リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「中絶禁止」を容認した米最高裁、その判断が“女性と家族の未来”に及ぼす深刻な影響

MARYN MCKENNA, SCIENCE WIRED 2022.06.25

wired.jp

以下、冒頭から少し紹介する。

米連邦最高裁は6月24日(米国時間)、人工妊娠中絶を認めた1973年の「ロー対ウェイド事件」の判決を覆し、中絶の権利は憲法上のものではないとする判断を下した。これにより、米国の各州が中絶の権利を認めるかどうか決められるようになる。今回の「ドブス対ジャクソン女性健康機構事件(ドブス事件)」の判断で、「胎児が子宮外で生きられるようになる前までなら中絶は認められる」とした判断がひっくり返ったわけだ。

「合衆国憲法は“中絶する権利”を与えていない。ロー判決とケイシー判決での判断は覆され、中絶を規制するかどうかの権限は、国民と、国民に選出された議員たちの元に戻される」と、サミュエル・アリート判事は多数派意見として判断を示している。判決は6対3で、リベラル派の3人の裁判官が反対した。

今回の判断の草案が5月にリークされた時点で予期されていたことではあるが、ロー判決が覆ったことで中絶を自動的に禁止する「トリガー法」の導入が13の州で開始される。そうなると、ロー判決によってもたらされた約50年にわたる米国の女性の暮らしのあり方に、大きな変化が訪れることになる。

「中絶する権利」が覆されたことの意味
中絶の権利が認められるようになった1970年代初頭以降、米国女性の婚姻率はそれまでの半分になり、女性の大学卒業率は4倍になった。子どもを産まない女性の数は2倍以上になり、子育てを理由に仕事を辞める女性の数は半分になったのである。

つまり、約50年にわたって合法的なつ安全なかたちで中絶できたおかげで、女性は自分の人生を変えるような選択ができたのだ。ロー判決が覆されたいま、そのような選択肢や進路は実現しなくなるかもしれない。
ーー後略ーー

有名なターナウェイ(ターン・アウェイ=追い返すの意味)調査に言及しているところを引用する。

 「中絶を求める人の大多数は、すでに少なくともひとりの子どもがいて、多くは人生の後半にも子どもをもつことになる人たちなのです」と、リンドは言う。「母親が中絶できない場合、これらの子どもたちはより不利な家庭環境で育つことになります。不利な家庭環境で育つと、経済面でも教育面でも結果を出しづらくなります。投獄率も高くなり、社会支援プログラムへの依存も高まることを、さまざまな文献が示しているのです」

 これは単なる推測ではない。望まない妊娠をした女性たち1,000人を08年から5年かけて追跡調査した「ターナウェイ研究」と呼ばれる画期的なプロジェクトの結果からも、明らかになっている。

 この調査に参加したのは、全員が中絶を希望した人たちだ。しかし、中絶手術を受けた人たちと、州によって定められた中絶可能期間を過ぎていたことで「追い返され」て出産した女性たちがいる。

 中絶手術を受けられなかった女性は、中絶した女性に比べて世帯収入が連邦政府の貧困ラインを下回る可能性が4倍、失業する可能性が3倍、中絶した女性に比べて高かった。また、破産を申請したり家賃滞納で退去させられたりする率も高く、信用度が低いことで負債が多く、交通費や食料などの必需品を購入する経済的な余裕もなかった。

 また、不安定なパートナーや暴力的なパートナーと一緒にいる可能性が高く、シングルマザーとして生活している割合も高かった。そして、その子どもたち(望まない妊娠をした子どもと、その前後に生まれた子どもの両方)は、連邦政府の定めた貧困ライン以下で生活する可能性が3倍高くなっていた。バージニア大学法学部教授で家族法センターの共同ディレクターであるナオミ・R・カーンは、「望まない妊娠で生まれた子どもたちの影響は、世代を超えてインパクトをもつのです」と語る。