リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

超早期の中絶とは呼ばれない処置

来年の3月にオランダ調査に行くことになり,準備を進めています。現地のドクターとメールをやりとりしたりするだけでも,いろいろ違いに気付かされるわけですが,その一つが「オーバータイム・トリートメント」――直訳するなら「延長処置」とか「超過時間処置」とでもなるでしょうか――という概念です。何の超過かといえば,どうも「避妊」の延長線上で捉えられているように思われます。

Overtime treatmentとはオランダ独特の概念らしく,1977年のものですが非常に早期の(very early)誘発流産(induced abortion)と併記したオランダ語の論文が見られます。一方,オランダ人Dr. Rebecca Gonpertsが主催しているWomen on Wavesにも船上でovertime treatmentを行うという記述がみられます。

手動吸引器で子宮内をからにする方法で,かつてアメリカでミニ・アボーションなどと言われたものと変わらないようです。少なくともオランダでは,この「オーバータイム・トリートメント」は「中絶」とは別物扱いで,もっと軽い処置と受け止められているようなのです。そこらへんは,現地でしっかり調べてきますが・・・。

上記の1977年の論文(著者はWibaut FP)の英文で書かれた概要のコピーが出てきたので,それによれば,通常の周期で月経が来るはずだった日から14日目まで行われる「月経調節」であり,一般的に未麻酔で,4〜6ミリメートルのカーマン式カテーテルを用いた真空吸引で子宮内容物を外に出す。これはルイス・メソッドと呼ばれる方法だそうです。この論文には,「14日間では通常,標準的な妊娠検査で信頼のおける結果が出ないので,実際には妊娠していない人もこの処置を受けることになる」と書いてあるけど,妊娠検査薬の制度と早期化が進んだ現在ではその心配はありません。ついでに,あくまでも当時のことですが,「月経調節と拡張や“古典的な”掻把を伴う真空吸引と比較すると,月経調節の患者の方が合併症の率が明らかに低い」とされています。

1970年代の時点で掻把(curettage)を持ち出すには,わざわざ古典的な(classical)という形容詞が必要だったというところも目を引きます。

このブログをずっと読んでくださっている方々には繰り返しになるかもしれませんが,2012年のWHOの文書では,この掻把(curettage)を用いた拡張掻把法(D&C)は"obsolete"と表現されました。「廃れた」とか「時代遅れの」といった意味であり,実際,WHOはD&Cを「廃止すべきだ」と考えているんですね。

にも関わらず,いまだに日本の産婦人科医の多くが掻把法を用いているという実態。変えていかねばなりません。