リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

指定医師のアンダーコントロールにある日本の中絶(3)

初期中絶の「経済的理由」も形だけ

初期中絶も同様である。日本では「経済的理由」が中絶の圧倒的多数を占めている(99%)と言われている。しかし、厚生省が2006年9月25日付の厚生事務次官通知 で示した「経済的理由」の範囲は、以下の通り、非常に厳格で狭いものだった。

人工妊娠中絶の対象
(1) 法第14条第1項第1号の「経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」とは、妊娠を継続し、又は分娩することがその者の世帯の生活に重大な経済的支障を及ぼし、その結果母体の健康が著しく害されるおそれのある場合をいうものであること。
従って、現に生活保護法の適用を受けている者(生活扶助を受けている場合はもちろん、医療扶助だけを受けている場合を含む。以下同じ。)が妊娠した場合又は現に生活保護法の適用は受けていないが、妊娠又は分娩によって生活が著しく困窮し、生活保護法の適用を受けるに至るような場合は、通常これに当たるものであること。

この通達に従うならば、現に生活保護を受けているか、妊娠・分娩の結果、生活保護適用を受ける事態に陥る人しか「経済的理由」には該当しないことになる。しかしこの認定は簡単ではない。『指定医師必携』 の中でも、「現に生活扶助、医療扶助を受けている場合」は明らかに認定できるが、「妊娠又は分娩によって生活が著しく困窮し、生活保護法の適用を受けるに至るような場合」については「正確に判定することは困難である」と認めている。だが実際には、この困難を乗り越えて「経済的理由」を用い、中絶を実施しているのは当の指定医師たちである。
こうやって見直してみると、妊娠の初期についても、中期についても「指定医師」が合法的な中絶のゲートキーパーの役目を果たしているとは思いがたい。むしろ優生保護法制定時からある「指定医師制度」は、一部の医師たちに中絶業務を独占する特権を与えてきた。そのために、中絶医療をはじめとするリプロダクティブ・ヘルスケアの改善を抑制し、女性たちのリプロダクティブ・ヘルス&ライツを押さえる負のゲートキーパーの役目を果たしてきたのではないだろうか。