リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

医会: 研修ノート No.99 流産のすべて (平成29年=2017年)

流産のすべての目次・序・序章・3.早期人工流産(以下,妊娠12 週未満の人工妊娠中絶)について・

No.99 流産のすべて – 日本産婦人科医会
目次は以下の通り

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Ⅰ.序章
序章
Ⅱ.流産の原因
1.総論
2.染色体異常
3.内分泌異常
4.免疫学的異常
5.子宮疾患
6.内科的合併症
Ⅲ.流産の処置
1.早期流産の処置方法の選択
3.早期人工流産(以下,妊娠12 週未満の人工妊娠中絶)について
2.早期流産に対するインフォームドコンセントの注意点
4. 妊娠12 週未満の人工妊娠中絶手術による合併症(日本産婦人科医会調 査結果より)
5.後期流産の処置
6.子宮頸管拡張
Ⅳ.流産のリスク因子とハイリスク症例への対応
1.リスク因子
2.ハイリスク症例への対応
3.絨毛膜下血腫/ 感染性流産による流産
Ⅴ. 不育症専門医より一般産婦人科医に知ってもらいたい不育症のトピックス
1.生化学的妊娠(Biochemical pregnancy)の扱い方
2.低用量アスピリン療法の適応について
3.ヘパリン療法の使用について
4. 流死産絨毛・胎児組織(POC:product of conception)染色体検査 (POC 検査)
5.愛護的ケア(TLC:Tender loving care)(表21 ~ 27)
Ⅵ.妊娠維持機構/ 流産に関連するトピックス
妊娠維持機構/ 流産に関連するトピックス


序 – 日本産婦人科医会


 早期流産の発生頻度は,15~20 %と報告されている.近年,初婚年齢が上昇し,やっと妊娠しても流産になることが多いだけに,日常診療では,流産頻度が20 年30 年前より,明らかに増えている印象さえある.それは,単に妊婦の高齢化によるものか,他に地球環境の変化によるものかは不明であるが,解明は今後の課題である.臨床の現場では,妊娠初期に,妊娠反応は陽性であっても出血が続く症例で,胎囊が子宮腔内に認められない場合は,流産か異所性妊娠かの鑑別診断は,いつの時代も問題となる.その場合の,経過観察の仕方と,異所性妊娠ではないことの確認に関して,本書に示す典型的所見を組み合わせながら注意深い観察が不可欠である.
 また,妊娠22 週未満までに胎児死亡が確認されれば,後期流産と診断して,妊娠を終了する方向で対応する.問題は,妊娠22 週以前に,胎児心拍は正常に拍動しているが破水した症例の対応である.以前は,このように破水した場合は,その場で流産であると診断したが,今日では,感染の治療とコントロールが可能な場合が多く,経過観察して22 週以降まで生存させることが可能となった.しかし,早期早産となることが多いだけに,児の長期予後に関して,いまだに問題がないとは言えない.
 このような場面での臨床的判断は,担当の産婦人科医と新生児科医とのチームで総合的に判断し,妊婦と夫には正確な情報を伝え,医師の方針に関して,2 人の了解と同意を得たうえで,対応することが求められる.
 このように,流産は,初期であれ後期であれ,妊婦の予後と,新生児の予後に関係することもある重要な疾患である.
 本書では,そのような観点から,我々産婦人科医が流産をどう考え,どう管理すべきかを,臨床経験の豊富な先生方に解説いただいた.若手の先生方の流産管理の参考としていただきたい.
 ご執筆いただいた諸先生方には深甚なる謝意を表したい.また,執筆・校正・編集などにご尽力いただいた研修委員会の先生方,医会役員の諸君に深く感謝する次第である.平成29 年12 月 会長 木下勝之


序章 – 日本産婦人科医会
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序章
 流産は妊娠22 週未満での妊娠中絶,すなわち胎児を娩出すること,または子宮内で発育せず心拍の見えない状態を示す.妊婦の高年齢化と共に流産率は上昇傾向となってきている.
 早期流産の処置に関しても,以前は子宮内容が残らないようにキュレットを全周的に行い,ざらざらした感覚(Muskel Geraüsch)を触知するよう指導を受けたが,子宮頸管拡張後,胎盤鉗子とキュレットを用いて行う胎盤鉗子法(dilatation and curettage:D & C)から,子宮カニューレと吸引器を用いる吸引法(suction curettage),カニューレを挿入し,アスピレーターを取り付け,圧を開放し子宮内容を摘出する(MVA:Manual Vacuum Aspiration)が,子宮腔癒着や子宮内膜の菲薄化を防ぐ意味でWHO では推奨されるようになった.また感染性流産でなければ早期自然流産は自然排出か子宮内容除去術かの選択肢を説明し患者に選択してもらうインフォームド・ディシジョンを得る必要性が求められようになった.子宮頸管拡張法においてもコンブ科の海藻の茎根部を原材料としたラミナリアが品薄になったこともあり,他の合成素材から作られた拡張剤の使用法,注意点を知る必要がある.
 後期流産に関しても,書類や手続き,児の扱いの再確認と,使用する薬剤・合併症についての対応,理解が必要と考えられる.
 反復流産・習慣流産においても原因はさまざまであり,流産の週数により染色体異常の確率が高いのか他の要因の可能性が高いのかを推測でき,種々の原因を検査し,抗リン脂質抗体症候群と診断するにも,不育症患者の検査値(カルジオリピン抗体およびループスアンチコアグラント)が他の疾患の値と異なることが示されており,安易な低用量アスピリン投与を行わないよう注意する必要がある.
 このように,流産という最も頻繁に遭遇する産科疾患に対して大きな変化を認識していただくよう,今回のテーマを選択した.