リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日本の賃金を考える

公益社団法人東京自治研究センター研究員 野村まゆみさんの記事

日本の賃金を考える
一部抜粋で紹介します。読み応えがあります!

 国税庁が 2022 年 11 月 24 日に発表した「民間給与実態統計調査」では、2021 年度の給与所得者の平均年収は 443 万円で、ピークだった 1997 年度の 467 万円より 24 万円低く、平均年齢は 46.9 歳でした。
 しかし、443 万円というのは、あくまで平均値であり、中央値は思いのほか低くなっています。年収の分布で見ると、「300 万円超 400 万円以下」が最も多く全体の 17.4%を占め、「200 万円超 300 円万円以下」も14.8%と 3 番目に多く、実に 3 人に 1 人が 200 万円~400 万円収入となっており、この傾向は何年も続いています。
 また、1994 年と 2019 年の 25 年間の日本人の所得構造を比較した「内閣府のリポート」(2022 年 3 月発表)では、年収から所得税社会保険料を引いた年間所得は、1994 年では「400 万円以上 500 万円未満」の世帯が最も多く(全体の 13.7%)、そこを頂点になだらかな山を形成し、「300~600 万円未満」の中間層が日本経済を支えていたことが分かります。
 ところが、2019 年になると「200 万円以上 300 万円未満」の世帯が18.6%と最多で、山の形も急峻となっており、「100 万円~400 万円未満」に所得分布が下方に移動しています。
 これについて内閣府の幹部は、「高齢化で、年金収入に頼る世帯が増えたため」と説明していますが、世代別の所得分布を見ると別の要因も想像されてきます。
 例えば、世帯主が働き盛りの「45~54 歳」の世帯の所得で比較すると、1994 年は「600 万円以上 700 万円未満」が全体の 14.7%と最も多かったのですが、2019 年は「400 万円以上 500 万円未満」が最多(全体の 13.5%)となっています。
 これは、ひとつは日本経済が世界の競争力の中で稼ぐ力が低下し、所得が減少したこと、もう一つはこの間ずっと言われ続けてきた、アルバイトや派遣など非正規雇用が増加したことだと思われます。
  同じく取得の比較を「35~44 歳」の世帯で見ると、1994 年は「500万円以上 600 万円未満」が全体の 21.5%と最も多かったのですが、2019年ではこの年代の世帯に、就職氷河期世代(1993 年~2004 年頃に社会
人になった世代)が含まれていることもあり、「400 万円以上 500 万円
未満」が全体の 19.0%と最多になっています。
  さらに国際比較で見てみると、日本の賃金の低迷ぶりは驚くべきものとなっています。
  国民の平均年収の推移を比較した、経済協力開発機構OECD)の 2019年の統計(1 ドル=135 円で換算)によると、1994 年の日本の平均年収は 504 万円、2019 年は 518 万円で上昇率は 2.8%となっています。
 しかし、同じく 1994 年と 2019 年を他国で見てみると、アメリカは672 万円→929 万円で上昇率 38.2%、イギリスは 473 万円→658 万円で上昇率 38.9%、フランスでも上昇率は 30.6%で 2019 年は 658 万円、また 1994 年時点では 360 万円と日本を下回っていた韓国も、2013 年に日本を抜き、2019 年は 599 万円に上昇し、日本より 81 万円も多くなっています。
 では、なぜこの様なことになったのでしょうか?
 最近、非正規労働者が増えるきっかけになったと言われている、日経連(現・経団連)が 1995 年にまとめた報告書「新時代の日本的経営」がクローズアップされています。
 この報告書では、人件費を抑えることを目的に 3 種類の雇用(正社員に当たる「長期蓄積能力活用型」、専門能力を生かす「高度専門能力活用型」に加えて、現在の非正規労働者に当たる「雇用柔軟型」を設定)を組み合わせる「雇用ポートフォリオ」の導入を企業に促し、終身雇用や年功序列を中心とする日本的雇用の見直しを提言しています。
 公表後、非正規労働者は増え続け、総務省の「労働力調査」では、1995 年は 1,100 万人と雇用者の 20.9%だったのが 2022 年には 2,101万人(同 36.9%)となっています。
 一方、この期間に正規は 191 万人減り、非正規は 1,000 万人以上も増えて雇用者の 4 割近くに達しています。
 当時の報告書作成者は、「元々、正規の賃金を 2~3 割引き下げることを意図したが明記できず、景気が好転すれば経営者が非正規を正規として雇用する復元が起きると思っていた」と証言していますが、今となってはまさしく too late です。
  私はこの報告書の存在を知って、コラムの冒頭に書いた「日本の賃金が長期停滞しているは単に非正規雇用の増加だけ?」という疑問の答えがストンと腑に落ちた気がしました。
 ここで、多くの経営者が、やがて日本全体が、本来従業員やその家族、そして取引先も含めた生活を守る責務、つまりは「人の大切さ」を切り落としたのでしょう。
 大げさに言うと、ここに日本が太平洋戦争に突入し、多くの国民の命を切り捨ててきたあの体質の影が見えてしまうのは私だけでしょうか?
 そしてその後は、2008 年のリーマンショックもあり、経営者のみならず日本全体に、生き残るためにお金だけを貯めて、人間を育てる大切さを忘れて使い捨てにしてしまう社会が蔓延してしまったのではないでしょうか。
 その結果、安倍政権の暴走を許し、さらに非正規を増やし、残業代0の働き方を広げ、長期にわたり「ベアゼロ」を続けて今に至ってしまったように思います。
 では、かつて「ジャパンアズナンバーワン」と言われた経済大国日本が、なぜ物価も賃金も安い国になってしまったのでしょうか。
 それは、経営者が一番の強みだった品質の高さや技術で競うことやめ、価格競争に走り、「安い商品」や「安いサービス」、そしてそれを提供するための「安い労働力」をひたすら追い求めた結果ではないでしょうか。
また、その状況を黙認してきた労働組合にも責任があります。
 非正規が増大した時、なぜきちんと「同じ働く仲間」として組織化して来なかったのでしょうか。ここに私は、ある意味経営者側の体質に近い、正規中心の驕りや非正規への差別の臭いを感じます。これは、未だに「非正規の待遇を良くすると、我々正規の労働条件が下がってしまうから、積極的には組織化しない」と公言している労働組合の役員がいることからも明らかです。
 そして私たち国民も、賃金は上がらなくてもあまりに長く続いたデフレ下で「何でも安く手に入り、物価は上がらないもの」という固定観念を持ち続けてしまったため、その本質に気づけなかったという問題もあります。