リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ありえない日本の中絶事情

法改正は必須です! 日本の中絶のありかたのおかしさを知って声をあげてほしい!

 日本では戦後の優生保護法(1948年)で条件付きながら中絶が合法化された。当時の欧米諸国のほとんどで中絶はまだ違法だったので、日本の医師たちは独自で工夫する必要に迫られ、明治時代にドイツから入ってきた「搔爬」を伴う外科的手術を採用し、研さんを積んだ。当時、「優生保護指定医師」しか中絶を執り行えないように決めたのは、この中絶手術が危険視されていたためだと思われる。産婦人科医の中でも特別の訓練を受けた者でなければ安全に行えないと考えられていたようだ。
 1967年のイギリスから欧米の中絶合法化が始まり、アメリカは1973年の最高裁判決(ロー判決)で中絶を合法化した(今回、覆されたのはこの時の判決)。欧米の医師たちは中絶が禁止されていた時代に、違法の堕胎師による搔爬で子宮に穴を開けられたり、感染したりして運び込まれる人々を見ていたので、中絶が合法化された時にこの方法(搔爬=D&C)を使おうとは考えず、吸引機に飛びついた。しかし、子宮に挿し込むカニューレと呼ばれる道具が金属製では、D&Cと同じような事故が起きやすいと考えて、何か良い方法はないかと血眼になって探した。その結果、カリフォルニアで違法の堕胎を手掛けていたハーヴィ・カーマンの考案したフレキシブルなプラスチック製の「カーマン式カニューレ」に白羽の矢が立ち、またたくまに合法化した国々に広まったとされる。
 この頃、日本でも一部の医師は吸引法を導入したが、ほとんどの指定医師たちは吸引との比較調査も行わないまま、「慣れた方法のほうが安全」とうそぶいて搔爬を使い続けたたようだ。今も日本の初期中絶の6割で搔爬が使われているという。
 海外では、コロナ禍を機にオンライン診療で処方された薬を自宅に送ってもらい、自分で服用する「自己管理中絶」が推奨されるようになった。しかし日本では、母体保護法が邪魔をして自宅で服用できないのではないかと懸念する声も上がっている。中絶薬へのアクセスを高めるためには、中絶を行う権限を独占している「母体保護法指定医師」の制度を見直す必要がある。しかも「指定医師」たちは、このたび日本に導入されようとしている中絶薬について、入院施設のある施設で厳重な監視下で服用させ、料金は従来の手術同様10万円程度にするとまで言っている。
 なお、中絶薬ミフェプリストン+ミソプロストールは、WHOの必須医薬品コアリストに入っている。コアリスト入りする薬は、医療者の監視下でなくとも安全に使うことが可能で、しかも効果が高いのにコストが安いことが条件になっている。入院をして10万円だなどという扱いにしては、この優れた薬をせっかく導入する意味が半分以上消える。

 そもそも中絶やお産を「自由診療」扱いにしていることからして見直すべきだ。一見、妊産婦の負担を補てんしているように見える「出産育児一時金」も、激減する出産数で報酬が減った医師たちが、自院の経営を維持するために自由診療の出産料金を吊り上げては一時金の増額を求めるイタチごっこをした結果、どんどん高額になってしまった(制度ができた1994年には30万円だったが現在42万円で、与党は選挙時に値上げを公約していた)。
 しかも、出産育児一時金は妊娠12週以降の死産や人工妊娠中絶にも支払われる。そのため、お金がない人は妊娠12週以降まで待たせて中絶を行い、「出産一時金」を着服する医師がいることが昨年「中絶ビジネス」として問題になった。中絶は自由診療なので、たとえば妊娠12週までの中絶を20万円に、12週を過ぎると5万円に設定しておけば、金のない人々は12週以降まで待つ方向に誘導され、医師には出産育児一時金が入るので儲けになるというわけだ。本来、中絶は妊娠週数が早ければ早いほど安全なので、「待たせる」こと自体が医師としての倫理に反しているのは言うまでもない。また、女性しか罪に問われる可能性のない自己堕胎が法に定められていること自体、女性差別であると国連女性差別撤廃委員会から指摘されていながら、日本政府は法改正を検討すらしていないのは、完璧な人権侵害である。