リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ドイツにおける遠隔医療による内科的中絶の自己管理

WHO2023年3月6日 ドイツの「自宅施中絶」プロジェクト 続報

Self-management of medical abortion via telemedicine in Germany

仮訳します。

 妊娠初期の12週間であれば、内科的中絶は医療施設以外、例えば自宅などで安全かつ効果的に自己管理することが可能である。WHOは、いくつかの質の高い中絶ケアの選択肢の一つとして、薬による中絶の自己管理を推奨している。ただし、正確な情報、品質が保証された薬、必要であれば訓練を受けた保健ワーカーによるサポートが受けられることが条件である。内科的中絶の自己管理は、WHOが推奨する健康のためのセルフケア介入のひとつになっている。

 COVID-19は世界中の医療システムに大きな混乱をもたらしたが、その困難とともに、安全な中絶ケアを含む医療を安全に提供する革新的で異なる方法も誕生している。

 ドイツでは、内科的中絶の自己管理を支援するための遠隔医療がその革新のひとつになった。


「自宅で中絶」プロジェクト
 ドイツでは、妊娠12週目まで、またそれ以降も状況によっては、妊娠中絶が法的に認められている。しかし、カウンセリングは必須である。ドイツの法律では、十分な数の中絶施設がなければならないと規定されているが、国内の多くの地域では現実にはそうなっておらず、安全な中絶治療を求める女性はしばしば長距離を移動しなければならない。

 パンデミック中に始まったイギリスでの遠隔医療プロジェクトの成功に学び、WHOの最新のエビデンスに基づく勧告に支えられて、ベルリンの家族計画センターBALANCEは、Doctors for Choice GermanyおよびPro-familiaと提携して、2020年12月に遠隔医療プロジェクトを導入した。

 その目的は、安全な中絶ケアへのアクセスを改善し、ドイツにおける内科的中絶の自己管理のための遠隔医療の実現可能性を実証することであった。

 「BALANCEでは、数年前に内科的中絶の遠隔医療をドイツで導入することを考えましたが、どのように受け入れられるかわかりませんでした」とSchwangerschaftsabbruch-zuhauseの創設者の一人であるヤナ・マイファート博士は言う。「その後、パンデミックが発生し、私たちはそれが非常に必要とされていることに気づきました。BALANCEのスタッフは、3人の医師、1人の看護師、1人の医療助手という、やる気に満ちた5人の女性のみでした」。

 ドイツの法律に従い、プロジェクトは次のように構成された:

 BALANCEは、顧客とのテレビ会議を通じて、内科的中絶の自己管理のすべての側面を監督した。
ドクターズ・フォー・チョイス・ジャーマニーの遠隔医療と内科的中絶に関する情報はこちら:www.schwangerschaftsabbruch-zuhause.de


 プロファミリアを始めとする他のグループが、カウンセリングセンターを通じて、BALANCEの遠隔医療オプションが利用可能であることを広めた。


プロジェクトの仕組み
 遠隔医療の選択肢は、プロファミリア、他のカウンセリングセンター、ウェブサイトを通じて広報された。
 中絶を希望する顧客は、電話やEメールでBALANCEに連絡する。そのうちの半数以上(56%)が、内科的中絶の遠隔治療を選択した。その後、データ安全なチャット機能を通じて、詳細な情報とすべての必要書類が送られた。
 BALANCEの医師が顧客にビデオ電話をかけ、その処置がどのようなものかを理解していることを確認し、家族や友人からの精神的その他のサポートが必要だと勧めた。
 その後、クライアントが必要書類を確認して返送すると、妊娠を終わらせるために必要な薬が郵送されてくる仕組みだ。薬が届くと、2回目のビデオ通話ですべてを確認し、医師が最初の薬(ミフェプリストン)を服用するのを見守った。そして、2日後に2回目の薬(ミソプロストール)を服用する。このときは、電話連絡はなかったが、パートナーや友人と一緒に服用した。年中無休の電話ヘルプライン番号も利用することができた。
 14~16日後、中絶が成功したかどうかを確認するために、依頼者は低感度妊娠検査を受けた。100件中2件がそうであったように、うまくいかなかった場合は、さらにビデオ通話があり、再度薬を服用すべきか、それとも内科的中絶を受けるべきかについて話し合われた。
 最初の接触から、クライアントはデータ保護されたチャットや24時間対応の緊急電話番号にいつでもアクセスできた。また、6ヶ国語に対応しており、よくある質問リストが充実しているた無料アプリ「Medabb」を利用することもできた。現在までに、このプロジェクトを利用した人は約320人に上っている。

 「私のカウンセラーは、私の選択肢について話してくれたし、遠隔医療についても触れていました。私にとっては最善の選択肢でした。ベルリンの診療所への連絡はとても迅速で、ケアもとてもよかったです」とあるクライアントは説明した。「遠隔医療サポートの間、特に医師とビデオで会話した後は、とてもよくサポートされていると感じました。医師と看護師は、オンコール電話とアプリで24時間365日対応してくれました。何が起こりうるか、どのように感じるか、いつ婦人科クリニックや緊急治療室に行くべきか、とてもわかりやすく説明してくれました」。

 内科的中絶の自己管理と遠隔医療の実現可能性を実証したこのプロジェクトは、今やBALANCEが提供する安全な中絶サービスの不可欠な一部となっている。次の段階として、ドイツの医師たちは自分たちの経験を共有し、ドイツの他の診療所に能力開発を提供している。ベルリンのクリニックであるGyn-Praxis Novaは、最近、内科的中絶遠隔医療を導入し、ドイツ全土の他のクリニックもすぐにこれに続くと予想されている。

 しかし、BALANCEの経験から学んでいるのはドイツの医師だけではない。


WHOが学習交流を促進
 WHOの欧州事務局は、ヨーロッパと中央アジアの他の国々にもドイツの経験から学んでもらいたいと考え、さまざまな学習交流活動を促進している。例えば、WHOが主催したウェビナーでは、BALANCEの保健ワーカーが、ルーマニアカザフスタンタジキスタンキルギスタンなど、欧州地域の他国の保健省職員などが交流した。

 BALANCEがWHOのガイダンスやツールに沿って提供した重要なメッセージは、プロジェクト期間中に行われたステップの概要と同様、以下の通りである:

  • 遠隔医療は、デジタル医療技術を利用して内科的中絶の自己管理へのアクセスを増やす安全で効果的な方法である。
  • 所得水準に関係なく、低所得国、中所得国、高所得国のすべての国でうまく機能するモデルである。
  • 費用対効果の高いアプローチであり、患者にとっても医療システムにとってもコストを削減することができます。
  • WHOが促進した学習交流は、すでにルーマニア中央アジアのいくつかの国々で遠隔医療と内科的中絶についてのさらなる議論につながっている。