リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

何のための母体保護法指定医師制度か?

法律上は「医師」であればいい……都道府県の公益社団法人のルールさえ変われば……?

母体保護法の14条はこうなっている。

第三章 母性保護
(医師の認定による人工妊娠中絶)
第十四条 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。

だけど、母体保護法指定医師の申請のために「産婦人科専門医の「専門医証」の写し 又は指導証明書 又は過去指定医師であった場合、それを証明し得る書類」が必要だとされている(東京都産婦人科医会の例)。

誓約書にも次のような内容が見られる。(同上)

6.指定医師は母体保護法第14条の人工妊娠中絶を施行するに当たっては、常に次のことを遵守しなければならない。
(1)人工妊娠中絶手術の適応を厳守すること。
(2)人工妊娠中絶手術の実施は、指定医師として指定を受けた施設内のみとし、往診先等においては行わないこと。
(3)必要に応じ術後の受胎調節の指導を実施し、少子化傾向に鑑み、初産平均年齢を引き下げるよう努力するとともに家族計画を指導すること。
7.指定医師の診療内容は産婦人科医療を主体とすること。
8.指定医師は、地区医師会、東京都医師会、日本医師会日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会等が行う研修会の受講を怠ってはならない。

厳密にいうなら「経済的理由」の適応を厳守すると、現在行われている中絶のほとんどが行えなくなる。逆に言うと、現在は適応を遵守していないのが常態になっている。まったくもって矛盾している。

また、明らかに手術が前提になっている。逆に言うと、内科的中絶の実施や訓練に関する規定は何もない。

蛇足だけれど、「少子化傾向に鑑み、初産平均年齢を引き下げるよう努力」することになっている。どうやって引き下げる努力をするつもりなのかは知れないけれど、下手をすると不必要な介入を招いて女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツを侵害する可能性もある。他の道府県にもあるのかな、ちょっと見てみよう。

本当に女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツを守るつもりなら、WHO新ガイドラインに則って中絶提供者の職種を増やす必要がある。各都道県医師会に規定の変更を申し入れてはどうだろうか。中絶薬の研修を必須化し、産婦人科専門医という要件を外せばいいのだ。法的にはそれで何も問題はない。あとは口先だけのリプロダクティブ・ヘルス&ライツなのか、本気で守っていくつもりになるのか……だけど、いったい何十年かかるやら。