び性的特徴によって差別されないことも含まれると確認されています。国連総会に提出された「性的指向性自認に基づく暴力と差別からの保護に関する独立専門家の2018年報告書」にあるように、「自分の性自認を効果的に認める権利は、法の下で平等に認められる権利と結びついている」のです。
 このガイドラインでは、中絶に関する利用可能なエビデンスのほとんどがシスジェンダー女性の研究集団の研究から得られたと仮定できること、また、シスジェンダー女性、トランスジェンダー男性、ノンバイナリー、ジェンダーフルイド、インターセックスの人々が女性の生殖器を持ち妊娠する可能性があり中絶ケアを必要とするかもしれないとの認識に立っています。このガイドラインを簡潔に、読みやすくするために、中絶のケアを必要とする可能性があるすべての性の多様な人々に言及する場合、「女性」という言葉を最も頻繁に使用しますが、「個人」「人」「中絶を望む人」といった様々な言葉も使用します。中絶ケアを含むSRHサービスの提供者は、すべての人のニーズを考慮し、すべての人に平等なケアを提供しなければなりません。


ガイドラインの開発方法
 WHOガイドライン運営グループと、WHO本部と地域事務所のスタッフを含むより広範なWHO事務局が、膨大な数の専門家の貢献者と支援者を巻き込んで、ガイドライン開発プロセスを主導しました。このプロセスは、2018年9月に行われた安全な中絶に関するWHOガイダンスの更新をテーマとしたオンライン調査から始まり、2018年11月から2019年6月にかけて、。「法と政策」、「臨床サービス」、「サービス提供」の3つのドメインそれぞれについて主要トピック領域を決定し、エビデンスベースの検索と分析を通じて評価すべき主要な質問を策定するためのスコーピング会議が開催されました。幅広い参加者を確保するため、以下の会議を開催し、ガイドラインの内容をさらに充実させました:(i) 人道的環境における中絶ケアの実施に関する考察、(ii) 中絶ケアに関する世界の価値観と好み、(iii) 若者と安全な中絶。
 各領域のエビデンス・レコメンデーション・レビュー・グループ(ERRGs)には、エビデンス合成チーム(ESTs)から提供されたエビデンスに基づいて、新しい勧告と更新された勧告を議論し草案を作成するために、一連の2日間の会議に活発に参加するよう、運営グループから世界の専門家が招待されました。ガイドライン開発グループ(GDG)メンバーは、若者代表と人権アドバイザーを含む単一の学際的なグループとして各ドメインのERRGメンバーの中から運営グループにより選出・招聘され、勧告を最終決定しました。
 ERRGおよびGDGによる勧告の策定と改良は、WHOガイドライン作成プロセスに従って、利用可能なエビデンスエビデンスの質は「高い」から「非常に低い」まで)をベースにした勧告作成のためのGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用い、ESTが作成したEtD表を参考に、さらに参加者の専門知識と経験によって導かれました。WHO-INTEGRATEの枠組みは、各々の勧告の方向性と強度を決定するための基礎として用いられた(以下の要約表に付された注を参照)。法と政策の勧告についてもこれと同じ枠組みが使われましたが、人権の保護と享受について健康上の成果や分析の一部として効果的に統合する形でエビデンスを評価するための革新的なアプローチが開発されました。
 ERRGとGDGの会議終了後、改訂された勧告案とガイドラインの全案に関するレビューが、GDGメンバーおよびピアレビューを行う外部レビューグループのメンバーによって行われました。GDG会合のオブザーバーといくつかの実施機関の個人レビュアーも、同じ草稿に対してコメントを求めました。さらなる修正が加えられたガイドラインはWHOガイドライン審査委員会に提出され承認されました。その後、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)による最終修正、最終編集、出版・発売の計画などが行われた。ガイドラインの作成方法の全容は、付属書4に示します。

以上
(RHRリテラシー研究所 2022年4月1日訳)
The full guideline Abortion care guideline is available at:
htpps://apps.who.int/iris/handle/10665/349316

Abortion care guideline: executive summary
ISBN 978-92-4-004516-3 (electronic version)
ISBN 978-92-4-004517-0 (print version)
© World Health Organization 2022

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