リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

アメリカの中絶状況を批判する前に足元を見よ

WHOのガイドラインに合わせられないと日本産科婦人科学会理事長が明言

声明 : 米国最高裁の「ロー対ウェイド」判決を覆す判断に抗議する|公益社団法人 日本産科婦人科学会

以下に示すJSOG理事長のFIGOジャーナルへの寄稿内容に照らしても、JSOGの声明は外面を整えるための上っ面だけのものにしか読めません。米国のことを非難する前に国内の人権侵害にちゃんと対処してほしいと思います。


以下、再掲載します。
Letter to the editor: Japan foresees early-stage medical abortion approval: Will this reduce barriers to access safe abortion?

仮訳してみました。問題山積です。

 International Journal of Gynecology and Obstetricsの本号で、Soranoらは日本における薬による中絶を取り巻く状況について詳しく述べています*1。その短信の中で、著者らは、厳しい薬事化と高い価格設定を考慮して、近い将来に見込まれるミフェプリストンおよびミソプロストールの承認が、安全で効果的な人工妊娠中絶の方法に対する日本の女性のアクセスを改善するかどうかに疑問を投げかけています。
 中絶は、文化、宗教、民族によって極めて多様な捉え方をされる医療行為です。また、中絶がどのように合法化され、実施されるかに関しても、世界中の社会で極めて多様性があります。ある国では妊娠期間の制限なく中絶手術が行われ、また別の国では例外なく違法とされています。日本は1948年に人工妊娠中絶を合法化した最初の国の一つですが、その際、相応の注意が必要でした。この処置は、免許を持ち登録された産婦人科医のみが行うことを許され、第二次世界大戦の惨敗から立ち直ったこの国で、絶望の中にいる女性の安全を保証することに貢献したことは間違いありません。D&C(拡張と掻爬)の時代から、私たちの社会は、2015年に手動真空吸引キットが当局によって承認されたことに代表されるように、より安全で効果的な人工妊娠中絶の方法を採用するためにゆっくりとしかし着実に進化を遂げてきました。現在、私たちは、日本の歴史上初めて、薬による中絶にミフェプリストンとミソプロストールを活用するための準備を進めています。日本産科婦人科学会は、中絶プロトコルの安全性と有効性を最大限に高めるために、講演や実習などの教育コースを会員医師に提供する努力を継続的に行っており、新しい方法である薬による中絶も例外ではないでしょう。
 著者の空野らが正しく指摘しているように、薬による中絶は、場合によってはさらなる外科的な介入を必要とする処置です。私たちは、この方法のリスクと利点について医師と患者を十分に教育することが不可欠であり、少なくとも私たちの社会に新しく導入される際には、この方法は免許を持ち登録された産婦人科医によって行われ、綿密な観察が行われるべきであると考えています。医学的・外科的処置の価格と保険適用は、国家の社会保障制度の中で決定されるものであり、同様に保険適用外の処置の代替となることが予想される場合、ある処置を保険適用から除外することは合理的であると思われます。医療費の高騰に悩む高齢化社会にあって、人工妊娠中絶を保険でカバーすることに躊躇するのは理解できます
 WHOが提案する規制を完璧に満たす状況ではないことは認めますが、日本医師会が運営する医師賠償責任保険報告書から推定されるように、私たちの会員医師は世界で最も安全なレベルで人工妊娠中絶を行っています*2日本産科婦人科学会は、今後も日本女性のリプロダクティブ・ヘルスと権利を推進するため、最善の努力を続けていきます

強調は引用者。「ゆっくりと着実に」って、半世紀以上も搔爬を使い続けているのはいくらなんで「ゆっくり」すぎるし、世界標準と異なるのは搔爬だけではない。世界標準の中期中絶法であるD&Eも学んでいないばかりか、D&Eと吸引(VA)を混同した文章を医者が書いているのが実態ではないですか。また、MVAが日本に導入されたとき、私もその動きに関わっていましたが、その時、日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会のトップとは誰一人ご一緒したことがありません。


「免許を持ち登録された産婦人科医によって行われ、綿密な観察が行われるべき」と、母体保護法指定医師制度を擁護していますが、中絶薬はそんな御大層な観察をしなくてもいいことは、とっくに世界では明らかにされています。中絶薬をいかにも危険なもののように言って、自分たちの監視下に置き、高い価格をつけようというのはもっての他です。そのために、どれだけ苦しむ女性が出るものか、分かってますよね? リプロダクティブ・ヘルス&ライツをご存じなようですから。


そもそも、世界では皆保険(ユニバーサルケア)にすべきだと言われている出産も中絶もすべて保険適用外で自由診療にして取りたい放題の価格をつけてきた日本の産婦人科医療制度自体が問題で、女性差別的です。WHOの基準を満たせないことを認めている時点で、もはや先進国とは言えません。

それでは女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツを守れるわけがない。あなたたちが守ろうとしている「リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツ」っていったいどういうものなのでしょう? ぜひご説明いただきたい。自分たちの利権を第一に考えているようにしか思えないのは私だけ……???


以下、執筆者の情報。
Masakazu Terauchi1,2
Tadashi Kimura2,3

1 Department of Women's Health, Tokyo Medical and Dental
University, Tokyo, Japan
2 Japan Society of Obstetrics and Gynecology, Tokyo, Japan
3 Department of Obstetrics and Gynecology, Graduate School of Medicine, Osaka University, Suita, Japan


Correspondence
Masakazu Terauchi, Department of Women's Health, Tokyo Medical and Dental University (TMDU), Yushima 1-5-45,
Bunkyo, Tokyo 113-8510, Japan.
Email: teragyne@tmd.ac.jp

日本語情報をあたってみました。
寺内公一 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授
木村正 日本産婦人科学会理事長

なんと理事長肝入りです!

*1:Sorano S, Emmi S, Machiyama K, Smith C. Japan foresees earlystage medical abortion approval: will this reduce barriers to access safe abortion? Int J Gynecol Obstet. 2022; [in press].

*2:Japan Medical Association and Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan. Textbook for continuous medical education: family planning and the Maternal Health Act, 2015.