リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

アイルランド:厳格な中絶法は女性の権利侵害 国連が裁定

アムネスティから2016年、2017年のニュース2本

アイルランド:アイルランドの中絶禁止に国連が画期的判断 : アムネスティ日本 AMNESTY

2016年6月14日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:アイルランド
トピック:女性の権利
 国連人権委員会は6月9日、致命的な障がいがある胎児の中絶も禁止し犯罪とするアイルランドの法律を非難する画期的な裁定をくだした。この判断は、同国を問わず女性の権利を促進するものだ。
 同委員会は、アマンダ・メレさんが胎児に致命的な障がいがあるにも関わらず中絶を拒否された背景である同国の中絶禁止法は、メレさんの人権を侵害するものであるとの裁定をくだした。
 2011年、自分の胎児に致命的な異常があることを知らされたメレさんは、妊娠を続けることができないと判断し、医師に中絶を求めた。しかし、国内法がほぼ全面的に中絶を禁止しているため、彼女はイギリスで中絶を受けざるを得なかった。
 この事態を受け、性と生殖に関する権利センターが2013年11月、メレさんにかわり国連人権委員会に訴えていた。
 国連機関が、一国の中絶を禁止し犯罪とする法律を人権侵害とみなしたのはこれが初めてである。
 国連委員会は、アイルランドの中絶禁止法は、メレさんを残酷で非人道的で劣悪な医療と、差別にさらし、市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約)に違反すると判断した。また、同国がメレさんに「重大な肉体的および精神的苦痛」を与え、プライバシーを守る権利に違反したとした。さらに自主的な中絶を規定する法律の改正を求め、また自由権規約に準拠する上で必要ならば憲法も改正して、安心できる方法と時期に中絶が行えるようにし、医療機関は法律違反を恐れることなく安全な中絶についての情報を十分に提供できるようにすることを求めた。
 アイルランドは、現実を直視し、この問題に取り組むべきである。市民は変化を求めている。直近のアンケートでは、87%が中絶の規制緩和を求めている。つまり、大多数が、ほぼ全面的に中絶を禁止する法律が、残酷で非人道的で差別的であるとみなしている。今回の国連の決定は、市民の意見が正しかったことを示した。
 国連人権委員会は、個人から国に対する申し立てを聞き、自由権規約に抵触するかどうかを判断することができる。


アムネスティ国際ニュース
2016年6月9日


アイルランド:厳格な中絶法は女性の権利侵害 国連が裁定 : アムネスティ日本 AMNESTY

2017年6月20日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:アイルランド
トピック:女性の権利
国連自由権規約委員会は6月13日、アイルランドの中絶法は女性の人権を侵害するとの裁定を下し、当国に再度、ただちに法改正に取り組む必要を促した。


 国連が同国の中絶法が国際的な人権擁護の義務から大きく外れていると判断したのは、この1年で2度目である。

 法律で中絶を犯罪としているため、深刻な人権侵害が起きる。UNHRCによると、ショバン・ウェーランズさんは、深刻な精神的苦痛を受けた。屈辱を味わい、犯罪者扱いされた。彼女の苦しみは、必要な情報を得ようとして壁が立ちはだかったことや、医療関係者が義務を果たさず、明快で具体的な説明をしなかったことで、さらに大きくなった。

 自由権規約委員会は、中絶法はウェーランズさんの人権を侵害したと判断した。人権には、残酷、非人道的、品位を傷つける行為を受けない権利やプライバシーの権利が含まれている。

 委員会は2016年6月にも、アマンダ・メレットさんのケースで同様の判断を下している。胎児に致命的な異常があると診断されたにもかかわらず、中絶を拒否されたメレットさんに対して、国が賠償金とカウンセリングを提供するよう勧告した。2016年11月、政府はその勧告に同意した。

 市民フォーラムは、妊娠初期には希望にもとづく中絶を、妊娠後期にはさまざまな状況を考慮した上での中絶を認めるよう勧告した。勧告は、国際人権法の最低要件を満たしており、すべての女性に、法的にも事実上も必要な時期に安全な中絶措置を受けられることを保障するものである。

 今回の裁定の数週間前には、中絶法などさまざまな課題を検討するために政府が開催した市民フォーラムで、胎児には母親と同じ生きる権利があるとする憲法の第8修正条項は問題だとして、この条項を憲法から除外することが勧告された。憲法の条項は、国民投票によってのみ廃止することができる。

 法律で中絶が禁止されているため、毎年何千人もの女性が国外での中絶措置を余儀なくされ、犯罪者扱いされるなどの屈辱を味わう。

 アイルランド市民の大多数は、人工妊娠中絶がほぼ全面的に禁止されているのは、残酷、非人道的で差別的だと考えている。

 政府は裁定を重んじ、国民投票で第8修正条項の是非を問うことで女性の権利を尊重しなければならない。


背景情報
 アムネスティアイルランド支部が2016年に独自に実施した世論調査では、回答者の80パーセントは女性や少女に妊娠中絶を受ける権利があると考え、87パーセントは、中絶を受ける機会の拡大に賛成している。
アムネスティ国際ニュース 2017年6月13日